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八話目:一方その頃

時は少しさかのぼり、森の中。

ローレルたちを見送ったガーベラは、静かに剣を抜いた。



「さて、邪魔者は去った。真剣勝負と参ろうか」


「邪魔者? 私とローレルの再会に水を差したウジ虫がよく言うよ」



冷ややかにリンは睨む。

その圧に押され、ガーベラの刀を握る手に力が入った。生唾を飲み込み構えを直す。

リンはしゃがみこみ、ため息をつく。



「あーあ……せっかく詰ませられるところだったのに。せっかくあと一歩だったのに。手を伸ばせば……手に入ったのに……」


「もう良いであろう? 仕方が無いことではないか」



空を仰ぐリンに、薄ら笑いでガーベラは言う。リンは目だけ動かして凄んだ。



「お前ごときに何が分かる」


「そなたは負けたのだ、リン」


「やめろ……」


「ローレル殿の戦略に、知力に、幸運に」


「やめろッ……」


「それがしの機転と計算外の行動に」


「やめろッッ!!」


「そして……相棒のゼラ殿に」



リンはうろたえ、両手で顔を覆った。その呼吸は荒く、



「……もういい。もういいよ、分かった」



リンはゆっくりと立ち上がった。剣を引き抜き、頭を振って息を吐く。



「これからは、一匹ずつ確実に潰すからね。まずは君だよ、ガーベラ」


「これはこれは、わざわざ名指しでご指名とは。戦々恐々、恐悦至極」



不敵にそう言ってからかう。リンは無表情のまま青筋を浮かべた。

一歩一歩、地面を踏みしめるように歩いてリンは近づいてくる。



「まずその邪魔な腕を落とす。次に逃げれないように足だね。ウジのようになったら、そのまま餓死してもらおうか」


「そうそう、思い出したのだが。そなたには我が部下の遊撃兵に拷問をした容疑もある。そなたさえ良ければ三食昼寝付きの別荘暮らしを保証しよう」


「いや……ローレルを真似した汚らわしい口先からだ」



リンは剣を肩より上に構えて引き、ガーベラの間合いに飛び込む。その目はまっすぐガーベラの口を捉える。



「冗談だ。 そなたらを魔王国は歓迎せんよ」


「笑わせないでくれる? そのくらい押し通るから」



リンの腕が伸びる! ガーベラの口に炸裂するまさにその瞬間、



「──ッ!!」



リンは腕を引っ込めた反動でひるがえる。数度空中でひねり、片膝着いて着地する。その頬には一筋の切り傷がついていた。



「……『回葬(かいそう)』。納刀する際に生じる無為自然の斬撃を、こうも見事にかわされるとは……そなた見えて(・・・)いるな?」



そう言うとわずかにガーベラの腕の位相がズレた。ブレた像はその形をハッキリとさせながら増えていく。

そして同じ動きをトレースする四本のコピーが、本物の腕と平行に並んで浮いた。



「『下り閃 五両』!!」



その掛け声とともに五本の腕が切り上げを行い、五筋の斬撃が地を走る。その斬撃は広がってから旋回し、リンの方へとまっすぐ進み続ける。



「気持ち悪いね。その技……まさか腕を分身させて斬撃を増やすだなんて」



リンが地面に剣を突き刺す。途端に衝撃波が地面を割りながら伝い、斬撃を相殺した。



「そなた、なんだその技は! それがしよりもずっと魔王の幹部らしいではないか!!」


「……技でもなんでもないよ」



おもむろにリンは手のひらほどの石を拾い上げ、手に乗せた。



「……ふんっ」



握り始めると瞬く間にヒビが入り、煙を上げ、そして……。

拳は完全に握られた。開くと、手のひらに小さな石ころがひとつあるばかり。圧縮されたのだ、強靭な握力によって。


「私は魔術が見える。少しだけなら使える。だけどそれが霞むくらい、どうしようもないくらい強い力を持っている」



リンはそう言って剣を握り、その刀身を一往復撫でた。リンの魔術でコーティングされた剣はどす黒く変色していた。



「これから始めるのは一方的な暴力だから、覚悟してね?」



その顔に先程までの微笑みはなく、ただ獲物を見据えていた。

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