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一話:行きはよいよい

孤児院を出たリンとステラ。しばらく歩いた二人は、ステラの妹オススメの『角尾村』にやってきた。

村の入口に立ち止まった二人は、口をぽかんと開けて立ち止まる。



「す、すごい……」


「……すごいですっ……!」



目の前に広がる大通り。端から端まで店がひしめき合い、活気にあふれている。多様な見た目の人々の生活の場がそこにはあった。

ゴブリンが人間の店で金貨を支払う。

その隣のアラクネは糸で器用に袋を作り、商品を詰めて渡した。

通りの中心で陽気なオークは歌い、そのリズムに合わせてスケルトンが踊る。そのまわりには人だかりができ、思い思いにチップを投げた。

村と呼ぶにはあまりに大きすぎる。王国にも引けを取らないほど、豊かな街がそこにはあった。

しばらく呆然と眺めていると、歌っていたオークが二人に気がついた。



「あ、新入りが来たぞ〜!!」



一斉に振り返り、笑顔で手招きする。



「おーい! こっちこっち! そこの騎士っぽいやつ強そうだな! 力比べしようぜ!」


「隣の子もべっぴんさんだ〜! オイラの新作のドレスがあるからモデルやってよ〜!! 背が高いから画になると思うんだ〜!」



皆、その場で(・・・・)手招きする。歓迎ムード一色だというのに、誰一人としてこちら側に駆け寄る人がいない。不思議そうにリンとステラは顔を突合せた。



「……おい……お前さんたち……」



かすれた声の主は、薄汚い格好の老人だった。村の入口、『角尾村』と書かれた看板より村側にある椅子に座っていた。



「は、はい……な、なんでしょうかぁ……」



応えたステラに、老人は立ち上がることなく目線だけ合わせた。シワの入ったまぶたを懸命に持ち上げ、目を見開く。



「この村に……入っちゃいかんっ……! 二度と……出られなくなるぞ! 若かりし頃のわしのように! 永遠に……!」



震える声で必死に訴える。もう老い先短いであろう彼は息を荒らげつつも、まっすぐ二人を見すえている。

街の人々は相変わらず笑顔で手招く。



「大丈夫だよ! そのおじいちゃんさ、もうボケちゃってるから村に来た人みんなにそう言ってるんだ!」


「この村が楽しすぎて出られなくなるって話ならマジだぜ! 早く来いよ!ここにはなんでもある!」



村の人々と老人、そしてリンの顔色を交互にうかがうステラは頭を抱えた。



「ど、どどどどどうしましょうっ……!? わたしは一体どうすればぁ!!」



目を回すステラ。リンはその様子を見て微笑んでからステラを落ち着かせる。



「落ち着いて、ステラ。 少し入ってみて、その後で出るかどうするか考えればいいじゃない? せっかく妹さんから教えてもらったんだしさ」



そう言うリンの手を握り、老人は無言で首を横に振る。



「……」



しばらく老人と見つめ合ったリンは、老人の手を軽く払いのける。そして笑顔でステラの手を取った。



「は、はい! そうですね……! では……行きましょうっ!」



手を繋いですすむ二人。



「来てくれたか! ありがとうよ! そろそろ昼だろう? うちで食べていけよ!奢るぜ?」


「いやいや、うちのご飯を食べていきなさい!」


「そうやっちゃ店主に悪い! ここは俺が払うから二人ともたんまり食っていきな! 」


「みんなで歓迎の歌を歌おうじゃないか! おーいみんなー!! 新入りが来たぞー!! 」



すぐに人波に囲まれ、迎え入れられた。

ステラは涙ながらに笑って、リンの方を向いた。


「す、すごいですっ! 夢みたいです! わたしが……こんなに受け入れてもらえるだなんてぇ……!!」


「良かったねステラ!大歓迎だ!! ……それにしてもなんであのご老人はあんなことを言ったんだろう……」



小声で口に出すも、そんな悩みはすぐに消える。

陽気な村民はリンとステラを担ぎあげ、村の中心へと向かった。



「……はぁ。 また……止められなかった」



落胆する老人は独り、静かな空を見上げる。

老人が視線を注ぐ先、ハエが一匹飛んでいる。ハエは村の中から外に向かって飛び続け、老人の目の前で消えた(・・・)



ここは角尾村。来る者拒まず、去る者追わず。

追わずとも良い理由がここにはあるのだ。

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