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一話:背水の陣

王の玉座前。俺とゼラは絨毯の上で跪いている。


「ならばゆくがよい。必ずや勇者を……いや。背信者リンを捕らえ、我の元に連れ帰るのだ!」


「はっ! このローレル、必ずや貴方に栄光を捧げましょう!」


「はい! ワタシも全力を尽くします!」



玉座に座る王に一礼して、謁見の間を後にする。

もちろん、好青年らしい笑顔は忘れぬように。



王の取り巻きやら○○長と名前の最初に付くやつやらに、軽く一礼して門から外へ。

皆、俺の方を睨んでいる。……隣のゼラも含めて。



連中は、やはり俺の事をよく思っていないようだ。

閉じた門の向こうからしわがれた怒鳴り声が聞こえる。


「王!まだあやつの嫌疑が晴れたわけでは無いのですぞ!」

「付き人のあの女もいけ好かない!あんな狂犬共を放し飼いにして良いというのですか!」

「そうでございます! あんな信心もない男に、勇者の捜索をさせるだなんて!きっとやつの両親を殺したのもあやつに違いありません!」

「それに加え王よ!貴方の収賄も疑われているのですよ! そんな中こんな独断を……!」




「静かにせい」






沸き立つ老人たちを王が制する。



「落とし前をローレル自身につけさせ、それを見届けてもらうだけよ。そして奴らの腕っ節、聡明さをお主らも知っているだろう?」



場はしんと静まり返った。


何も文句が聞こえないあたり、どうにかこの場は切り抜けたようだ。広間を過ぎた廊下でほっと胸を撫で下ろす。


「はぁ……暑いってもんじゃないわ……どうなってんのよ」


ゼラは首元の布をゆるめ、手うちわで顔を扇いだ。ついでに縦長の帽子まで外している。急に口調が変わり、少しぎょっとする。


「なによ。 アタシの顔になんか付いてんの? 」


そう言って下から睨んでくる。コイツいつも俺の事を睨んで……というか顔を凝視してくるが、俺の顔に穴でも開ける気なんだろうか?

やめろよ、こう見えて美丈夫だし俺の最大の武器なんだから。

そろそろ視線が痛くなってきたので、第二の武器の笑顔で応える。


「いいえ。ただ、随分と気を抜かれるのだなと思いまして」


「これから寝食を共にしないといけないのに、気なんか遣ってやってられるかってのっ!!」


「ここは王城ですよゼラさん。気を抜くにも限度があるとは思いますが」


「昔居た孤児院のマザーみたいなこと言うわねアンタ。いけ好かないわ」


そう言って襟を正した。そのさなかも、俺を見ている。俺はそれを横目につかつかと歩く。



「ねぇ……なんでアンタずっと敬語なわけ? リンさんと話してる時はタメ口だったじゃない」


「なんでそれをご存知なんですか?」



というかなんで俺のことは呼び捨てで、リンのことはさんをつけて呼ぶんですか???


俺の問いかけに少し動揺したようで、少しだけ目が丸くなった。


「なっ……アンタには関係ないでしょ!!」


そう言ってそっぽを向いて、つかつかと先を行った。本当にコイツのことは分からない。



長い廊下を越え、ようやく出口まで着いた。


城から1歩外に出ると、下士官やら侍女やらがわんさかいた。全員サボって野次馬だ。仕事しやがれ。

どいつもこいつも俺から目を逸らしている。

だが少し聞き耳を立てれば、


「リンさん殺ったとかマジかよ……」

「ローレルのこと怪しいと思ってたんよ……」

「魔王国からのスパイなんだろ?とっとと出ていけばいいのに……」

「あんなのが上官やれんなら、俺は国王になれるわwww」



そんなことを集って、下品な言葉遣いで話している。

立派に野次馬してた割には、話をクソも理解できていない。何より、言葉に品性の欠けらも無い。


近頃は目に余るくらいで、囲まれていたリンが話の9割を理解出来ていなかったことすらあった。

馬鹿を晒すぐらいなら引っ込んでりゃいいものを。



閑話休題。




反応はないだろうが、そいつらにも微笑んで会釈。するとヒソヒソと話しながら退散していった。度胸も無いのかコイツらは。




俺はそのまんまの顔で宿舎の自室に入り、ドアを閉めて鍵をかけた。


玄関前に立てかけた貰い物の姿見には、笑顔をうかべた好青年がいた。

誰も褒めてくれないから俺だけでも褒めよう。ナイス美丈夫!!



「ふぅ……」


息を吐くとともに無表情に戻ると、途端に老け顔のおっさんに変わる。最近年上に見られることが多かったが、改めて見ると目元のシワとか皮膚の水分不足とかが目立ってきていた。


俺もあんな元老みたいなしわくちゃになっていくんだろうか。



「あー…………くっっっっっそが…………」



思い出したくないことまで思い出し、考えるのが面倒になった俺は、膝から崩れ落ちてそのまま突っ伏した。

自己嫌悪と呵責で嫌で嫌で仕方が無くなる。


「クソ野郎どもが……」



ここ2日3日の精神的疲労やらなんやらが全部降り掛かっできた。俺以外みんなクズ。

もう一歩も動きたくない。



腕も足も投げ出してしばらく放心する。

これから鎧を脱いで、ダブレットを着替え、香水振って、明日からの食料、馬、武器、ありとあらゆる準備を始めて……。



「めんっ……どくさぁぁぁっ」


ダルい。全てが嫌になってくる。

俺一人で行くならまだしも、あの女がついてまわるとか胃が何個あっても足りない。


できることならこのまま全部終わっちまえばいいのに。実はタチの悪いオオカミに襲われた……とかで、リンはその辺で野垂れ死んでいないだろうか。そんなヤワじゃないか。

そんな空想を続けながら、足回りのベルトを緩めていく。



状況証拠的にリンが自分の父母を殺したのは、やはり疑問が残る。

というか大体のやつが俺が犯人だと思っている。今更慣れたものだが、ここまで人望を無くすと助力は得られまい。俺に必要なのは明確な犯人とその立証、そしてリンを連れ帰ること。それが出来なければ俺が野垂れ死にすることになる。


また、殺人捜査なんてもんはその辺の司教が行うんだが、それもあってリンは初歩の初歩の辺りから犯人候補から外されている。

あいつら教会関連の奴らは隣人を疑えないらしい。説得には骨が折れることだろう。


そして俺の相方になったらしいゼラ。あいつは完璧にリンの味方だ。そんなふうな言動をしている。寝首を掻かれないようにしなくてはならないだろう。


とどのつまり、前進と成功以外は死だ。


「──クソが……」




旅支度を始めるために、有り金をかき集め始めた。

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