14.授業開始
授業は寝る時間
翌日から誠一は、魔術院の学生として、
講義に参加していた。
初等部の日課であるランニング、負荷の軽い筋トレ、
杖術、20㎏の重りを担いでの悪路歩行、
これらが終わると講義室に戻り、魔術基礎理論、
精神修養、算術、古代語、歴史等々の講義が
日程に則って行われる。
誠一は、既に最初の講義の開始直後から
うとうとしていた。
元の世界に戻る方法を模索するためには
先ずは学ぶことと昨夜、腹をくくったつもりであった。
しかし、朝のトレーニング後に体力の限界を迎え、
何も考えられなくなっていた。
そして、次の講義で安らかな眠りに誘われていた。
「アルフレート君、アルフレート君!起きなさい」
算術の講師が誠一に講壇から呼んでいた。
その声は誠一にとって、睡眠を妨害する敵でしかなかった。
「はああぁーうるさいなぁ、今日はまだ、寝ます」
自分がどこにいるのかも忘れて、
寝ぼけまなこで答えていた。
ぷすり。
誠一は、手の甲に何かかが刺さったような気がした。
「ふゃっぎゃっ」
情けない声を発すると、誠一は、明確に意識を回復した。
何故か手の甲から血が流れていた。
「起きなさい、先生が困っているでしょ」
ダークグリーンの絹のような長い髪が誠一の眼に映った。
そしてその髪の持ち主のダークグリーンの瞳が
誠一を見つめていた。
誠一はその美しさにどきりとしてしまった。
立ち上がり、講師に向かって一礼すると、
「あっ、すみません。
それとリシェーヌさん、ありがとうございます」
誠一はリシェーヌを上から見下ろす形に
なってしまった。
リシェーヌは、日課のトレーニング後のために
身体が熱いためか、少し上着をはだけさせていた。
そして、誠一は、胸の辺りを覗き込んでしまった。
「へっ変態。模擬戦の時も思いましたが、
アルフレートさんは、変態ですね」
両手で胸の辺りを隠して、上目づかいに
蔑む視線を送るリシェーヌだった。
いやいやいやいや、ロリコンじゃないし。
何を言っているこの娘。
少し可愛いからって、自意識過剰じゃね。
心の中で必死に弁明する誠一であった。
心の混乱が身体に出やすいのか、
誠一は脂汗を噴き出していた。
「変態さん、表情に出過ぎです」
とリシェーヌは言って、立ち上がると左手に
持ったハンカチで誠一の額の汗を拭っていた。
「おーい、そこの二人。
二人の世界で過ごすのは後にしてくれー。
二人とも座りなさい。講義を進めるよ」
講師からの言葉に教室は、笑いに包まれ、
二人も着席して、講義は再開された。
30日ほどこのような生活が続くと、
誠一も日課のトレーニングに何とか
ついていけるようになっていた。
友人や知り合いも増え、啓示も特になく、
それなりに学院生活に馴染み始めていた。
「魔術を学ぶために入学したのに今のところ、
全然、魔術らしきことはして無いな。
一体、いつから魔術の実践ははじまるのだろうか?」
誠一が昼食時に呟いた。
周りにいる同期生たちは、驚いたように誠一を見た。
「えっ?」
「えっ?」
お互いに驚いた表情であった。
「いやいや、ここは魔術院ですから、
魔術を使うのが当たり前では?」
誠一は、食事を止めて、慌てて付け足した。
「いやいや、初年度は、ほぼ魔術行使はないですよ。
精神修養と体力強化、理論を中心に講義は進みますので。
魔術自体は、補助魔法の習得くらいです」
周りの学院生は当たり前の様に話した。
「そもそも中等部への昇級は、
指定された迷宮の探索ですから」
「今の学院長が魔術師の死亡率の高さを憂いて、
今のようなカリキュラムを組むようになったらしいです」
「研究者の道に進めるのは極一部ですからね。
しかし、そこでも体力・気力は必要になりますから」
誠一は頭を抱えていた。
皆と話をすればする程、本当にゲームの世界なのか
別世界なのか分からなくなってきた。
ゲームであれば、魔力第一であるはずの魔術師であるが、
実際にはそうはいかず、
みなの言うことは至極、真っ当なことに聞こえていた。
誠一、寝る!
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