一話:魔女の森の『魔女』
そこには、名状しがたい『巨女』がうずくまっていた。体格はそこそこせが高めな私くらい……いやまだ大きい。大きめなローブ……というか黒っぽいボロ切れをまとっているので良くはわからなかったが、私より恵まれた体格なのは確かだった。
「うぅ……やめてくださぃぃ……」
子供たちに木でつつかれたり、足蹴にされている。
「ちょ、ちょっと……何をしてるの!?」
「こいつは魔女なんだよ!変なやつでこんなボロ屋にいつもとじこもってるんだ……ぜっ!」
「ぐうっ……!」
魔女と呼ばれた彼女は、腹を蹴られた痛みに小さく縮こまって苦しんでいる。子供の所作は変に慣れているし、いつもこんなことをしているのだろうか……。
ちょっと待って?『魔女』!?魔女って作り話にしかいないと思ってたけど……。もし彼女が本当に魔女なら魔王と繋がりがあるかも知れない!
でも……どうすればこの魔女さんと話ができるだろうか……。この子たち結構粘着してそうだなぁ……。
ここまで陰湿って……なにか原因があるんじゃ?原因があれば、それを解決すればその子たちはこの子をいじめなくなるだろう。そうすれば……私はこの魔女さんとお話できるし、魔女さんは蹴られなくて済むし、さらにその子たちはストレスの元が無くなって一石三鳥!
「なんでこの子をいじめるの?」
ダメ元で、私は近くにいた子に問いかけた。
「だって変な格好でさ!なんか臭いし!」
「オマケに邪教の信徒だぜこいつ!気持ち悪い糸くずみてえなのの絵を飾ってんだ!」
子供たちは口々に彼女を罵った。この子をどうにかしろという願いは私の力を超えているかもしれない……。前者はともかく後者はちょっと無理だ。
とにかく、子供たちを魔女さんから離さないと……!
この状況でただ言っても聞いてくれないだろうけど。
私は子供たちの目線まで屈んで話しかける。
「事情は分かったよ。 あとは私に任せて帰った方がいいよ!」
私は子供たちにそう言って、女の人に向き合った。
「えぇー! これから魔女が倒されるのに見てちゃダメなのかよー!」
「ケチー!」
「どーせ適当なこと言って俺らを追い払う気だろー!」
子供たちはそう言って駄々をこね始めた。うーん……いつまでもここに居られると話せないんだけどなぁ……。うん?
「……!」
小屋裏手側……村の外れの森との境界に、キラリと光るものを見つけた。ちょっとだけこの子たちを驚かそう。
私は腰に提げたロングソードを引き抜いた。
そして麦わらの子がなにか喋りそうだったので急いで口を塞ぐ。
「もがっ!もががっ!」
必死に抵抗するその子の口を塞ぎ、森の方を睨みつける。
「──静かに! ……森の方に怪物がいる」
そう言うと子供たちはすぐに青ざめた。何か言いたげの子供たちの言葉を塞ぐため続けざまに、
「……怖いかもしれない。でも騒がないで。やつは蛇だ。口を開いた子の口の中に飛び込んでくるよ」
そう言うと子供たちは顔を合わせながら示し合わせ、互いに手で口を塞ぎあった。
「私が合図したら、ゆっくりここを離れてお家に戻るんだ……わかった?」
振り返って聞くと、何度も頷いてきた。そして……。
「……今だ!」
私が叫ぶと子供たちは後ろを向いて駆け出した。それと確認してから私は魔女さんを両腕で抱える。
「ごめんなさい。少しだけ静かにしててくださいね」
私の言葉に何度も頷いて応える。もっとも彼女はすっぽりローブを被っているので、シルエットでそう判断したのだが。
私は急いで茂みの中に入り、しばらく走る。何度も木の枝が何度か顔に当たりながらも、私は村が見えなくなる辺りまで走り抜けた。
「あとは……」
手頃な平らな地面を足の感覚で探し、そこに生えている草をロングソードで刈る。
そうして草に囲まれた秘密基地みたいなスペースができた。ちょうど一人分だ。
私は肩に担いでしまっていた彼女をそこに下ろす。
下ろした魔女さんは、必死にフードを引っ張って押さえつけていたフードの下からぷっくりと頬を膨らませていた。息を止めているようだ。手までローブの袖で隠れていたので人相などはまるっきり分からなかったが、案外可愛いところもあるようだ。
だが私はそれ以上に、彼女の頭の上のところが気になって仕方がなかった。
彼女の頭のフードには、明らかに人間にはないような固そうなシルエットが現れていたのだ。
「貴女は……一体……!?」