「お前は役に立たない」と言って【追放】した特殊スキル持ちの冒険者が、翌日も平気でパーティーに顔を出して来た件
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俺の名前はグズオ。
剣と魔法の世界『フェアリーワールド』に住む人間だ。
この世界に住む人間は皆、特別なスキルを持っている。
その中には、一見役に立たないスキルもある。
そして、そのスキルの一部は、ある特殊な要件を満たすことで開花する。
その要件とは追放である。
仲間に裏切られ、絶望の底に落とされる。
そうすることで特殊スキルの真の力が解放されるのだ。
さて、俺のスキルだが、残念ながらそういった特殊なものではない。
突然強くなったり、応用力がとてつもなく広かったり。
そんなものではない。
俺のスキルは『追放』。まさにおあつらえ向きといったところだろう。
追放されることで解放される特殊スキルを見つけることが可能となるものだ。そして、そのスキル所有者を見つけた瞬間、どうやって追放すればいいか――その手順が頭の中で瞬時に構築される。
そう、俺のスキルは、特殊スキル所有者のためのものなのだ。
決して主役にはなれない最低のスキル。
報われることのないサポート役。
それが俺だ。
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さて、そんな俺だが、これまでこのスキルを活用したことはない。
それには色々理由があるが、ここでの説明は割愛しよう。
何せ、今日俺はこのスキルに基づいて、一人の冒険者を追放するつもりでいるのだから。
追放される冒険者の名前は『ミア』。
回復系スキルの持ち主で、縁の下の力持ちタイプだ。
だが、追放されることでその回復スキルが世界でもトップランクまで成長するらしい。
実際、彼女はとてもいい人間だ。
俺たちのパーティーが彼女にどれだけ助けられてきたことか。
スキルだけでなく、彼女がいるとパーティーの雰囲気が明るくなった。
今後も、一緒に冒険をしたい。
心の底からそう思える相手だ。
だが――いや、だからこそ、俺は彼女を追放することにした。
彼女のために。
彼女のスキルのために、俺自身を犠牲にすることにしたのだ。
そう、犠牲だ。
彼女のスキルは開放後も成長を続ける。
その成長を促進するためには、追放が本意ではないことを悟られてはいけない。
だから、俺たちは彼女の追放による戦力ダウンが予想外だった振りをするのだ。
落ちぶれた、惨めな敗北者を演じなければならない。
予想していなかったから、落ちぶれた。
予想していなかったから、八つ当たりをする。
そんな人間になる必要があるのだ。
ちなみに、このことについては、パーティーの他のメンバーに説明済だ。
俺だけでなく、パーティー全員が落ちぶれることになる。
それなのに、仲間たちは彼女の『追放』を認めてくれた。
自分たちが悪役となることに同意してくれた。
彼女のために。
その日、俺たちの気分はひどく落ち込んでいた。
一仕事終えて、俺たちのパーティーはクエスト報酬を受け取った。
追放を言い渡すのは、このタイミングがベストなのだ。
これから、彼女を貶めることになる。
きっと、彼女には嫌われてしまうだろう。
だけど、それが彼女のためになるのだ。
その役目は、俺が担う。
こんなこと、他の仲間にはさせられない。
「ミア、お前に話がある」
「何ですか、改まって?」
「このパーティーの中で、お前は俺たちの足を引っ張っている。お前は役に立たない。だから、お前を追放することにした」
「え……」
いつも明るいミアも、さすがに途惑っているようだ。
これまで、俺たちは仲良くやって来た。
突然そんなことを言われても驚くだろう。
そして、受け入れられないだろう。
「とにかく、これは決定事項だ。お前は俺たちのパーティーから抜けてもらう」
俺は努めて冷たい声音で言った。
彼女は、とても悲しそうな顔をしていた。
それを直視するのはとても辛くて――。
「さっさと行け。お前の顔なんて見たくないんだ!」
俺は怒鳴りつけた。
すると、彼女は走って俺たちの前から去っていった。
その後ろ姿が見えなくなるまで、俺たちはずっと彼女を見ていた。
そして彼女が完全に視界から消えると――。
「俺たち、これでよかったんだよな?」
「ああ、そうだよ。彼女のおかげで、僕たちはここまで来ることが出来たんだ」
「感謝してもしきれないな」
そう言いながら、肩を寄せ合った。
ミアの幸せを祈りながら。
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翌日、俺たちは酒場にたむろっていた。
ミアが抜けたことで、俺たちは落ちぶれたということを周囲に見せる必要がある。
そのために、俺たちは昼間から酒を煽り、管をまいているのだ。
どれだけ酒を飲んでも、一向に気分は晴れない。
だけど、ミアのためだと思えば、少しだけ誇らしい気分にはなれた。
だが――。
「昼間から酒を飲んでるんですか? いくら先輩達でも、それは許せませんよ?」
「……ミア?」
「はい、そうですが?」
ミアは、当然のように俺たちの前に現れた。
そして、俺たちと同じテーブルに座る。
彼女は平然としていた。
まるで、何もなかったかのように。
「お前、何でここにいるんだよ? 昨日、追放しただろ?」
「はい、そうですね。追放されて、逃げ出して。とても落ち込みました。そうしたら、私が持っていたスキルが解放されたみたいなんです」
「そうか。それ以上は聞きたくない」
「いいえ、聞いてもらいますよ先輩方。私の基礎スキルは『回復魔法』だということはご存じですよね? 昨日、このスキルが進化して『超絶回復魔法』になったんです」
「ああ」
「でも、それは解放されたスキルそのものではないんです。解放されたスキルの名前は『メンタル力(強)』です」
「メンタル力?」
「(強)です」
つまり、精神力が強くなったということだろう。
だから平気な顔をしてこの場に現れることが出来たのだろうか。
「魔法というのは使い手の精神力によってその強弱が決まります。だから、解放されたスキルによって精神力が超絶強化された私は、元々持っていた『回復魔法』のスキルを『超絶回復魔法』に進化させることが出来たんです」
「そ、そうか。だから、パーティーに復帰させろっていうのか?」
「はい!」
どれだけ素直なのだろう、この子は。
追放されたのに、嫌な顔一つせずに俺たちに会いに来てくれた。
でも、それを許すわけにはいかない。
それは彼女のためにならない。
「それは無理な相談だ。俺たちはずっと、お前のことが前から目障りだったんだよ!」
「……ありがとうございます」
ミアは嬉しそうに言った。
精神力、おかしな方向に行ってないか。
少し心配したが、それは杞憂だったらしい。
「私はスキル開放によって、対象の『鑑定』もできるようになりました。それは、能力値やスキル、精神状態を理解することが出来るようになるものです。先輩。先輩は私を罵りながら、とても辛い思いをされています」
「それは……」
「先輩のスキルのことも、今鑑定してしまいました。先輩たちが、私のために私を追放してくださったことも、もうわかっています。今更言い訳したって、もう遅いんですよ」
「でも、それじゃあ、お前のスキルの成長が――」
「はい。確かに、すべてを私が理解してしまったので、スキルによるこれ以上の精神力成長は見込めないでしょう。ですが、全く問題ありません。だって、その責任は先輩たちに取ってもらいますから! 私、先輩たちと一緒に冒険を続けていれば、特殊スキル以上に精神的成長をすることが出来ると思います!」
「……過大評価だよ」
「そんなことはありません。私のために、心を鬼にして私を『追放』してくださったんです。そんな素晴らしい精神力をお持ちの先輩方からは、多くのことを学ばせていただきます!」
そう言って、ミアは頭を下げた。
その姿を見て、俺たちがどれほど喜んだことか。
『追放』
最低最悪のスキルだと思っていた。
己の不運を呪ったことは数えきれないほど。
だが、最後の最後に、運命は逆転した。
このスキルは、俺たちの絆をさらに強くしてくれた。
きっと、こんなことはスキルを与えた神だって想定外だろう。
なお、この3年後、俺とミアは結婚をすることとなる。
この間、ミアの精神的成長は続け、先輩だったはずの俺は尻に敷かれることになる。
仲間たちは、そんな俺たちを生暖かく見守ってくれている。
そして、彼らは祝福してくれている。
祝福と多少の僻みを込めたこの言葉を添えて。
「ざまぁ(祝)!」
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