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十三話:白日の下に

「……リンさん! リンさん!!」



リンは、ステラの声に目をゆっくりと開ける。



「……こ、ここは……」



リンが再び目を覚ますと、ロゼの工房にいた。ゆっくりと起き上がると、すぐそばにステラの姿が。両眼いっぱいに涙をためて、唇を噛んでいた。



「りんさぁぁぁぁん!!!」


「あぁすて……──わぶっ!?」



リンは飛び込んできたステラに右横から抱きつかれた。



「ええっ!? なになになに!? どうかし──っ!?」



それとほぼ同時、左横から首元を引っ張られた。



「アナタですか! お姉様を誑かす性悪の勇者はっっ! 浜焼きにしてやりますっ!」


「あなたにいたっては本当に誰!?」



リンが戸惑いの目を向けた先。ステラによく似た顔立ちをした白髪赤眼の少女が、歯ぎしりしながら胸ぐらを掴んでいたのだ。顔立ちは似ていても瞳孔はヤギのそれではなく、角もなければ尻尾もない。

状況を見るに見かねたロゼが、部屋の奥から向かってきた。



「これ、やめろモーン。ステラもだ、それではリンが動けんだろう?」


「「はーい……お母様……」」



揃ってそう言った二人はリンから手を離した。そしてモーンと呼ばれた白髪の少女はロゼの近くに、ステラはリンの隣に向き合うように腰掛けた。

二人が座ったのを見計らって、ロゼは口を開く。



「さて、困惑しているだろう。私の隣にいるコイツはモーン。ステラの妹だ。星見村にいるのにも関わらず、今日はわざわざ分体をこちらに送ってきた……挨拶しなさい」


「どこのシャンタク鳥の骨ともわからんやつに、お姉様はやらん」



モーンは腕を組んでそう言った。



「……はい? シャン……タク?」



リンが聞き返すと、モーンは鼻で笑う。



「ふっ、聞きました? お母様! この脳筋勇者、シャンタク鳥も分からないだなんてぷぷぷ……お里が知れますねぇ!!」


「やめろ、モーン。 独特なからかい方をするな。そもそもこの世界に原生生物として存在しないだろう? シャンタク鳥」


「ですけどお母様! こんな強いだけが取り柄で! 友人には裏切られ! 人の心が分からない男をお姉様の隣に置いておくだなんてどんな悪影響があるかっっ!今すぐにでもお姉様の記憶を抹消して……!」


「……うるさい」


「──ぎゅむっ!? ……!!! ……!!」



ロゼは暴れるモーンの口を抑え、リンの方を向いた。



「すまんな。親離れはとっくに済んでいるんだが、姉離れが一向に進まなくてな。おそらくお前には当たりが強いと思うが許してやって欲しい」


「は、はぁ……」


「だ、黙ってると可愛くっていい子なんですよぅ……ね?」



モーンはステラの言葉に目を見開き、何度も力強くうなずいた。満足したのか、誇らしげな様子でリンに胸を張った。

ロゼは半ば呆れつつ、気を取り直して話し始める。



「……お前は市があった辺りに倒れていた。格段に魔術の適正と脳内の魔力量が上がった状態でだ。なにか心当たりは?」


「サースと名乗る老婆からもらった薬を飲みました。……でも色々ありすぎて私も何が何だか……」


「まあ良い、それは。どうせあの女だからな……ところで」



そこまで言って、ロゼは手をまっすぐリンの方に伸ばした。



「お前、ナイフを持っているだろう? それを出して欲しい」


「ナイフ?……これですか?」



リンは父親に渡されていた例のナイフを取り出す。ロゼはとモーン、そしてステラはそれをまじまじと見ては顔をつきあわせる。



「……やはりだ。モーン、ステラ喜べ。あとは『鍵』だけで良い」


「っていうことは……これが『偃月刀』……ってこと?」


「なんであなたがこれを持っているんですか? お母様は16年前、クーデターの主犯の男に手渡したはずですが?」


「……え? えぇ?」



次々出る情報に当惑し、リンは頭を抱える。見かねたロゼはリンに ゆっくりと言う。



「そのナイフは神の召喚のために必要なんだ。 安全のためにお前の父親に渡しておいたためお前の手元にあるのだろう」


「わ……私の父が王国にクーデターを? 本当ですか?」



とても信じられないような顔をリンはロゼに向けた。



「ああ。お前は齢六歳で貴族に預けられ、修行に入ったのだろう? おそらくその年だ。価値がなまじわかる者に与えると厄介でな、アイツならずっと手元に置いておくはずだから間違いないだろう」



そう言いきった。さらにモーンが付け足す。



「そして私たちの信仰する神を召喚する儀式には、いくつか必要なものがあります。一つ目はそのナイフ。……正確には偃月刀(えんげつとう)の一部ですがまあそれはいいでしょう。

二つ目に巫女。 私はとある事情で動けませんので、私たちの中で最もフットワークの軽いお姉様がその役です。

三つ目に必要なのは『銀の鍵』。とある門を超えるには必須なんです。

あと最後、膨大なエネルギー。これは一応聖剣を引き抜けるらしいアナタにかかってます。聖剣を引き抜いてきてください」



リンはモーンに問う。



「……それで、銀の鍵と聖剣はどこに?」


「銀の鍵は恐らくツメクの館のどこかに。同時に魔術書もかっぱらってきてください。お姉様は異界の神々との親和性が高いので、ああいった文献に書かれた魔術が簡単に使えます。

聖剣に関しては、星見村に来てくださってからお教えします。色々と厄介なもので」



「……厄介……と言うと?」



ロゼはリンに答える。




「聖剣は破壊兵器でありながら莫大なエネルギーを内包している。しかし、このエネルギーはヒールなどと同様の……言うなれば正のエネルギー。対する魔術は負のエネルギー。魔術に使うにはその力を加工する必要がある。

魔王の不死を消せるというのはおそらく正に負をぶつけて相殺できるからという原理だろう。

しかし、私は聖剣の存在と力に関してかなり懐疑的だ。およそ二百年ホコリをかぶり続けた剣の存在を信じろというほうが酷だろう? あまりに文献もハッキリしないのだ。まるで何本もあるかのように、色々な内容のことが好き勝手に書かれているのでな」


「は、はぁ……ローレルなら多分詳しいことも知っていると思うのですが、私はよく知らないものでして……」



リンはうなだれた。モーンはそんなリンに問いかける。



「そういや、アンタが度々口にしているらしいローレルってそんなに賢い人間なんです? 」



リンは目を輝かせ、がばりと飛び起きた。



「ええ! それはそれは!! 彼は知識がすごいんですよ! 例えば……」


「え? あ、ちょっと待ってください? あの?」


「それじゃあローレルの良いところその00001」


「くっ……ナンバリング的に10000以上あることが確定してしまった……! あの、お姉様、お母様……! こういう場合どうすれば……」



途端にローレルについて力説し始めるリン。モーンはその様子にぎょっとしつつ、他のふたりに目を向け、助けを求める。

しかし、現実は非情である。しかし、現実は非情である。ステラもロゼも苦笑いで目を背けたのだ。



「モーンさん? よそ見をしないでください。 まだ序章の途中なんですから!!」


「まだ導入すら終わっていなかったんですか!? いやああああああ!!」



結局五時間に渡りローレルについて教わり、外はすっかり明るくなってしまったのだった。

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