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十話:動けぬ、動かぬ朝。

あくる朝。



「あ……あかるい……朝か……」


鳥のさえずりで目を覚ます。首だけ動かして窓を覗くと、青い空が広がっていた。なんとも清々しい朝だ。その一方で俺とゼラの二人は、着の身着のまま床に転がっていた。



「ハァ……ハァ……くっそ……体が……! ローレル、アンタは?」


「私もボロボロですよ……もう動けそうにない」



あれから私たちは一睡もしていない。なぜなら……。



「あー! 笑った笑った……今でも思い出すと涙出てきそう……それでもアンタが好色な元老から追いかけられた話は傑作だったわね……ぶふっ! 痛だだだ! 」


「思い出し笑いするとか死にたいんですか? ふふっ……い痛たっ……」



二人揃って腹を押さえながら、身をよじる。しばらく転がった後でゼラが言った。



「ハァ……まさかクソ上司トークだけで、あんなに盛り上がれるとはね」


「ええ。全くですよ……」



俺らは愚かにも徹夜をし、さらに馬鹿なことに大笑いしまくったのだ。そのせいで顔、喉、腹筋、両手両足とにかく全身が筋肉痛だ。もう一歩も動けない。

大騒ぎしてしまったが、ゼラいわくこの孤児院かなり作りがしっかりしているらしい。ちょっとやそっとじゃ音漏れしないそうなのだ。どこに金かけてんだ。

俺は古今東西色んなところに行って、色んなクソ上司に当たった話を。ゼラはめちゃくちゃ面白がっていたので、それを延々と話し続けていた。そして対抗して話してきたゼラの話も凄まじく面白かったのだ。話題は尽きることを知らず、元老たちのスキャンダルはダダ漏れになった。

そして、昨夜あんなに元気だったゼラは、今は為す術なく床に向かって話していた。



「あ゛ー……眠いし頭痛い……あと腹痛すぎて動けないわ……。ローレル、アタシの朝食取ってきなさいよ」


「無理ですよ。私だって同じなんです……こういう時都合よく誰かが来てさえくれれば……」


「何馬鹿なこと言ってんのよ……マザーグースじゃないのよ? 妖精さんが来てくれるとでも?」



ゼラがそう言うと、乱暴にドアが押し開けられた。



「おい!! ゼラにローレル!! 決闘だ!!!」


「来たわね。 妖精と言うにはゴツイけど」


「んだとテメェ!」



まさに渡りに船、行き倒れにアングラと言った感じだ。口ではああ言ったもの、案外素直。律儀にも三人分の朝食を持ってきてくれた。それを見たゼラはどうにか起き上がる。



「やっぱりアンタ結構可愛いところあるわよね。ムキムキのくせに」


「お前は一言多いんだよ! っていうか可愛いってなんだよ! そ、その……言われても反応しにくいだろうが!」



アングラは頬を赤らめる。



「熱でもあるんですか?」


「お前は一言少ねぇな!! なんの心配をしてんだよ! ……まったく」



満更でもなさそうな顔をして、アングラはパンにかじりつく。つられて俺らもパンを頬張りアングラに聞いた。



「そう言えば決闘決闘って、決闘することになにか意味があるんですか?」


「あ? オレが相手を信用するためにやる、習慣みたいなもんだ。拳には相手の魂が乗るだろ? だから殴り合うことで信用できるかどうか決めるんだ」



アングラはボウルのホットミルクを飲みながらそう言った。ゼラはうなずきながら聞いているが、相変わらず理由が俺には理解できない。

だが、郷に入ったからにはやらざるを得ないのだろう。



「アングラさん?」


「なんだよ」


「貴女、リンに会ったんですよね?」


「……ああ」



アングラは曇った顔でそう返した。俺らが聞いても恐らく何かあったのだ。俺はそれならと、アングラの顔に近づいた。



「なら取引です、アングラ。私が勝てたら、リンのことを洗いざらい全て話してもらいます」


「最初からそう言ってるだろうが。オレはお前がきちんと信用出来れば教えてやろうと…… 」


「そういうものじゃないですよ。 私は私のやる気が出るやり方でやります……それでいいですね?」


「ああ。 いいぜ! なんでそう言い直した方がいいのか、全然分からねぇがな!」



アングラは歯を見せて笑った。殴り合うことで分かり合うっていうのは全く分からない。何の因果もないだろ。しかしだもし仮に俺の腹黒さに気づいたら、情報を吐かない可能性がある。それは避けたかった。



「受けて立ちますよ、決闘」



一言、そう言った。アングラはわずかに微笑み、またパンを口に詰めた。



「ああ。いつがいい?」


「食べ終わってからすぐで構いませんよ」


「おう! それなら……!」


「ただし」


「あ? ……なんだよ?」


「私の栄光に精々目を眩まされないことですね 」


「あぁ? 急にどうした?」



したり顔でそう言う俺を、アングラは怪訝そうな目で見つめた。

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