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七話:騎士は語り合う

「なーんでオレが修道士なんかだと思ったんだっ!バカかお前は!!!」



叱り飛ばすのは先程の騎士。その前で私は正座させられている。……この扱いは不当すぎない?




見上げた私の顔を、騎士はギロリと睨んだ。



「なんだその目は!! まるで俺の方に非があるかのような目だな!?」


「だって、そうじゃないですか! 喧嘩売ってきたのそっちなのになんで私が怒られてるんですか!」


「だってもヘチマもあるか貴様ッ!!」




そう言って、私の胸ぐらを掴む。そして私の顔の前で叫んだ。


「オレの!どこが! 男だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



十秒ほど咆哮した後、騎士は気が済んだようで掴んでいた手を乱暴に離した。唾が飛んできたし、耳がキーンとする……。正直、手にかすったハンマーよりこっちの方が痛い。

私が耳をマッサージしていると、騎士のつぶやきが聞こえた。


「ったく……それどころじゃねぇってのに……あぁっ……!」



声に焦りをにじませながら、そう吐き捨てたのだ。

騎士は乱暴に頭を掻きむしる。その度に長い黒髪が揺れた。

どうやらきちんと訳ありらしい。そこを通り掛かったから殴った、とかそういう理由じゃなくて良かった。





私はその場に座り直した。足は崩して、なるべく長く座れるように。


「あの……良かったら話してください。 聞くだけ聞きますよ」


私がそう言うと、騎士は私に向かい合って座った。そして私の顔を覗き込むなり、ぶっきらぼうに言った。


「お前……なんていうんだ?」



「リン。リンと呼んでください」





私が差し出した右手を、騎士は握り返した。


「オレはアングラだ……好きに呼べ」



ようやく話を取り合ってくれる気になったらしい。私はとりあえず、気になっていたことを聞く。



「ではアングラさん。先に私から聞いておきたいんですが、いいですかね?」


「ああ。構わねえ」


「なんで私に手合わせなんか頼んできたんですか?」



アングラはしばし目を閉じて、「それは……」と切り出した。固唾を飲んで、話の行方を見守る。



「お前が強いかどうか試すためだ」


「……それだけですか?」


「それ以上どうやって測れってんだよ。 けしかけてすぐ戦えて、その戦闘能力も高くなけりゃここには置いておけねえからな」



「置いておけないって……ここ孤児院ですよね? ここらに強い盗賊でもいるんですか?」



そんなに強いのなら子供たちが危険だ。街に輸送することも視野に入れた方がいいかもしれない。しかし私の考えは次のアングラさんの一言で瓦解する。



「……ガキが半分、捕まってるんだよ。下手に動いたら皆殺しにされる」




「半分も!? なんで……そんなことに……」



「オレが抱えて逃げていれば、救えたはずなんだ。 あいつらは足の遅い小さなヤツらばっか捕まえて、人質にしたんだッ!

……うちにいるガキ共は全部で二十人。 そのうち十人も連れていきやがった……!」


アングラさんは体を震わせて、そう言った。悔しさが、憤りが、空気を震わせて伝播してくるようだった。


「ここらにいる魔王軍共……あいつらはマザー・カノコに軍門に下るよう言っている」



「ちょっと待ってください。カノコさんがヒールが使えたところで、ゴブリンとかの魔族を回復することは出来ないでしょう? なんで交換条件がカノコさんなんです?」



「アイツら魔王軍は人間も配下にしている。……特に今ガキ共を攫った奴の部下は、全員が人間。 それにあいつの性癖上、そういうヒーラーがいてくれた方が都合がいいんだ」




人間が魔王軍に下るだなんて……そんなことがあっていいんだろうか? 私には理解に苦しむ。顔をしかめる私を前に、アングラさんも歯を食いしばった。


「分かるぞ、お前が腹を立てるのも。しかしだ、オレらのような事情があって魔王軍に入ったやつらも大勢居るんだ。

マザー・カノコは……カノコさんはそいつらの傷を癒すためにも……魔王軍に入るつもりだ……」


「……えっ」



私が見上げると、アングラさんは今にも泣き出しそうなのを必死に堪えていた。



「助けてくれ……勇者。オレだけじゃ、救い切れねぇんだ。ガキ共を、カノコさんを……」



頭を下げようとした、アングラの両肩を前から支える。


「──っ!」


「今は……今だけは前を見ましょう。 期限はいつまでですか?」


「あ、あした……! 明日の夜だ!」



アングラさんの瞳の輝きを、初めて心地よく感じた。

私は彼女の目を見て言った。


「今は夕暮れ……丸一日程はありますね。 入念に対策をしていきましょう!」


「ああ……ありがとう……。コレで戦える……魔王軍幹部『ツメク』と……!」



ツメク、恐ろしいその名は魔王軍幹部のものだった。

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