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九話:二転三転

「申し訳ないけど、これで終わりだよ」



魔術で黒くコーティングされた剣を手に、リンはまっすぐ上に飛び上がる。その高さは跳躍と言うより、飛行のそれに近い。

暗いのも相まってガーベラはリンを見失った。



「真上だと? ……まさか!」



ガーベラは縮地の要領で前に飛び出す!

それとほぼ同時。黒い剣が降ってきた(・・・・・)。一筋の黒い流星は大地を砕く。直撃は免れたものの、衝撃波がガーベラを吹き飛ばす。



「ぐあぁぁぁぁ!!! ──ッ!?」



転がって地に伏すガーベラ、その腹を蹴飛ばすリン。

リンは最初から分かっていたかのように、ガーベラが転がってくるところに着地していたのだ。



「うぶっ……!!」



間髪入れずに繰り出される不意の一撃に、受け身も取れずに飛んで行く。さながら蹴られたボールのように。



「──ガッ……! あぁっ……」



木に真っ直ぐ叩きつけられたガーベラは、そのまま崩れ落ちた。



「……ゴ、ゴフッ……ガハッ……」



ガーベラは咳き込み、苦しそうに血を吐いた。

リンは無言のままガーベラの前髪を掴んで、無理やり顔を上げた。

虚ろな目がリンの方を向くと、ようやく口を開いた。



「……もしかしてとは思ってたけど、戦いはズブの素人だね? 」


「ご名答……ガフッ……」


「それに君……元々この世界出身じゃ無いでしょ? 魔術のそれとも全く違う匂いがする」


「そこまで……バレていたとはな 」


「でも、一つだけわかんないことはあるなぁ」



そう言ってガーベラの顔を覗き込む。



「なんで魔王軍幹部の君が、ローレルに肩入れするの? どう考えても魔王の命令じゃない。立派な背信行為だよ?」



血の滴る口角を吊り上げ、ガーベラは言う。



また(・・)会おうと仰ってくださったからだ。 だからまた(・・)会いに来た。そういうものなのだろう? 友とは」


「──ッ!! 」



衝動的に振るわれた拳は空を切った。リンの手には髪の切れ端だけが握られていた。



「そなたのせいで前髪がぱっつんになってしまったでは無いか。 これではローレル殿に顔向けできぬのだが……どうしてくれる?」



声の方へリンは目を向ける。

少々頭をさっぱりさせたガーベラが、笑顔で口元を拭っていた。そして懐から血糊入りの袋を出して見せびらかした。その様子から、先程までのダメージは感じられない。



「よくもコケにしてくれたな」


「何、ローレル殿の真似をしたまで。……顔が怖いでござるよ? ほらほら、スマイルスマイル!!」


「笑えって? この状況で?」


「でも……まあ、笑っていたところでローレル殿に逃げられるくらいおっかない顔でござるからな。軽率な発言であった。相済まぬ!」



リンは唇を噛む。ロングソードを納刀し、髪を掻きあげた。リンの金髪に赤いメッシュが入る。



「そんなに殺されたいか。ガーベラ……!」



リンは血走った目を向ける。ガーベラの方を向いているようで、焦点はそこでない。

ガーベラは後ろを少し見やり、ほほえんだ。そして鞘ごと刀を掴んで柄を口元にかざした。



「まこと……底が知れぬ男よ。 激情の中、こうも冷静に判断ができているとはな……」



ガーベラの背後には、ここまで息を潜めていたステラが立っていた。白く光る両手をガーベラの方に向けて、今詠唱を終えようとしている。

ガーベラは笑みを絶やさずにリンに聞く。



「リンよ。ここらで手打ちとしよう。これ以上となると、そなたらを無傷で帰すことが難しくなりそうだ」


「私は最初からそんなつもりはないよ。せっかくローレルに会えたんだ。私はお前をここで殺し、ローレルを追わせてもらう」


「そうか。ならばとくと味わえ。それがし……いや わたし(・・・)の必殺技を」



ガーベラは柄を口に近づけ、さながらマイクのように構えた。右腕をまっすぐ伸ばして前方を指さす。そして目を閉じる。



「……『まもなく一番線に列車が参ります。 白線の内側までさがってお待ちください』」



リンは不思議そうに周りを見た。周りの風景が一変したのだ。騒々しい森の中から、不気味なほど静かな駅のホームへと。

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