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三話:魔女の森にて

「ふぅ……遠かったなぁ……」



王城から歩き続けて気がついたら日はとっくに沈んでしまっていた。せっかくなのでローレルに貰ったバスケットも、布に包んで中身だけ持ってきてしまった。

既に両親への挨拶は済ませ、私は村の外れまで来た。そして今、『魔女の森』と呼ばれる手付かずの森の前に立っていた。



「それで、こんなに暗かったっけか……」



思わず一言つぶやいた。

森の中は夜であることも相まって、真っ暗闇であった。間伐もされておらず、ほぼ自然のまま残っている。生え放題の針葉樹に、無数のツタが絡み合っていた。まるで森自体が人の侵入を拒んでいるかのように見えた。

一説ではここ、私の故郷の村で起こった事件に由来するらしい。魔女騒ぎが起こった時、魔女が放逐されたのがこの森だったから誰も近寄らないとか……。

私も小さい頃は親に近寄るなって言われてたっけ。懐かしいなぁ……。

目を閉じるとありありと思い出せるようで……。



「……って、いけない、いけない! 感傷に浸ってる場合じゃないって!」



頭を左右に激しく振って、両頬を思いっきり3回叩く。ちょっとだけ気合が入った。



「よーし、行くぞっ!」



私は勇者としての使命を果たすために……そしてローレルといつの日か話し合うために、不気味な森へ足を踏み入れた。ランタンの火を左手に掲げ、ずんずん進む。真夜中ということもあり、生き物はみんな寝静まっているようだ。しんと静まり返っているが、そこかしこで寝ている鹿や鳥をみかけると、なんとも言えず安心してきた。

そのまま歩いて行くと……。



[ガサ……ガサガサ……]


「うん?」



私の後ろの方の草むらが動いた。……寝ぼけた鹿でも出てきたのだろうか。足を止め、上から覗き込む。



「誰かいるのー?」


[ビュンッ!!]



茂みの中から何か小さいものが飛んできた。



「──ッ!」



咄嗟に身を翻し、後方に着地する。一体……何が!?



「クク……ケケケケ!!!」



声の主は笑いながらやってきた。緑の肌、尖った鼻に耳、小さい背。間違いない、ゴブリンだ!ここを根城にしているのだろうか?

私が注目しながら真後ろに下がると、



「クク、ケケケケ!!」

「ケケケ!キキキキッ!」



私が最初にいたところより、少し後方の茂みから2人が出てきた。最初に出てきたパチンコゴブリンに驚いて、下がらなかったら囲まれていただろう。なかなかに頭脳派だ……。

つまり、私の前には三人のゴブリンが臨戦態勢でいた。手にはそれぞれ棍棒、パチンコ、綺麗なククリナイフ。さしずめゴブリン盗賊団ってところだろうか?



「……クケケケケッ!」



近接武器を持った前衛2人は、ゆっくりとにじり寄ってきた。後方のパチンコの人は私に向けて狙いを定める……。



「この子たちに……話し合いの余地はないよね」



私は背中のロングソードを引き抜いた。

私たちはしばし睨み合い……。



「グゲェェェェッ!!」



後ろのパチンコゴブリンが痺れを切らして雄叫びをあげる。それに合わせて前2人も飛びかかってきた。



「…………!クキキキキ!」

「クカカッッ!……!」



私はロングソードの剣の根元、刃の潰してある部分を持って飛び上がる。跳躍力は、私の方が上のようだ。向かって右側、ククリの方の頭を踏んずける。



「……ッ!」



さらに高く飛んだ私は、ちょうど棍棒ゴブリンの頭上にいる。



「……!?」


「貰ったよっ!」



私はそのまま刃を上にして、真下に剣を突き立てる!



「グガァァァッ……!」



柄部分の先端が左の鎖骨にあたり、鈍い音を立てた。 これで棍棒を振れないだろう。私はそのゴブリンの着ていたボロ切れ、その首根っこを掴む。



「さて……1対1になったけどさ、そっちが不利じゃないかな?」



そう言って剣を振り下ろし、奥の1人にパチンコを下ろすよう促した。



「グゲゲッ…………!」



ゴブリンは渋々パチンコを下ろし、私もゴブリンを地面に下ろした。



「交渉成立……ってことでいいんだね?じゃあここ通してもらうよ」



私はロングソードをしまい、また歩く……。あれ?なんだかパチンコゴブリンが笑っているような? まじまじと見ると、やはり笑っている。口角がつり上がっている。



「……グゲゲ!」



まあいいだろう。気を取り直して歩き始めると……足が重い?ふと下を見てみるとククリの方が私の右足に絡みついている。ニタリ、と足元のゴブリンは笑った。

ということは……!

急いで目線を上げるとゴブリンは私目掛けてパチンコを引き絞っていた!少し高め……つまり狙いは頭だ! わかったのも束の間、目の前で軽やかな打撃音が響いた。



「グゲゲゲ! ……ゲ?」



私の前にボタリ、とゴブリンが落ちる。




「クキキ……クキッ……」



私はククリゴブリンを、すんでのところで蹴り上げたのだ。ゴブリンの体は宙を舞い、石が頭に当たった。そのまま大きなタンコブをつけて、のびてしまった。



「意外と力持ちでしょ私。これ以上……騙しちゃダメだからね? 」



最後のゴブリンの目の前まで行き、手のパチンコを蹴飛ばす。



「グ、ゲゲゲ…………グゲェ………」



ゴブリンは両手を合わせて頭を下げ、私のマントの代わりのボロきれの裾を引いてきた。着いて来いってことかな?

そして深い茂みをかき分けた先に通された。



「わあ……!」


「プルル……ヒヒン……」



そこには馬が木に繋がれていた。栗毛でなかなか体格がいい。少し弱ってはいたが、ここまでやってこれたということは、なかなか良い足なのだろう。問題は……。



「……この子どうしたの?」



ゴブリンがこんな上等な馬を、まして鞍ごとどうやって手に入れたかだ。絶対に買っていないことは確かだろうけど。



「……グゲゲゲ……」



ゴブリンはそのまま一目散に逃げてしまった。これ以上悪いことしなきゃいいけど……懲りてくれたかなあ?

私はひと段落着いたためその辺の枝を集め、ランタンの火を移す。

木に括られた手綱を外してあげると、その子は焚き火のそばで座った。よく人馴れしているようだ。私もぼんやりと燃え上がった火のそばに座り、少し横になる。



「私はリン。これからよろしくね 」


「プルルルッ……」



彼は鼻を鳴らして答えた。

私は布からパンを二切れ取りだし、一枚はその子にもう一枚は私が口にする。 これから森を抜けないとね……。今はだけは体を休めようと、私はゆっくり目を閉じた。

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