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四話:魔女の森、前にて

馬車に揺れるまま連れて来てくれた兵士とだべっている。



「すみませんね……リンさんのご両親ときちんと会ったことがあるのはローレル殿しかいないのですよ」


「いいえ……先程はとんだご無礼をいたしました 」


「いえいえ! ……というかローレルさんの隣に座っていらした……ゼラさんでしたっけ? あの修道司祭」


「えぇ……確かそうでしたね」


「血の気の多い方だとは知っていましたが……どうやら目の敵にされているようですね」



「……ええそうですね」



激しく嫌われているが、あそこまで嫌われていると逆に清々しい。


リンの逃亡に、リンの両親と思われる不審死体。これに因果が無いと言えようか?私が出ていく時も親の仇……いやリンの仇と言うが如く睨んでいた。側近たちが変な話をしていなければいいが……。少なくとも私は好まれていない方だし……。



俺は項垂れ、


「すみません……少し仮眠を取ります」


「はい、ごゆっくり……」



そう告げて目を閉じる。

しかし眠れそうにない。凄まじく眠いはずなのだがな……。仕方が無いから情報を整理していこう……。



王城、リンの故郷、魔女の森は一直線に結ぶことが出来る。リンの故郷の手前あたりから不干渉地帯である。



あいつの父母とリンには確かに深い絆があった。俺とは違って。

小さい頃からリンの父母はリンとよく遊んでいた。リンが騎士団に入るために懸命に支えていたし、リンは初任給をはたいて父母にお揃いのペンダントを買っていた。

騎士団に入ってからは父母に仕送りを欠かさず行い、あいつの身の回りに金目のものなんて残っていなかった。


俺はアイツの両親に花束でも送ってやろうと思ったのだ。リンの両親には非常に世話になった。何度かリンの家に来た際は、その度にここの家の子供として生まれたかったとそう考えた。



しかし改めて来てみると、本当に魔女の森に近いのだな……。

魔女の森とはこの地域での俗称。魔女が住んでいるから入ってはならない森とされている。魔女とは魔王の配下であり、人間界への侵攻の足掛かりにするため森を根城にしている……という童話がある。そのため、この森に入ると魔王に連れ去られるというのが決まり文句。

まあ所詮、子供を怖がらせるための作り話だ。



そんなことより、まずはリンの父母だ。……まさか初めてここに呼ばれる理由が参考人とはな。


「ローレル殿、着きましたよ」






アイツの実家の玄関には見張り役の番兵がいた。


「おい、ローレル殿をお連れした。ここを通せ」



付き添い役がそう言うと、見張りはドアを開けた。




こうして入るのは数年ぶりだろう。リンの両親もなかなか老けてしまっているだろうからな……俺に分かるだろうか?



薄暗い部屋の中、どことなく蒸している。湿気が溜まっていたせいか、天井から水滴が首筋に垂れた。雨漏りでもしているのだろうか?


そんなことを考えながら目線を下げる。そこには何かが麻布を被せられていた。ここにリンの両親が転がっているとは思えない。思いたくない。こんな呆気なく死ぬタマかよ。






俺は恐る恐る麻布をめくる。


むせかえるような血と鉄の匂い。生臭い死の匂い。


俺の眼下にはリンが送ったペンダントが、血濡れて輝いている。



「……」




一目見て、誰かわからなかった。それだけ言えば凄惨さは分かるだろう。しかし、かろうじて面影はある。顔のシワ、鼻の高さ、背格好……。間違いなかった。



「……リンの両親です」


「やはりそうでしたか……それでは私は急ぎ、報告してまいりますので……お別れをなさってください」




確かにそれはそうだな。リンの両親は俺の親より良くしてくれた。







そして帰ろうとしたその時。



「ッ……!」


ふと気がついた。


真相にたどり着きたくない恐怖を押さえつけ、震える手でそれを拭う。



血だ。

血の雫だ。

つまり血が上から垂れたのだ。


俺の目の前にしか死体は転がっていない。だと言うのになぜ……『垂れる』?



「──!」


分かった。分かってしまった。先程から悪寒が止まらなった。


考えるまでもなかったんだ。


またしても血が、べったりとドアの上についていた。


血飛沫が着いたでは済まされない。塗られなければ、そんな場所にそんな量の血なんて付かない。

誰かが故意に血を塗り付けたのだ。



暗がりでよく見えないが、その血の後には見覚えのある規則性が認められた。



俺は何かに駆られるように、ロウソクに火をつけ血の跡を凝視する。明かりに照らされ浮かび上がるのは、血で書かれた文字だった。



「『お前を待つ。しかし長くは待たない』……」



そう読み終えた時、明かりと共に文字は消えた。俺が掴んでいたロウソクのことなど完璧に忘れて、呆気に取られたからだ。


ロウソクの火が血で濡れて消える。か細い煙と人を燃やした時の不快な鉄臭い匂いが、意識を呼び戻してくれた。



気分は最悪だが、恐怖が一周まわって冷静になった。

一旦情報を整理しよう。



足元に転がったロウソクを踏み潰し、俺は外へと足を運ぶ。あんなところにいたら気でも狂いそうだった。


それに加え。俺の頭は恐怖もそうだが、好奇心と猜疑心でいっぱいだった。






「何かわかりましたか?」


見張りが聞いてくる。





「いいえ……少し1人にしてください……」


「は、はぁ…… 」



気まずそうな見張りを尻目に、俺は近くの倒木に腰掛けた。腕を組んで頭をひねる。






……状況を整理しよう。


まずこのリンの父母殺しには不可解な点がいくつかある。

一つ目にあの死体がどう考えてもリン父母のものであること。リンとその父母の関係は前述の通り良好。その上、国教では父母を敬うこと及び殺人を禁じている。前提として、信心深くてクソ真面目なあいつが両親殺しなんてするのかという話だ。まず、しない。



二つ目に状況証拠だ。リンは恐らく昨日の夜に出発した。だが出発から半日ほど経った今ですら血が滴っている。血というのは遅くとも数時間のうちには乾いてしまうものだ。条件さえ整えば数分。

いくら風通しが悪い締め切った民家の中とはいえ、血はいい加減に乾いているはずだ。よって、殺してから出発して、森の中に逃げたとは考えにくい。


……引き返したら可能?そんなはずがあるか。魔女の森からはかなりな距離がある。引き返すのは馬などが居なくては無理だ。馬を走らせようにも起伏の激しい森の中。相当に手練れた馬と、それを御せる馬術が無ければ無理だ。

さらに、リンの家は馬を飼っていない。借りようにもここらで馬の貸し出しをしているのは王国の近辺のみ。緩衝地帯は馬を失うリスクもあり、貸出されないのだ。

つまり、リンは徒歩で森に入った。



そして3つ目、俺の勘だ。アイツは人を殺すような危険性はあるものの、その力を見事に御している。人畜無害なあいつの頭の中に、殺人という選択肢はないだろう。




つまり、やつに犯行は不可能だ。犯人はほかにいる断言していい。




しかし……あの血文字だ。


『お前を待つ。しかし長くは待たない』。この『お前』は誰を指すのか。


リン、俺、あるいは第三者……。リンが殺人犯でないなら、状況的にリン以外が書いたことになる。


もし仮に……。俺の推測が正しいのなら……!



俺は家の前の兵士に叫ぶ。


「すみません!早く、馬車を! 王都に向かってください!」



まずいぞ……!これは……国の危機じゃないか!

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