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四話:きらめくような良い目覚め

「遠路はるばるご苦労さまです、勇者さま!」


白髪(はくはつ)のシスターは目を輝かせてそう言った。




「いえ……たまたま山道を歩いていたらここにたどり着いただけでして」


「たまたまここに来られるだなんて、奇跡に近しいです! いいえ、きっと神が私たちを引き合わせてくださったに違いありませんわ!」



私の手を掴んで、こちらを見上げた。私はその情熱的な目線から顔を背け、必死に考える。








「(なんでこんなことに……!?)」






──事の発端は少し前。私が茂みを超えた先、開けた原っぱに出たところまでさかのぼる。






急に道が開けた。目の前には大きな原っぱ、奥には建物が見える。

あんな鬱蒼とした森から一歩踏み出ただけでこんなに明るくなるだなんて……。私は出発してからのドタバタで、疲れたこともありすこしぼーっとしていた。




「おにいちゃんだあれ?」


ボールを持った小さな子が、そんな私に話かけてきた。


「え?」


突然話しかけられて戸惑っていると、




「すごーい! きしさんだ!」


「騎士さんってことは剣持ってるんですよね!」


「どこから来たのー!?」



次々と子供たちがやってきた。私の手やら色んなところを引っ張って、囲っている。


「待って! 一人ずつ話して!」



私の願いも虚しく、私に群がる子供はさらに増える。


そして一人の子供が荷車を覗いた。



「あ! 神父様が倒れてる!?」


「誰この人! 女の人!?」


「あ、ちょっと! あんまり触ると危ないよ!」




そう言うも私はその場から全然動けない。それでいて子供たちは身を乗り出して荷車を見ようとする。そしてこの荷車にはブレーキがついていない。体重をかけただけで動いてしまうだろう。



そう思ったがつかの間。


「そこで何をしているのですかー!?」



大人びた声が聞こえた。その声の主こそ、先程私に詰め寄っていたシスターさんだったのだ。シスターさんは私の方にずんずん足を進める。その圧に押されてか子供たちはシスターさんに道を開けた。


シスターさんは私にずいずい顔を近づける。なかなかお怒りのようで目が鋭い。




「あなた! ここにどうやって来たかは知りませんが一体何を……!って、う〜ん?」



シスターさんは私の首飾り……勇者のネックレスをまじまじと見つめる。私の顔とネックレスを交互に見て、血相を変えた。



「わ、私の名前はカノコと申します!

名乗りもせずに、とんだご無礼を致しました!まずお招きしますのでこちらへ!!」


「──へ? ちょっ!?」



こうして孤児院の応接室に連れてこられた私は、今一対一でシスターさん……もといカノコさんのお話を聞いていたわけだ。





カノコさんはまだ興奮冷めやらぬと言った感じで、私に熱く語っていた。


「それだけではございません! うちの神父も助けてくださったのでしょう? どうしても子供たちのために砂糖が欲しいと、出かけたっきり帰ってこなくて私はもう気が気ではなくてですね!」


「な、なるほど……それは大変でしたね……」


「ええ! もちろんでございます!! それに……!」



カノコさんの話は、もうとどまることを知らない。そろそろステラが心配になってきた。過保護かもしれないが、今の彼女は決して安定しているとは言い難い。

また、あんなことになったら本当に大変だ。出来れば相性の悪そうな神父さんとは離しておきたいし……。



「たすけてぇぇ!!」




そんなことを考えていたらステラが呼んでいる声が聞こえてくるようで……。


「りんさぁぁぁん!! た、たすけてくださぁぁぁい!」



……本当に聞こえてるのかもしれない。



「すみません、ちょっとだけ離席しますね!」



私がそう言うと、


「はい! お気を付けて! 」



カノコさんはそう返した。

私は部屋から出て、声の聞こえる方に向かって歩き続ける。まあまあな広さの建物の中で、ステラの声が反響してしまっているのでなかなか骨が折れた。



「こ、こっちですぅ……!!」



そう言って、どうにか手を振るステラが見えた。周りを子供たちに囲まれている。


「もう! ステラさん! 私が右手のもふもふ触ってるんだから下げてて!」


「そ、そうでした! すみませんっ!」



そう言って手を下げる。今度は背中の方から小さな手が伸びてきた。


「お耳もふわふわしてる!」


「えひゃあ!? さ、触らないでくださぁい!!」



「うん? これって……しっぽだ!しっぽも生えてる!」


「ひゃああああああっ!! 触らないで!めくらないで!! 見えちゃう!見えちゃいますからぁぁぁ!! 」




てっきり村にいた頃と同じようなことをされていると思っていた。なんだ、楽しそうに子供たちと遊んでいるだけだったようだ。不思議と笑みがこぼれる。



「暖かい目で見守ってないで助けてくださあああぃ!! 」


「助けるって……どういうごっこ遊びしてるの? お姫様役?」


「遊んでるんじゃないんです!遊ばれてるんですぅ!!!」



ステラの必死の叫びと抵抗、さすがに何か違う気がしたので私は子供たちの間に割って入った。




「ごめんね……ステラが可愛いのはわかるけど、ちゃんと並んでね?」


「かわっ!? か、可愛い!? 可愛いってなんですかリンさん!!」




私がそう言うと、子供たちもわかってくれたようだ。


「うん! ステラお姉ちゃん!私たちステラお姉ちゃんの長い髪結びたい!」


「ぼくは手のもふもふ! 並ぶからさわらせて、お姉ちゃん!」


「お、お姉ちゃん……! い、いいですよっ! もちろんですっ!」



ステラもステラで目を輝かせる。なかなか言われない響きが嬉しかったようだ。口角がみるみる上がっていく。




「……良かった」



一時はどうなることかと思ったが、楽しそうなステラを見て安心できた。 少しだけ重荷がとかれた気分だ。











私はその場から離れ、カノコさんの待っている応接室に戻ろうとした。



「待て」


「── !」



肩に置かれた手を払い除け、振り返る。

私の目の前には重々しい鎧をまとった騎士がいた。まるで岩を削り出したかのような荒々しいその鎧は、孤児院にいるとは思えない強烈な異質感を放っていた。




「オレと手合わせしろ」



低く重い口調で、確かにそう言った。

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