表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/90

十七話:出会いに別れは付き物

「それでは。お気をつけて」


「テメェらが変なとこでくたばっちまったら俺も面目丸つぶれだ。 しぶとくやれよ」



孤児院の前。カノコさんとアングラは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。



「「「じゃーね! 騎士さんとゼラさん!! 」」」



横並びになった子供たちは、揃って元気に言った。そして子供のうち、二人ほどが代表して出てくる。その手には白い花で作った指輪が握られていた。

俺の方にはおずおずと男の子が歩いてきた。年長のその子は、よく俺が囲まれている時に助けてくれた子だ。



「あの……私、頑張って作りました! も、もらってください!」



必死に顔を伏せ、まっすぐ腕を伸ばしてくる。

俺は片膝ついて少し歪な形のそれを手に取り、指にはめた。



「ありがとうございます。 わあ……綺麗ですね! 似合っていますか?」



そう言って指を広げて見せた。



「は、はい!! とってもお似合いですっ!」



彼の顔はぱあっと明るくなり、飛び上がってよろこんだ。

ふとゼラの方に目を向ける。ゼラに渡す役の子は常にどこかケガをしているヤンチャな女子だ。ひざまずくゼラの頭に花の冠を置いた。



「いつかぜってぇこいよ!! オレもアングラさんみたいにつよくなって、こんどはオレとたたかってもらうぜ!!」


そう言って、ゼラの拳に拳をぶつける。


「もっちろん来るわよ! その時までマザーの言うことよく聞いていい子にしとくのよ! ……マザーの関節技まじで痛いから……」


「ゼ〜ラ〜?」


「ひいっ!? い、行くわよローレル!! 退散退散ッ!!」



笑顔が怖くなったカノコさんから逃げるように、ゼラは後ろ向きで走る。その目と振られる両手は、子供たちの方を向いていた。



「わかりましたよ。それでは皆さん、お元気で。 また会いましょう!!」



俺はそう言って手を振って、ビオサと共に孤児院をあとにした。



孤児院がすっかり見えなくなった頃、俺はカノコさんから貰ったひもを眺める。だいだい色に煌めくそれは、



「恐らく魔導書は戦力の増強になるでしょう。 これはあくまで探す一助にしかならないでしょうが……ないよりはずっとマシです。角尾村からあなた達が引き返す助けになるでしょう 」



と、カノコさんに言われて手渡されたものだ。聖鎧布のしくみを応用しており、とても頑丈なのだ。また結ばれるとなかなか解けず、良い目印になりそうだった。ただコレを使うには、聖女が紐の末端を握っている必要があるらしい。ならばゼラに持ってもらうべきだろう。



「ゼラ〜! ゼラ〜!! ……どこ行ったんだあいつ?」



いくら大声で呼びかけようと一向に反応がない。まさか迷った?いや、違うだろう。この坂道さえ下れば、すぐに街道に出るとカノコさんは言っていた。

なら、さらわれた? ……まだ森の中に突っ込んで迷子になっていたと考えた方が自然だ。誘拐犯だって、命は惜しいだろう。

とりあえず街道に出よう。俺はビオサを引っ張って坂を下る。内心焦る気持ちに合わせ、次第にペースは速く、歩幅は大きくなっていく。俺は首を左右にせわしなく動かす。しかし人影は無い。それどころか──。



「……まじかよ」



道らしい道すらない。俺の目の前には足止めでもするように、木々が生い茂っていた。

どうなっている!? カノコさんが嘘を吐いただなんてことは無いだろう。俺が聞き間違えたんだろう。そう思い、振り返る。

俺は目を丸くした。



「なんの冗談だよコレは」



目の前には来た道すら(・・)ない。ただ森が広がっている。俺の行方全てを木々が通せんぼしている。いつの間にか、四方を囲まれた森の中。次第に空も暗くなり、月すら出てきた。暗い森の中、ひっそりと開けた空間を満月が照らす。

──おかしい。俺らは昼過ぎには出発した。あれから対して経っていないのに、この時間の進み方は変だ。一体何が起こっている? そしてゼラはどこに……!



「ローレルー!! こっちこっち!!」



呼び止められる。ゼラの声ではない。

声がした方に目を向けると、横向きの三日月が浮かんでいる。不気味につり上がったその端に、見覚えがあった。俺の目線より少しのそれは口を開けた。



「遅いよー! 私書いてたよね? 『長くは待たない』って!」



頭の片隅、わざと追いやっていた言葉が蘇る。血文字だ。あの壁の血文字だ!



「お前なぁ……書き置きってのはわかりやすく書くもんだぜ? ずいぶん元気そうだな、リン」


「うん!! 久しぶり、ローレル!」



嫌味を嫌味ともせず、闇の中で快活な笑い声が響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ