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十二話:見るべくして見える

「こっちです……」



しんと静まりかえる孤児院。暗い廊下を、カノコさんの持つランタンの明かりを頼りに進む。時刻は夜の十二時過ぎ。込み入った話ということもあり、子供たちが完全に寝てから聞かせてもらうことになったのだ。

俺の隣にはふらふらとした足取りのゼラ。目は半分閉じている。



「ね、ねむい……暗くなると余計に……」


「……おい? ゼラ?何やってんだてめえ起きろ」



アングラはゼラの頬を思いっきりはたいた。軽やかないい音が鳴ってゼラは後ろ向きに倒れる。



「アンタいきなりな……──!!! もがっもがが……!!」



俺はゼラの口を手で覆った。万一叫ばれて、子供たちが起きてきたら大変だからだ。俺の手が静かに叩かれたので、ゼラの口から離した。



「……ぶはっ……!! ……忘れてたわ。 ごめん」


「いいんですよ。 私とさすがに立ってるのが限か……」







「起きなさいよ」


「……っっ!? もがぁっ……!!」



思いっきりスネを蹴られて飛び上がるも、慌てて口を押える。



「これで痛み分けってね?」


「分けるんなら、最初に貰った人に渡してあげてくださいよ」



そう言ってアングラを指さすも、アングラは首を振る。



「オレとカノコさんは慣れっこだからな。 鍛え方が違う」


「見上げたバイタリティね……生まれて初めてアンタのことを感心したかもしれないわ」



俺とゼラがなぜこんなに疲れているか。昨晩の寝不足のせいもあるが、それよりも午前中丸ごと子供たちと遊んでいたことが大きい。

孤児院と言っても三歳ぐらいから十歳くらいまで、幅広い層の子供がいる。そして往々にして俺らよりずっと体力がある。始終走りっぱなしだし、その間全然体力が減っている素振りを見せない。無敵なんだアイツらは。

俺らも最初は何とか食らいついていたが、午後、夕方と時間が経つにつれて意識が朦朧としてきた。最後の方に至っては何をしていたかすら覚えていない。

気がつけば俺らは小さな怪物たちに搾取されていた。あんなことを毎日やっているカノコさんとアングラには頭が上がらない。

そんなことを考えながら歩いていると、カノコさんは物置部屋の前に止まった。ドアを開け、床板を外すとそこには地下空間があった。空間と言ってもさほど広い訳では無いが、大人四人が寝転がれそうなくらいの余裕はあった。

そして何故か、出てくる空気が血なまぐさい。きっと考えるまでもないのだろうが。

カノコさんは、



「では、入りますよ」



と言って、ハシゴを伝って部屋の中におりていく。その次は俺、続いてゼラ、最後にアングラが入ってフタを閉めた。

カノコさんがランタンの光量を強め、天井のフックにかける。

辺りがぼんやりと見渡せるようになった。そして俺たちの前には、布に巻かれた何かが置いてある。



カノコさんがゆっくりと上の方だけ布を剥がすと、それが人……人だったものだとよくわかった。

俺の横で、ゼラが片手で目を覆う。



「そうよね……元来マジメなアンタが急に辞めるわけないものね」



容貌を見るに男。髭をこしらえているが、まだ若い。恐らく、ゼラの言っていた派遣修道士とは彼のことだったのだろう。

カノコさんは切れ切れに言う。



「結論から言うと……彼は殺されました。リンさんに」



ゼラは何も言わずに顔を伏せた。頬に何かが伝っていたが、気づいていないふりをする。

俺はこいつの分も聞いてやるのが仕事だ。そんなことに構うべきではないのだ。俺は息を整えてからカノコさんに言う。


「いつ頃かは分かりますか?」


「昨日の今頃です。見回りをしていたら……。会ってしまいまして」


「なぜこんなことをしたか、理由は分かりますか? 」


「分かりません……ただ……」


「ただ?」



数秒詰まった後、決心したかのように言った。



「彼の名誉のために、まずはリンさんのお連れ様……ステラさんのお話をします」


「はい。 お願いします」



カノコさんは後ろの物置から一冊の本を取り出す。子供用の絵本だ。そして数ページめくり、とあるキャラクターを指さした。



「ちょうど、このような方でした」



カノコさんの指の先。そこに描かれていたのは悪魔『バフォメット』の姿だった。少しデフォルメされたその姿は、どこか人に近い。人に近いとはいえ、こんなものが存在していいとは思えない。少し気持ち悪くなった。なぜリンはこんな化け物を侍らせられるのだろうかと。

カノコさんはしばしば長考しながら話し始めた。



「それでいて、ステラさんは魔術を使う……ようです」


「ようですって、見てはいないんですか?」


「見ました。でも、見られて(・・・・)いません」


「……どういう……ことですか?」



カノコさんは声を震わせながら言った。



「確かにそこにあったんです。しかし、私の目には映りませんでした……確かにこの手で触れましたのに……」



そう言って、自分の右手を息を荒らげて見つめていた。



「我々に、魔術は見えない……ということですか?」



静かにカノコさんは首を振る。


「正しくはリンさん以外には(・・・・・・・・)です……」

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