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三話:旅の始まり

あくる朝、俺は王国の門前に立っていた。青鹿毛の馬一頭、そして大量の荷物の入った袋を背負って。なんというか夜逃げでもするかのような出で立ちだ。


往々にして旅する騎士には荷物持ちがいるものだが……今は鐚銭ひとつすら惜しい。そんなのを雇っている余裕などないのだ。


なにせ……。


「ヒーン!!」

「うわっ!落ち着いてください!」



馬代を少しでも節約しようと、安値の馬を買ったのだ。値段の割に肌ツヤも良かったのでかなり健康そうだと思ったが、いささか元気すぎた。


手綱を強く引き、無理やりなだめる。馬は少し落ち着いたものの鼻息を荒らげ、えらく興奮している。こんな状況では付き人を雇う金銭的余裕はおろか、精神的余裕すらない。


本当にこんなじゃじゃ馬で大丈夫か?まともに走れる気がしない。



「なんなのアンタ。もしかして馬と歩くの初めて?プププ……お姉ちゃんがおしえてあげまちょうかぁ?」



そう言っていやらしく横目で煽ってくるじゃじゃ馬その二。

口に手を当てたぐらいにして、本当に人を煽るためだけにあるような表情をしている。ここまでくると芸術品だ。『美丈夫を煽る女』。そう名付けて美術館にでも飾ってやりたいくらい、彫像にしてやりたいぐらい完璧な出で立ちだ。ゼラの煽りスキルには脱帽だ。これだけで国が取れる。



「なんなのよあんた……人の顔ジロジロ見て……なんなの?気でも狂った?」


「少しでもあなたを脳内で褒めてないと気が狂いそうなんですよ」


「しっぽ出したわね。失楽園の蛇」



そんな悪態から俺らの旅は始まった。

歩き始めるとすぐに、ゼラは馬の前に出る。


「危ないですよ。私としてはそこに寝転がっていただいても構いませんが」


「そんなことやるくらいなら、あんたを母なる大地とキスさせてやるわ。それはそうと、コイツ名前あんの?」


「え? ありませんけど」


「アンタ正気? これから苦難を共にする相棒なのよコイツは! 名前くらい決めてやるのが礼儀じゃないの!?」


「それならゼラはどうです?いい名前でしょう?」


「いいセンスしてるじゃないの。ご褒美に私の右アッパーと左フック、お好きな方をプレゼントしてあげる」



「両方とも私にはもったいない代物ですよ、遠慮しておきます」



そう言ったところで、岩の割れ目から生えた紫の花を見つけた。まん丸で、可愛らしいフォルムだ。



「……スカビオサ」


「うーん長い」


「ビオサ」


「それよ!」



ゼラはそう言うなり、こちらを指さした。


「ビオサ! いい名前ね!あんなやつのことなんか放っておいて、さっさとリンさん見つけるわよ!」


「そんなことをしてみなさい。今ビオサの所有証書は私の手にあります。私としては貴女を馬泥棒として訴えるのもやぶさかではありませんよ」


「痛いところをついてくるじゃないの……」



そう言いつつ、ゼラはビオサの顔に触れた。


「ふふん♪ ビオサ、これからよろしくね!」


「ブルルルッッ!!」


ビオサは頭でゼラを思いっきり小突いた。面長の顔は器用にゼラの横っ腹に命中する。


「うげっ……」



ステラは脇腹を押さえたままばたりと倒れる。


「これは痛いところを突かれましたね、ゼラ。よくやりましたビオサ。貴女ならやってくれると信じていましたよ」


「ヒヒンッッ!!」



ビオサには男女平等の概念があるらしい。俺の脇腹もぶっ叩いた。


「ぐうっ……しかし俺は鎧を着込んでいる! お前の攻撃は無意味よっ!」


「ヒンッ」



倒れた俺の腹を、前足で蹴りあげた。



「ぐあああっ!!」



少し離れたところで落ち、地面の上でゼラと並んだ。



「へ、へへっ……土の味はどうかしら」


「貴女と食べているせいで死ぬほど不味く感じますよ……」



二人仲良く腹を押えて前のめりに突っ伏している。傍から見ればサバトかなにかだろう。あるいはもっと不気味な何かかもしれない。



そんな俺らの間を駆け抜けるビオサ。


「プルルルッ♪」



上機嫌に鼻息混じりに魔女の森へひた走る。



「ビオサ……元気ですね…… 」


「そうね……って、私たち置いていかれてない?」




数秒の沈黙の後、俺らは起き上がった。


「私の金貨二枚!!!」

「アタシの荷物!!!」


「ちょっと待ってください。貴女いつの間に荷物なんか掛けたんですか!!」


「急に走り出すだなんて思わないじゃない!! っていうかあの子のこと金貨たったの二枚で買ったわけ!?信じらんない!!」


「怒るところそこですか!?」



向かい合って怒鳴り合うも、ビオサは真っ直ぐ魔女の森に直行。そのまま茂みに突っ込んで枝を撒き散らす。森には立派なトンネルが出来上がった。


「追うわよ」


「ええ。遅れないでくださいね」



私たちは真っ直ぐ森に走り出した。

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