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六話:いかに目覚めたというのか

「弟子って……私魔術なんて使えませんよ? それなのにどうやって……」



困惑するリンをよそに、得意げに笑うロゼ。何か考えがあるような、そんな顔だ。



「なぁに、使えるようにする(・・)んだ。この村から出るために、お前は魔術を嫌でも使わなくてはならないしな」


「ステラじゃダメなんですか? ステラの魔術の腕は確かなようですが」


「……不可能ではない。しかしお前の方がはるかに適任な上、それに今あの子は手が離せないからな」



そう言ってずいっと顔を近づけた。



「この村の秘密については知っているな? 村の外に出ようとすると強制的に引き戻されるアレだ」



リンは無言でうなづく。



「アレはこの村の中のどこかに潜む『異星人』の仕業なのだ」


「……イセイジン?」



ピンと来ていないリンに、ロゼは呆れ顔で言う。



「お前、ステラから地動説と惑星学について教わっていたはずだろう? いくらこの世界の主流が天動説に神授論とはいえだ、理解が遅すぎるぞ」


「す、すみません……理解の範囲を超えていたもので……」



ロゼは頭を抑えた。



「はぁ……先が思いやられるが、その話はおいおいするとしてだ。この村が『中から外に出られない』ようになっているのは、奴らの魔術のせいだ。そして解除方法はただ一つ。この村のどこかにいる奴らを殺し、魔術を解除することだ」


「どこかって……あてはないんですか?」



リンがそう言うと、ロゼは「知らん」と言い切った。



「知らないって……本当に知らないんですか? ここまで私に解説しておいて?」


「調べられんことも無い。しかし下手に動いてこの工房が失われるのも面倒だからな」


「……? どういうことですか?」



首を傾げるリン。ロゼはクッキーをつまみながら答えた。



「この村の者たちは異星人に支配されている。しかしただの支配ではない。『外界とは途絶されているが、異星人の言う通りに働けば他の村との通商を条件付きで許可する』と。お前の記憶を消そうとしたのは異星人が定めた条件(・・)のせいだ」


「一体……どんな条件を?」


「村の事実が外に漏れた場合、村民を若い順に一人ずつ殺すと言ったんだ。村の内情に気づかれて外部に支配の実情が漏れた場合、通商は上手くいかなくなり異星人も安定した搾取が出来なくなるからな」


「なるほど……」



深くうなずくリンに、ロゼは言う。



「そして、 私と奴らは不干渉を誓った。それがこじれると面倒だし、奴らに私は殺せないが工房くらいなら壊せるはずだ。 私が下手に動くとせっかくの工房が台無しにされることも考えられるからな」


「……事情はわかりましたよ」



リンは二本指を立て、突きつけた。



「あと二つ、質問があります」


「おう、なんだ 」


「まず、どうやって壊すんですか? 魔術を使うんですよね?」


「異星人が逃げている空間がこの村のどこかにある。 それも魔術で作られた空間だ。箱庭のようなそれを壊すには、空間を歪めるしかない。だから魔術に魔術で対抗する必要がある」


「それともう一つ、どうやって魔術を使うんですか? 私は全然練習も何もしていませんが……」


「それはもう大丈夫だ。お前の中に魔術の燃料、魔力はある。あとはお前の心に火がつけば良いだけだ」


「心に……火が……」



考え込むリンに、ロゼは一枚の紙を手渡した。上から箇条書きに五つ。どうやら名前のようだ。



「このリストに載っている人間を全て殺せ。 こいつらは異星人と村人の連絡者だ。異星人を誘い出すにはこうするのが一番早いだろう。下手したら向こうからやってくるかもしれん」


「わかりました。聞きながら回ってきますね」



そう言って出ていこうとするリン。あまりに素直な聞き分けの良さにロゼは思わずギョッとした。急いで肩を掴んで行く手を阻む。



「どうしたんですか?」


「……お前にもうひとつ、言わなくてはならないことがある。ステラが今手が離せないと言ったな?」


「……それが?」


「ステラは今、異星人にさらわれている。早く助け出した方がいいぞ」


「──ッ!!」



リンは青筋を浮かべ、外へ飛び出した。工房に一人、取り残されたロゼは茶の続きをあおった。



「……このイカレ具合。そして体内にある魔力……。 あの女(・・・)は……リンに一体何をしたんだ?」



そう言って開け放たれたままのドアを眺めた。










場所は変わってこの村のとある場所。



『せっかく魔術適正の高い女を誘拐できたのに、どの通信使とも定時連絡が取れない!! 何がどうなってる! 』


『幸い夜だ! この時間なら村の奴らも気づかないはず! さっさと確認してこよう!』



円錐型の体と触手をくねらせ、異星人たちは外に出ようと支度を始めた。そんな中、モニターを見つめていた一匹が二匹に待ったをかける。



『……いや、待て。 何かが近づいてきている』


『いやいやいや……我らのカモフラージュは完璧。 この空間も外界と途絶している。 わざわざここに向かって人間が来るだなんてそんなこと──』



[ザンッ──!!]




空間に光が差し込み、影がひとつ伸びた。



『なんだ! 何者だ!?』


『わからん!!何がどうしてこうなっている!!』



影の主はロングソードを構える。魔術でどす黒く色づいたそれは、空間ごと万物を切り裂く。真っ赤に染ったその体、ぱっちりと開かれた目がらんらんと浮かんでいた。



「君らだね。私を怒らせたウジ虫どもは」


『ひ、ひぃっ!!』


『ぎゃああああああああ!!』



村のはずれで断末魔と肉を断つ音が響いた。

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