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八話:術師の本懐

「お母様〜!! 」



ドアを開けるなり、ステラはロゼに抱きついた。かなりな勢いではあったのだが、ロゼは身動ぎひとつせず受け止めきる。

あまりに快活なその様子に、リンは驚きつつも微笑ましく感じた。



「ふふふ……よく来たなステラ。 見ないうちに随分と大きくなって……体内の魔力量も上がっているなぁ」


「ありがとうお母様!村に送ってもらって以来だよね……! 多分数ヶ月ぶりくらいだけどすごく久しぶりな気がする……!」


「それまではずっと星見村に三人揃って住んでいたからな。お前が行く時分に、私も星見村に行くのもいいかもしれないな」



ロゼは椅子の上に立って、立ち膝のステラを抱き寄せ頭を撫でていた。そしてそのまま、リンの方を向いた。



「良い働きをしたな、リン。 感情の表出によってお前の魔術の才も開花した……少々荒療治ではあったが」


「……ほんと危ないところでした。なんで私にそこまでして魔術を身につけさせたかったんですか!?」



そう叫ぶリンにロゼは微笑を向けた。



「なあに、これも全て魔王を倒すためだ。16年前と同じ轍を踏まないためにな」



意味深にそう言うロゼ。静かに目を閉じて続きを語る。



「16年前。その年に私は『神』の顕現の儀式を行った」


「……神? 国教のそれとは違うんですか?」


「違う違う、本質から異なる超越的な存在を便宜上そう読んでいるだけだ。その名をみだりに口にしてはならないからな」



リンはステラに聞こうと振り向くも、ステラは両手で口を塞いで首を横に振る。そういうものなのだとリンは理解し、ロゼに続きを話すよう目で訴える。



「少し本筋から逸れるが語っておこう。

……記録にも残っておらず、お前もまだ幼かっただろうが、時同じくして王国へのクーデターを企んでいた男がいた。私はその男に接触し、魔術の供与と引き換えに神の顕現のための露払いを依頼した。

……しかし堅物なその男は聞き入れなかった。王国に仇なすと言っておきながら熱心な国教信者でな。魔術を毛嫌いしていて、私が試しにと渡した身体強化の霊薬も飲まなかった」



「そ、それでお母様はどうしたの……?」



おずおずと聞くステラ。それに対し、ロゼは淡々と答えていく。



「無論、星見村で召喚の儀式を行った。我らの神を敵視している王国側の妨害がない今のうちなら、私は何ら問題は無いと踏んだためだ……。まあ、見事に失敗したが」



ロゼはそう言うと服をはだけさせ始める。その姿に、リンもステラも目を見開いて驚いた。



「なっ……」


「えっ、えぇっ!?」



ローブの下。本来ならば肉体があるはずのそこには何も無かった。透明な空間に、四角い内臓めいた何かがロゼの首につながって浮いている。それ以外には何も無く、向こう側が透けて見える。

服の襟を直してたロゼは先程と全く変わらぬ様子で続ける。



「儀式は強固な空間内で行っていたんだ。魔術が使える者でも易々と侵入はできるはずもない。儀式は滞りなく進んだ……ここで誤算があったのだ。魔王は魔術を使えたのだ。

私は空間に侵入してきた魔王にあっさりと首を斬られた。そして生首のまま、ドラゴンの腹に放り込まれた」


「それで……ど、どうなったの……?」


「幸い、魔術は使えた。魔力は脳にあるからな。空間をゆがめて素体を作り、ドラゴンの内臓を拝借してサイズを変えて私の体に接いだ。

ギリギリ成功したが、恐ろしく消耗してしまった。そこで腹の中に空間を作り、私のテリトリーにして魔力の回復をすることにした。ドラゴンの死体に残った生命力も使いながらな。

それでできたのがこの『角尾村』という訳だ」


「……つまり、私たちはドラゴンのお腹の中にいるってことですか!?」



リンは慌てて聞き返す。



「ああ。そういうことだ」



ロゼはあっさりと答えた。



「そういうことだ……って、ドラゴンはおとぎ話に出てくるような怪物ですよね!? なんでそんなものが!?」


「実際、そこに居たのだからな。それ以上の証拠があるか。

そんなに疑いたいなら帰りがけに振り返って村を見てみろ。魔力に満ちている今のお前の目なら、この村の本当の姿が見えてくるはずだ」


「は、はい……」



ロゼの圧に押され、納得せざるを得ないリン。頭で混乱しつつも、どうにか理解した。

ロゼは今度ステラの方を向いた。



「しかしだ。私は首を切られる直前に神の分体を得ていた私は、神の子を宿した。その子たちならば村の外でも私より優れた力を使えるはずだからな」


「えっ……? それでその子たちはどうなったの? わ、わたしたちの他にも兄弟がいるってこと?」



ロゼは首を振って否定する。



「違う違う。 その時の子供がお前とお前の妹だ」


「え、えぇ!? わたしって……神様の子供だったの?」


ステラは驚愕し、問いただす。



「……まあ、ひどく簡単に言えばそうだな。厳密に言えばドラゴンの体細胞から子宮を作り出して産んだのだから、生物学上私の子供と言うよりはドラゴンと神の子供という方が正しいのだろう」



ステラはうろたえる。2、3歩よろめくように退いて、その場に崩れた。



「嘘……嘘だよね……? そんなことないもんね? お母様はお母様だもんね?」


「いや……わざわざそんなことに嘘は言わんが。 私とお前の間に血縁はないぞ?」


「な、なんで……なんでそんな大事なことをこれまで言ってくれなかったの……?」


「なんでって……聞かれなかったからだが? そんなに驚くなら、実子なのかとか一言聞いてくれれば良かっただろう?」



不思議そうな顔をしてロゼは言う。

ステラは目を丸くしてボロボロ涙を流した。



「なんでっ……なんでぇっ……うぅ……お母……様ぁぁぁぁ……」


「ステラ……!」



すかさず駆け寄るリン。何度も背中をさするも、ステラの呼吸は落ち着かない。

しかし、そんなことなどお構い無しにロゼは続ける。



「そんなことよりリンよ、心配などしなくても次は上手くいく。何せ神の子供と魔王対策の勇者までいる召喚の儀式なのだから! ……手伝ってくれるな?」



その顔は、狂気に歪んでいた。

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