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八話:リンはどこへ

「ええ!? なんで早く教えてくれなかったのマザー?!」


「し、仕方ないでしょう! まさか貴方たちがあの方たちを追っていただなんて、知らなかったんですのよ!?」



ゼラはカノコさんの両肩を掴んで揺さぶっている。カノコさんはかなり動揺しているようで、目を回しながら答えた。

俺も内心興奮している。リンがここに居たのだ。追うための手がかりがあるかもしれないし、何か言い残したかもしれない。それに『たち』と言っていた。つまりリンは一人でここに来ていた訳では無い。俺もカノコさんに熱視線を注ぐ……!

しかし、カノコさんはゼラの両腕を掴んだ。



「落ち着きなさい!」



そう言って背面にゼラをぶん投げた。ゼラは宙を舞い、背中から床に叩きつけられた。



「ぎゃあああああ!!何すんのよ!」


「あなたこそ!! どれほど私のことを揺さぶれば気が済むんですか!」


「なんでよ!! これ以上無駄な時間は使えないじゃない! さっさと吐きなさいよ!!」


「それが恩師にいう言葉ですか! このぺちゃむくれツンデレ! そんな難儀な性格だから巡礼の際に通常の三倍の時間がかかったんですよ!!」


「言ったわね若作りババア!! ヒールの力を若返りのために使ってんじゃないわよ!」



ゼラは仰向けのまま、カノコさんとギャンギャン言い争っている。やっぱりこの二人、性格が似すぎている。すっかり俺を置いてけぼりにして、とても盛り上がっているのだ。

自分よりも怒っている人を見ると冷静になると言うが、本当にその通りだと分かった。こんなことで知りたくはなかったが。どうでもいいけどリンを捕まえに行きたいのだが……。

そんなことを考えながらも、白熱した闘いの行く末を見守っていた。何度目かのアームロックを、カノコさんがかけた頃だった。



「 というか恐らくあの方々はしばらく足止めされるはずです!ですから焦る必要はありません!!」



カノコさんはそう言い放った。



「はぁ!? 何言って…… 痛゛だだだだ! ギブ!ギブ!! ギブっつってんでしょ!!」



苦しみながらカノコさんを叩くゼラを無視して、カノコさんに聞いた。



「……何かリンから聞いたんですか? それと足止めされるとは?」


「私が聞いたのは『角尾村』に向かうとだけ……ですが、あの村から出るには一筋縄ではいかないはずです」


「どういうことよ? ただの村なんでしょ? 痛だだ」


「あの村に入った人間は、『ドラゴンに食べられてしまう』のです」


「はぁ? ドラゴンって伝説上の生き物もいいとこでしょ? 気でも狂ったの……って痛だだだだだ!!!」



[グキッ]



「ぎゃああああああ!!!」



鈍い音がしてから、ゼラはピクリともしなくなった。だらりと首からも腕からも足からも力が抜けている。変なところが折れたんじゃ無いだろうか?

カノコさんはゼラをソファに置き、先程までの瀟洒な振る舞いに戻った。口を抑えておしとやかに座る。俺も仕事モードに切り替える。



「はしたない所をお見せいたしました。しかし先程申し上げた通り、リンさんに逃げられてしまうだなんてことはないでしょう。 角尾村からは逃れられません」


「その角尾村には何があるんですか? 」


「ドラゴンがあります。それ以上は非常に申し上げにくいのですが……」



ドラゴン。神がまだこの世にいた頃にはいたとか言われている大きなトカゲだ。天罰を受けて滅ぼされたのだったか。たまたま大きな骨が見つかると、生き残りがいるとかそういう話が盛り上がる。

正直作り話でしかないと思うのだが、カノコさんの目は本気だ。とても冗談で言っているようには見えなかった。



「わかりました。信じましょう」



俺ははっきりとそう伝えた。カノコさんは柔らかな笑みを浮かべてそれに応えた。


「ええ。 ローレルさんならわかっていただけると思っていました!」


「いえいえ。ただ、貴女が知っているリンの動向が知りたいです。なるべく教えてくれますか?」


「……ええ。 わかりました」



カノコさんはつらつらとリンの話を語り始めた。

要約すると、リンは王国を出発して一日で森をぬけ、近隣の村で1日過ごした。この近隣の村ってのはあの焼けた村のことだろう。そこで『ステラ』とかいう悪魔みたいな見た目の魔女と会い、進んできたらしい。

それでここに来た一日で『ツメク』と名乗る魔王軍幹部を追い払い、一日休んで出ていったらしい。

色々突っ込みたいことはあるが、何より不自然なのがその移動スピードである。

いつから起きたのか、ゼラは仰向けのまま話す。



「……アタシたちは川に着くまでに一日、そこからだいたいまるまる三日歩いてやっとここに来たのよね?」


「ええ。それも限界まで歩いてこの成果ですからね」


「……馬使ったわね」


「間違いないですね」



あんな山道を馬に乗って来るとは考えられないが、それ以外考えようが無い速さだ。

それだけではない。なんであの森を抜けるのに一日かかったんだ? いくら暗い道の中とはいえ、あそこならどんなにかかっても五時間ほどなはずだ。

そして三日目が速すぎる。俺らが三日かけて歩いたあの道をたったの一日で? おかしい。朝から出発して昼過ぎにここにつけること自体おかしい。馬でも使っていないと計算が合わない。

やはりあの焼け野原みたいな村で馬を拝借したのだろうか。

リンは……何をやっているんだ? 俺の頭からその疑念がはなれることはなかった。

頭を抱える俺を横目に、ゼラはカノコさんに聞く。



「そういや、マザー? アタシ本部からここに修道士派遣したはずだけど元気にしてる?」



そう言うと、少しだけカノコさんの表情が曇った。



「あ……か、彼は数日前に退職しまして…… 」


「アイツまじ? 真面目そうだったのに……根を詰めすぎちゃったのかしらね 」


「え、ええ。……きっとそうなんでしょう」



時間にしてほんの数瞬だろうが、長い沈黙を感じた。

カノコさんが外を見て、ハッとしたように手を打った。


「そうです。 アナタたち行くあてが無いのでしょう? 今日はここに泊まると良いですよ! お食事もご馳走しましょう!」


「やった! さすがマザー、太っ腹なんだから!」


「それでは。私はお食事の準備をしてまいりますので、食堂までいらしてくださいね! 」



そう言っていなくなった。カノコさんが離れたのを確認して、



「マザー……あの感じ、何か隠してるわね」



ゼラはそう言った。



「ええ。今思えばこの孤児院、不可解な点が多いんですよ。先程の修道士さんのこともそうですし、来る時そういえば窓も所々割れていました」


「恐らく何か言い出せない理由があるのね 」


「探りましょう、ゼラ。 幸いリンは足止めを食らっているようですし」


「無論よ。でもまずは……」



ゼラは両腕をこちらに伸ばしてきた。



「動けないから食堂までお願い!」


「はぁ……金貨二枚です」


「ずいぶん高いわね! ぼったくりもいいところじゃない! 」



俺はゼラを抱き抱え、案内されるまま食堂へと向かった。

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