936. 指名依頼3
トップダウン!
「アルフレート、お主は独立した一隊の軍として
向かうのだ。
現在、城を囲っている軍に編入させる訳でない。
連携するしないは貴様に任せる」
ここで初めて宰相が話した。
にやにやとした顔つきに誠一はイラっとした。
「ジェイコブ・ジェルミラの討伐は
ヴェルトゥール王国に必要なことかと
私も愚考いたします。
しかし、軍の指揮系統を二手に分けることは、
反対いたします」
誠一は専門的に軍事を学んだ訳でもなく、
実戦豊富でもなかった。
それでも宰相の話が百害あって一利なしであることは、
誠一にも分かった。
「ほう殊勝な口を聞くことだ。
その殊勝な心掛けで南方戦役も望めば良かったもの。
スタンドプレーは、貴様の最も得意とするところだろう」
有無を言わさない迫力と口調に誠一は受けざるを
得なかった。
誠一は受ける旨を伝えると、一礼して部屋を退室した。
無言のまま、誠一は退城をするため歩いた。
表情は強張っていた。王城は、魔窟だった。
賊軍討伐、領土回復を掲げようとも一致団結せずに
国政の主導権争い興じる魔物の住処であった。
この策を弄した人物に思い当たる節はあった。
宰相は渡りに船とばかりにその献策に乗ったのだろう。
宰相の不興を買った覚えはなかったが、
上手く権力の掌握に利用するつもりなのだろうと
判断した。
「アルフレート、待て」
後方から先ほど聞いていた声が聞えた。
話すことはなかった。
少し意固地なように思ったが、誠一は歩みを
止めることはなかった。
「アルフレート、待てと言ったのだぞ」
バリーシャは回り込んで誠一の前に立った。
その動きは軽やかでふわりと風のように
舞っているようだった。
不覚にも誠一は目でバリーシャを追ってしまった。
「何でしょうか?」
「そう不機嫌な態度を取るな。此度は悪かった。
侯爵家、それに公爵家の叔父上、その上、宰相だ。
拒否することできぬ。
適当に周辺を哨戒して、時間を稼げば良い。
いいな死ぬなよ。
まあここだけの話にしておけよ、個人的に
お前の願いを受け入れてやる。それで機嫌を直せ」
誠一はずいっとバリーシャに近づいた。
「何でもでしょうか?」
「そっそうだな、出来る範囲だがな。
絶対に出来る範囲だぞ」
珍しく目が泳ぐバリーシャだった。
「分かりました。
それより宰相を放置しておいていいのでしょうか?」
「くくくっ。目を丸くして、呆然としていたぞ。
久々に面白ものが見れたぞ。
さてと、爺を放置状態にしておくのも気が引ける。
では戻る」
軽やかにバリーシャは来た通路を戻って行った。
誠一は歩きながら、宰相の茫然自失の状態を想像し、
にんまりとしてしまった。
トップダウンは絶対ですわー逆らうと会社にいれなくなります。
『起きるとそこは、森の中。可愛いトラさんが涎を垂らして、こっちをチラ見!もふもふ生活開始の気配(原題.真説・森の獣)』
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