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十四話:勇者は迎え撃つ

早朝、角尾村。リンとステラの旅立ちをモーンとロゼは見送っていた。

ロゼは屈んだステラを、背伸びして抱きしめる。ステラは頭も撫でられ満足そうにしていた。



「また……会おうねお母様……」


「ああ。 星見村で儀式を行う時には、私も行こう。魔王にはもう妨害できるほどの余力は無いだろうが、私と同じ目にお前をあわせたくない」



その隣、一晩中リンの講義を受けていたモーンは立つのもやっとの状態だった。



「ぜぇ……ぜぇ……。見くびっていた……。この男のスタミナと底知れないローレル愛を……。確かに……これなら強いしお姉様に手を出さなさそう……。お姉様を任せられる……?」



モーンは目に隈をこしらえ、壁にもたれかかってどうにか立っている。

対するリンは非常に爽やかな笑顔をモーンに向けていた。



「いやいや……ほとんどの人は聞いてる最中に寝ちゃうから、最後まで聞いてくれた君はすごいよ!ありがとう!」


「寝てるんじゃなくて気絶してるんですよそれ……くれぐれもお姉様にはしないでくださいね? まあ多分五分で寝ちゃうと思いますけど」



そう言ってモーンはリンを送り出した。リンがステラの元にやってくると、ちょうどロゼとステラの抱擁が終わったところだった。

ロゼはリンの方を向く。



「お前にひとつ言い忘れていたことがある 」


「……何をですか?」


「ここは空間が歪んでいるせいで、外とは時間の流れが違う。正確に言うと、ここでの一日は外の三日だ」


「なるほど、なら早く出た方がいいですね。ローレルを見失わないうちに」


「……ここでやり過ごせばいいんじゃないのか? 相手は3倍のペースで消耗していくのだぞ?」



目を細めて聞くロゼに、リンは首を振る。



「いいえ、これでいいんです。むしろ今がちょうどいい。ローレルと話を付けなくてはなりませんから」


「わ、わたしも! リンさんの仰るローレルさんにあってみたいですっ!!」


「……心配は無用か。ならば良い。また会おうステラ。そしてリン」



モーンとロゼは村を出て行く二人を手を振って見送る。その背中が見えなくなるまでずっと手を振りつ続けるのだった。



「……精々くたばるなよ。 娘を頼んだ」



誰にも聞こえないように、ロゼはそうつぶやいた。




村から出たリンは、来た道を振り返る。



「……なるほど。本当にドラゴンだ」



草が生えていない道をたどった先。そこには大口を開けて横たわる、全身に苔むしたドラゴンの姿があった。



「ベイさーん!!」


「ぷるるっ!!」



一方でステラはベイに駆け寄り、久しぶりの再会に喜んでいた。

リンもベイの頭を撫でる。そしてステラに問いかけた。



「そういえば、ステラもロゼさんもなんで神を呼びたいの? すごく呼びたがってたけど……」


「お会いして、よりすごい魔術を知りたかったんですよ。で、でも……わたしはちょっと違います」


「へぇ……そうなんだ。何がしたいの?」


「わたし、リンさんの力になりたいです!! 」


「いやいや、今でも十分助けられてるよ!ツメクなんてステラがいたから追い払えたんだし」



そう言って励ますもステラは大きく首を振った。



「でも! リンさんがこれから倒そうとしている魔王は、お母様の首を切れるほど強い相手……その他にもずっと強い人たちが来るかもしれません!そうなる前に、強くなりたいんです!!」



そしてキラキラ光る目を、リンに向ける。



「リンさんはどういう理由なんですか? 昨日から魔王を倒すという言葉にすごく真剣さがある気がしますけど……」


「うん。倒したい理由がちょっとだけ……ハッキリしたんだ」



リンはそう言うと、足を止める。



「ステラ、私寄りたいところがあってさ。少し引き返していい?」


「は、はい! お供しますっ!!」



来た道を引き返し、手頃なところで足を止める。そしてステラに問いかけた。



「……そういえば、あの魔導書に書いてた中で私にも使えそうなのってある?」


「えっと……基本的に親和性が高いものになるので……虫さん系になるかと……どういう魔術を使ってみたいんですかぁ……?」


「幻覚みたいな感じかな? ローレルを丸め込むにはそれくらい必要だし」


「それなら……この子がいいですよ! 」


「ありがとうステラ。ローレルが来たら、早速試してみるよ」


「え、えへへっ……いえいえ……」



照れくさそうに頭をかいてみせた。そしてリンはもう一度、頼み事をする。



「ステラは、今から言う格好に変えてもらっていいかな? 」


「は、はい!!」


「黒髪のショートヘアで……剣は腰の辺りで持っていて…… 」


「ええっと……こうですかぁ?」


「もうちょっと目尻上げて、あと肩幅もう少し小さく」


「は、はいっ!!」



こうして迷い込ませる空間も張り、準備は整った。



「さて……始めようか……話し合いを」



期待に身震いするリンの口角は、不敵に上がるのだった。

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