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十五話:ステラのやさしい魔術概論

あくる朝。

私は半分眠っている頭で荷支度をしている。まだあたりは真っ暗で、ベイが静かに草を食んでいる音が聞こえた。




昨日のステラの魔術教室は、ノンストップで半日以上みっちり行われた。カノコさんからチョークと黒板を借りて、教壇に立っていた。



「えーっと、まず宇宙! この星を取り巻く永遠に続く闇です!」




そう言って黒板の中心に、まん丸を書いた。私はすかさず手を挙げる。


「は、はい! リンさん……!」



「ステラ先生? 星ってキラキラ光ってるアレでしょ? 空に着いてるもののことでしょ? っていうか地面の書き方おかしくない?」


「ふっふっふ……リンさん! わたしも小さい頃はそう思っていましたよ!

でも、この地面は丸いんです! テーブルみたいな形じゃなくて、リンゴみたいに丸いんです! そして、ぷかぷか浮いてるんです!」



そう言って棒人間をその円に何体も書きなぐる。冷静に見れば、下の方の人間は足が上を向いている。私は再び手を挙げた



「ステラ先生……どういうこと? この裏側の人は落ちないように足でぶら下がれるくらい力持ちなの?」



「違いますよリンさん。 どんな場所でも、この星の上ならこの星に引っ張られるんです!」




「……ごめん、頭痛くなってきた」


思わず額を押える。ステラの神様の話を理解するには、手始めに天と地の作りから考え方を学ばなきゃいかないらしい。

しかし地面は球体で浮いているだなんて急に言われても、地面はテーブルのような形で朝と夜の天井が切り替わると教えられてきた私には理解がしがたい。


えっと……まず、太陽がある。それが中心に何個か並んでいる。そして地面の球……『地球』は、その周りを回りながら回る……。確かにその理論から行けば、昼と夜が切り替わって見えるかもしれない。


でもそれなら……なんで私たちはこうして立てている?なんで振り落とされない? 反対側になってもどうして落ちないんだ……?


分からない……! 本当に分からない!! 小さい頃から勉強は得意だったはずだが、まるで理解ができない!


ステラ曰く『天体論』を三十分でやさしーく教えてもらったのだが、 まるで理解できない。常識が片っ端から否定されているようで、脳が理解を拒んでいるのがよくわかった。


そして悶える私の手が、急に引かれた。



辛抱たまらないと言った顔をしたステラが、ヨダレを垂らしながら私の両手を掴んだのだ。



「大丈夫ですよリンさん!まだ序の口、ここから面白くなりますっ!! 」


「待って、ステラ。これ以上は無理、死んじゃう」


「安心して……私に任せてください!! さて、次はいよいよ他の星についてです! まずは手始めに火星のお話から!」


「ぎゃああああああああ!!」







怪我を負って動けない自分の体を呪った。

そんなとんでもない勉強会の私の成果は、ステラの魔術のメカニズムは『ヒール』などの祈祷に似ていると言うくらいだ。外なる……宇宙にいるらしい神々の力を模倣したり間借りしたりすることで超常的な力を操れるらしい。


ステラが良く使う『鉄拳』はステラの体と親和性が高いらしいのだ。そのため、練習としてステラの母親がそれを教えてくれたらしい。

ちなみに、なんて名前の神様かは全く教えてくれなかった。みだりに名を出してはならないのは、どこの神様も同じらしい。






とまあ、こんな理由で夜遅くまで起きていたのだ。それに不思議なもので、考え出すと眠れないほどに面白い。自分にはまだこんなにも知らないものがあったのかと驚いた。


ちなみにステラは言い終えたあとすっかり眠ってしまった。ハイテンションでずっと話していたし、魔術を使った反動もあって疲れていたのだろう。今はベッドの上で夢の中だろう。




私はステラを起こしにやってきた。出発は早朝。子供たちが起きる前ならあまり寂しい思いをさせなくて済むと、カノコさんが提案したのだ。






部屋の前でノックを三回。中でドタバタと音が聞こえて、ドアノブが回った。


「ふわぁ〜……おはようございますぅ……」



ドアが開くとあくびまじりに挨拶してきた。寝ぼけたその目はほとんど開いていない。 どこかフラフラしていて危なっかしい。


「ふぁ……ぁぁ……おはよう、ステラ」



ステラのあくびが移った。口を押さえながらそう返す。ステラの手を引いて、外へと向かう。



「……?」


ステラと繋いでいた方の手が二回ほど引かれる。首だけ後ろに向けると、ステラがちょっとだけ頬を赤らめていた。


「きのうは……ごめんなさい……難しいお話を私が好きなだけしてしまって……」


「ううん。 たしかに難しかったけど……その分面白かったよ。 新しく貰った方の本も、読み終わったら教えて」


「は、はい……! わかりました! リンさんに教えられるように頑張って隅々まで読みます!!」



そう言って胸をはるステラの目に、眠気など残っていなかった。



玄関をあけると、孤児院前の芝生の露がキラキラと光っていた。私は眠い目をこすりながら、顔を出したばかりの朝日に向かって伸びをする。


「……う〜ん!」



いくらかマシになった。少しずつ頭が動き始めた。

ちょうどその頃、玄関先に見慣れた二人組がたっていた。


カノコさんと、アングラさんだ。アングラさんは相変わらず兜を被ったままだ。表情のしれない姿のまま、アングラさんは私に手を差し伸べた。



「子供たちを救えたのは……お前の武勲もある。礼を言う」


「いいや。アングラさんが強いから、ちゃんと守れたんだよ。 私はそう思う」



そう言って握り返した。ステラはステラで、カノコさんとハグを交わしていた。そして、そんな時間も終わりが来る。



「それではお二方……お元気で」


「……死ぬなよ。 戦えなくなるからな」



そう言って手を振ってきた。私達も負けずに振り返す。


「それじゃあ。元気で!」


「ま、またお会いしましょう……!」


「プルル♪」



一人だけ鼻の頭だったが。





カノコさんいわく、ここから『角尾村』までは街道を真っ直ぐ下れば着くらしい。ようやくゆったりとした旅になりそうだ。


私は荷車をベイに着け、手綱を持った。ステラが荷車に乗ったのを確認して、私たちは歩みを進めた。

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