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斯くして彼は異能となった  作者: 後藤秀之真
首無しライダー
134/208

落葉

年末年始多忙の為更新滞っております

いつも感想有難う御座います

ですが返すのは年明けになりそうです申し訳ないです

曇天から、湿り気の多い雪が舞いだした。

雨に近いソレは朽ちたアスファルトに、黒い染みを残し始める。

智彦は首狩り峠の先……ゴールへと視線を移し、眼を細めた。



(距離はどの位だろう……、まぁ並走すれば問題無いか)



バイクを降り、首無しライダーの横へと並ぶ智彦。

冷たい風に乗ってヤジが聞こえてくるが、文字通りどこ吹く風だ。


(……首から上は無いけど、感情はあるんだな)


首無しライダーから、戸惑いが伝わってくる。

それに対し智彦は不敵に笑い、煽るように答えた。


「大丈夫、お前なんかバイクに乗らずとも、普通に走って勝てるよ」


感情は戸惑いから、激高へ。

首無しライダーの首の断面から溢れる冷気が増え、智彦の足元が白く染まり始めた。


怪異なのに感情が豊かだな、と。

智彦は腰を落とし、クラウチングスタートの様相となる。


同時に、首無しライダーもその挑戦を受け取り、意識を前へと向けたようだ。

二匹の間で、無言の応酬が始まる。



「馬鹿かてめえ!」

「くだらねぇ!その場で轢き殺されろ!」

「つまんねー、もう私帰るわ」

「んだよ!賭けにすらならねーじゃねーか!」



二匹の空気を無視して、ヤジは激しくなる一方だ。

智彦を見守る上村達は、それに対し怒っ……てはなく、むしろ、可笑しそうに口角を上げていた。

その様子に、勇気と康代は混乱してしまう。


「な、なんでそんな楽しそうなんだい?」

「えと、貴方達の友達が馬鹿にされてるのよ?」


と、口では言うものの。

バイク相手に走って勝てるか。

最初から勝負を放棄してるのか。

負けた時の言い訳にするんじゃないのか。

そもそも正気なのか?

勇気と康代の思いも、ヤジと同じようなものであった。


「まぁ、見ていれば解りますぞ。むしろ驚く顔を見るのが楽しみですな」

「……うん。アレはむしろヘルメットでハンデ与えてる方」

「んん?アレそうなのか?あの連中に顔見せないためだと思ったんだが」


今から起こる事は、それこそ新しい都市伝説の誕生レベルだ。

それを撮れたとしてしても、ヘルメットで顔が解らない。

事前に撮られているかもしれないが、走っている時の顔が見えなければ、信憑性を欠いてしまう。

つまり、智彦なりのヤジへの仕返し、と縣は考えていた。


……智彦としては、顔が冷たくないなぁな軽い理由であるのだが。





「っと。ところで、えと、お二方。あの首無しライダーは、知り合いという話、ですが」


道路に並ぶ二匹は、未だスタートしない。

まだ少し時間があると考え、縣は慣れない敬語で、勇気達へと先程の事を尋ねた。

二人は懐かしむように、縣へと言葉を零す。


「あ、あぁ。うん、その、荒れてた時期にお世話になった人でね」

「私達、荒れてた時期があって……、その時、居場所を作ってくれた人なの」


聞くと、二人は所謂不良で、若い頃はやんちゃな事をしていたらしい。

そんな彼らの居場所……チームを纏めていたのが、あの首無しライダーと言う事だ。


「総長はとても強くてね、俺達の憧れだったんだ」

「んで、総長が目標にしていた人の名前がさっき言った、やまたともひこ、だったの」


縣と上村は、内心で首を傾げた。

その総長と言う人物が生きていた時代と、智彦の年齢が合わない。

ならば、同姓同名だろうと考えた……の、だが。

他人が目標にする強さ、と言う点だけがどうしても引っかかるようだ。


もしかして、首無しライダーに殺されたという智彦の父親と関係があるのではないか、と。

様々な可能性も求め出した。



「まぁどんだけ強かろうが、事故って死んで、それまでだったんだけどな」

「まさか首無しライダーになってまで、速さと言うか強さに執着するなんてね」


二人の視線の先には、首無しライダー。

哀愁を感じ取り、縣は何とも困った表情となる。


その首無しライダーは恐らく、いや、間違いなく。

理不尽な目に遭い、本日をもって消滅するはずだ。

そう考えるも資料が欲しい意味合いで、縣は続けて二人へと尋ねる。


「ちなみに、総長さんのお名前は?」

「あー、ごめん。知らないんだ」

「皆して総長、って呼んでいたから、名前はわからないの」

「写真はあるんだけどね。さっきの店内に飾ってあるよ」


有益な情報は、あまり無い。

そもそも縣からすれば、首無しライダーの件は組織内の年長者の管轄だ。

とは言え、飾られた写真や当時の新聞を見ればわかるだろうし、そもそも資料として保管されているだろう。

縣は特に残念な気持ちも抱かず、二人の背後に漂う黒い靄を一瞥。

二人へとお礼を言い、そのまま距離を取った。



「縣氏、あの二人の後ろに黒いのが見えるのですが、アレはなんですかな?」


あぁ、やはり見えているのか、と。

縣は小声で尋ねて来た上村の視線を追う。


「八俣の言う所の執着、って奴だな。昔やんちゃしてたって言うし、恨みを買ってるんだろう」



人を傷つけていた人間が更生しても、傷つけられた側は知った事ではない。


深夜に暴走行為。

恐喝。

暴力。

当人にとっては軽い気持ちの産物であり、昔は荒れていたと青春を懐かしむ程度かも知れない。


だが、もし……もしだ。

暴走行為が元でノイローゼになり、自殺した人が居たら?

恐喝が原因で、人生を左右する場面で資金が無く絶望した人が居たら?

暴力により後遺症が残った結果、将来の夢を諦める事になった人が居たら?


少なくとも、彼らは恨みを持ち、それを晴らそうと執着するはずだ。

そして、対象の生活や健康を、悪影響が蝕んで行く。


「所謂アレだ。天罰とか、呪いって言われる奴だな」

「ほむ、ならばあの秋良と言うご友人は酷い事になりそうですな」

「あぁ、どす黒いからなぁ靄が。まっ、知ったこっちゃないさ」


恐らく、長くは無いだろう。

そう言おうとするも、紗季が鈍い殺意を縣に突き刺した事で、その言葉を飲み込む。

確かにあの禄でもない奴の死に対し、上村に責任を感じさせる事はない。

縣は紗季を睨みながら、浅く頷いた。



(まぁ、金さえ払えばあんな奴でも守るってのが、この仕事のつらい所なんだがな)


そして自身も恨みを持たれる職種だな、と。

縣が息を吐いたその時、エンジンの唸りが轟いた。

寒気にも似た緊張感が広がり、縣は身を震わせてしまう。



「ぅぉ、そろそろか」

「そろそろですぞ」

「……すごい圧」



ヤジを飛ばしていた観衆の半分程は、去った後だ。

だが今まさに帰ろうとする残りも肌のひりつきを覚え、呆然と撮影機器を構えた。




智彦と首無しライダーの目の前に、落ち葉が舞っている。

先程までの風は止み、落ち葉はゆっくりと重力に引かれていく。




ひらり。




はらり。




落ち葉が地面に落ちた、その瞬間。

片方は、爆音を奏で。

片方は、右足でアスファルトを砕き。

同時に、前へと体を射出した。



「おいおい、マジかよ!」

「たはは、流石ですぞ」

「……やる」



首無しライダーの方は、時速100キロ近くは優に出ているだろう。

首からの冷気が、鋭い軌跡を空気に刻んで行く。

悪路やカーブなど、関係無い。

まるで自分がこのテリトリーの支配者だと言わんばかりに、運動の法則を無視して爆走する。


が、その横には。

ヘルメット姿の人間……智彦が、ぴったりと横に並び、走っていた。

そう、走っている、のだ。

ライダーではなく、ランナーで。



上村達は盛り上がるが、その他にとってはとんでもない状況だ。


勇気と、康代。

後、秋良を始めとした観衆は、言葉を出せずに目を見開いている。


一体目の前で何が起きているのか。

もはや呼吸音しか出せずに、一同は喉を乾かせていた。



「……はっ!?きききき、君たち!あ、あれは一体!?」

「もしかしてローラースケート?」

「いやいや康代、それでも無理だ!」


一方、観衆からも戸惑いの声が溢れ出している。


「……は?え?なんじゃありゃ」

「おい!帰ったやつら呼び戻せ!」

「畜生、撮影してなかった!くそっ!」

「ドローン早く出せよ!なんで片付けたんだよ!」


そんな様相に、ほれ言った通りだろう、と。

上村達はどや顔を浮かべ、智彦の疾走を見守った。


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[一言] 智彦としては、顔が冷たくないなぁな軽い理由であるのだが。 ヤジも気にしないか。まぁ、人を越えた存在になってるからなのかそんなので一々苛つかないかね。 人を傷つけていた人間が更生しても、傷つ…
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