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十二話:魔王になるのです

「魔王になるのです。 勇者リンよ」



真面目な顔でそう言った。突拍子も無い提案に、リンは目を丸くする。



「魔王に……? なんで?」


「あなた様に必要なのは魔力のコントロール。常に一定以上の魔力を保ち続けることで、感情の高ぶりで増幅した際の発作を抑える必要があるのです。そのためにも魔王たる体を得た方が良い」


「魔力を……コントロール……」


「そして先ほどお見せしたもので信じていただけたでしょう?あなた様は国を追われている身。あんな国にはとても居られますまい……」



見つめられたリンは、肩を落とした。



「そうだ……私にはもう居場所がないんだ……」



悟ったようにそう言い、リンは力なく横になる。仰向けになり、虚ろな目で空を見た。



「勢いだけで王国をぬけて、助けたステラの進めるままにここまで来たけど……家族も……ローレルもいない私に帰るところなんてないもんね……」


「ええ。ですから……コレで耐えうる体になるのです。魔力に……そして王の器に……」



そう言って、老婆は懐から小瓶を差し出した。リンは起き上がり、老婆の手の中のそれをまじまじと見つめた。



「……本当に……コレで……私は魔王に?」


「いいえ。 あなた様はこれからこれを飲んだ上で、魔王を倒す必要がありまする。しかし、体は魔王のそれに格段に近づくでしょうなぁ……ひゅっひゅっひゅっ」



リンは生唾を飲み込んだ。



「……それを飲む前に、いくつか聞いておきたいことがある」



そして老婆に向き直る。



「お前の名前は何? そして何が目的なの?」



老婆はそう言うリンに、不敵に笑って見せた。



「妾の名はサースにございます。 かつては魔王の側近、今はあなた様の王道を導く巫女にございます……」


「……じゃあサース。 なんでローレルに毒薬を売ってたの?」



サースはゆっくりと首を振る。



「いいえ。 あなた様は妾に大きな勘違いをしておりますね。……あの時ローレル殿に渡したのは、ただの色のついた水にございます」



そして平然とそう言った。リンは唖然としながらサースに問いかける。



「なんのために……そんなことを……?」


「ひゅっひゅっひゅっ……!」



サースは笑いながら、答える。



「ローレル殿は王に操られておるのです。あなた様を殺すようにと」


「……!」



リンは息を飲む。あの優しかったローレルが、急に自分を殺すだなんて余程のことがあったのだろうと。急になぜ自分が勇者に任命されたのだろうかと。その謎が全て解かれた気がした。



「……許せない」



同時に湧き上がるは殺意。自分を騙すためにローレルを利用した王への怒りはふつふつと込み上げ、リンの体の周りをどす黒い沼となって侵食し始めた。

そしてサースの手から小瓶を乱暴に奪う。



「──!」



そして一気に飲み干した。最後の数滴に至るまで口に落とし込む。それとほぼ同時だった。



「うっ……ぐっ……うわあああああっ!!」



突如おそいかかる身を焼くような激痛。サースはリンが苦しむ様をただ眺めていた。



「それでは……指を鳴らしてくだされば、また参りますので……」


「まて……これは! この痛みはなんだ!ぐあぁぁぁぁ!! ──ぐうっ……」



リンは地面の上で悶え苦しみ、意識を手放した。




「ご安心を死ぬことはございません。……あなた様の体はとっくに人のそれではございませんので」



サースはそう言い残しリンの元から消えた。

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