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40.マクリオ男爵令嬢の被害証言

エレナと婚姻したが発表前ということもあり学園へは別々の馬車を利用して登校することになった。


宰相には自宅から通わせると言われたが、毎朝、ウェスタリア侯爵家の馬車が王宮の裏口に迎えに来ることで納得させた。

正門は目立つから何を言われるかわからないらしい。そりゃそうだ。


僕とエレナの婚姻の告示は明日の予定だったが、泳がせている人物がいるから、もう少し後にしてもらった。

隠れられると厄介だ。


昼に食堂を利用すると、いつも以上に賑わっている。

話題の中心はマクリオ男爵令嬢であることは変わらないな。



「わ、私はただ、皆さんと仲良くしたくてっ。それなのな、そんな言いがかり、あんまりですっ!」


あ、茶番が始まっているのか?

食堂でやるなよ。


侯爵令息まで籠絡されたか。アイツは次男で使えないからいいけど嫡男に迷惑かけるなよ。婿入り先の伯爵家との縁が切れたら爵位がなくなって困るのは自分だぞ。


「言いがかりではありません。マナーとして当たり前のことを申し上げたのです。婚約者のいる男性と親しくされるのは不躾な行為ですわ」


「皆んなで仲良くお友達になりたいだけです。貴方も仲良くしましょうよ。ね、皆んな?」


くるりと自分の取り巻きには笑顔を振りまくんですねー。社交界では爪弾きもんだな。あんなのを呼んだ主催者は品位が問われる。


慌てて駆け寄ってきたジェラール辺境伯令嬢が、伯爵令嬢に代わりに謝罪しているけど、自分で謝らせろよ。


つぅか、ありゃダメだな。

高位貴族の令嬢の貴重な時間が無駄になる。

もうマナーレッスンを受けさせても無駄だ。

アイツは王宮の夜会にも呼びたくない。


あそこだけ険悪で言い合いが酷い。

折角の昼休憩がめちゃくちゃだ。


ラスティと顔を合わせて互いに溜息を吐き、輪の方へと向かおうとするとトレイを席に置いたエレナが駆け寄って話を聞いているけど、不穏な空気……ですね。


男子生徒が騒ぎ出した。


「ウェスタリア侯爵令嬢、貴方の出る幕ではない。お前のような汚らしい女がリリアに近づくなっ」


肩をトンっと押したことでエレナのバランスが崩れて、そのまま後ろに転んで尻餅。


あ、僕がキレそう。


「シ、オン!ちょい落ち着けって!!!顔がヤバイ!今の顔だとエレナさま、じゃなくてエレナ嬢が怖がるっ!!」


ちっ。

今なら殺せる勢いあったのに。



ガタンッ



次の瞬間に見た光景は、男が手にしていたトレイに乗っていた食べ物を頭からかけられた姿、だ。


「これは先週の休日前に、お前がリリアにしたことだよっ!マナーレッスンと言いながらサロンに呼び出して熱い紅茶をかけたんだろっ!顔にかかっていたら火傷の跡が残っていたかもしれないんだぞっ!!」



…………は?



ぐちゃぐちゃになったエレナは立ち上がり、キッと伯爵令息を睨みつける。


「それは、私ではありません!」


「リリアがお前に呼び出されたと言っているんだ、嘘を吐くな!!」


「リリア様が何と言おうと私ではありません」


「証拠はあるのか?出してみろよっ!」


「私ではない、その証言が証拠です。リリア様の申告も証言だけなのでしたら私も証言だけで充分なはずです」


「こっちは被害者であるリリアが証言しているんだぞっ!」


「私は侯爵で宰相の娘です。その私が違うと申しているのです」


「権力を盾にするなっ!」


「リッくん、もういいよぉ〜。リリアは怖かったけど、エレナさんが認めないなら仕方がないよ。リリアは諦めるよ」


クスンと怯えた小動物のように振る舞っているけど、お前の証言が嘘だろ。


やれやれ、という思いで輪へと歩を進める。


「ちょっといいかな?」


にっこりと微笑んでいるけど、隣のラスティは呆れているな。グレイも。ジャックなんて怯えている。


「シオン殿下、お見苦しいところをお見せして申し訳ございません。直ぐに片付けさせます」


と、僕に伝えた後すぐにエレナに向き直り、『リリアに酷いことをしているんだから、お前が片付けろ!』と、使用人の仕事をたかだか伯爵令息が侯爵令嬢に押し付けるなよ。


「シオン殿下ぁ〜」


汚い手が腕に触れようとしたから避けてエレナの隣へ移動した。

友人達がエレナにかかった食べ物を払い除けたりしているけど、ソースが染みなりそうだ。


「すぐに助けられなくてごめんね?」


「シオン様のせいではありません。貴方は王族なのですから私ごときに謝罪などなさらないでください」


「口止めしたのは私だから」


「でも……」


話題を振りまいている中心に向き直ると、胸元で手を握り僕を見つめる男爵令嬢、非難のような顔を向ける侯爵令息と伯爵令息、驚いている伯爵令嬢と友人達、と言ったところか。



グレイは僕が何をやり出すか察したのか食堂を離れた。


「先週の休日前だったか?」


マクリオ男爵令嬢に問うとコクコクと頷いて肯定する。口を開きかけたから言葉を被せて発言をやめさせる。

あの甘ったるい話し方は嫌いなんだよ。


「先週の休日前の放課後にエレナがマナーレッスンをすることはできない」


「え?で、でもぉ〜」


「その日の放課後は私と過ごしていた」


「で、ですがっ、殿下、その女の事を庇う必要はありませんっ!!」


「庇ってなどいない。私は事実を告げただけだ。王族である私の発言が虚偽だというのか?」


「ですが、リリアは紅茶を被り制服が汚れていたのです!」


「だからなんだ?自作自演か別の人間にやられたのではないか。それに、私と一緒にいた場所は王宮だ。王宮内の侍女に魔法師団長、それに王妃も証言するだろう」


言外に『王妃が認めた訪問』と含めたことに気付いたのは伯爵令嬢とその友人か。

エレナの周りも気づいたな。


「この男とその男、あとこのご令嬢から調書取って。必要なら投獄を許可する」


グレイに連れられてきた騎士に引き渡す。

初犯で学園内でのことだから厳重注意処分が妥当か。


「エレナ、君は帰宅した方がいい」


「は、い。ありがとうございます」


馬車止めまで送り届けたフリをして転移で王宮へと移動した。

ミアを呼びつけて事情を説明し、着替えとエレナを休ませるよう言いつけた。


ミアも避妊しなかった事を知っているから、転んだ事を伝えるとエレナは孕んでいるかもしれないのに、と、心配している。



学園へ戻ると侯爵令嬢への暴言と暴行、生徒達の言動が問題視されて午後の授業がなくなったとラスティから知らされた。


生徒会室で今後の対策について話し合うことになり、状況を把握するためにジェラール辺境伯令嬢にも参加してもらった。



「マクリオ男爵令嬢が先週の休日前に紅茶をかけられたのは事実か?」


メッゼリッヒ公爵令嬢とジェラール辺境伯令嬢に問うと、ジェラール辺境伯令嬢は知らなかったようだ。


「マクリオ男爵令嬢から相談をされていました。エレナ様に紅茶をかけられたと。本日の生徒会でご相談する予定でした」


「二人きりで会ったと話していたのか?」


「すぐに友人が駆けつけて、エレナ様に注意するために自分は部屋を離れたと話していましたわ」


「その友人とは?」


「フェルディナント伯爵令息です。ウェスタリア侯爵令嬢と二人きりになったと。シオン殿下は王宮でウェスタリア侯爵令嬢といらしたのは事実、なのですよね?」


「事実だ。放課後、転移で王宮へと連れて行き、私の部屋に招いた。王宮の人間に側付きを頼んでね」


クルト・フェルディナント伯爵令息は高位貴族クラスで唯一、僕に敵意を剥き出している。


学園へ入学する前に、お茶会でエレナに会い一目惚れしたと噂だ。


「王族であるシオン殿下には失礼を申し上げることになりますが、どちらも証言のみで目撃証言も親しい者だと事実か判断に迷います」


「証拠ねぇ。あるんだけど、今は提示できないんだ。陛下の命令でね。王妃が確認をしているから間違いない」


婚姻契約書は純潔を奪った日付で作成されている。当日は間違いなくエレナと二人で自室にいたことは扉の外の護衛も知っている。


あの場でエレナがアリバイを証言できなければ、もしくは、証言者が身内だけならフェルディナント伯爵令息と二人きりで密室にいたことを話して醜聞となっただろう。


僕が一緒にいたと証言したことで、事実であるかは別にして虚偽発言するよりも黙っている方が得策と考えた、といったところか。



生徒会ではメッゼリッヒ公爵令嬢が相談を受けている内容を聞き、マナーレッスンの中止とエレナとジェラール辺境伯令嬢がマクリオ男爵令嬢と関わることをやめることにした。


僕とラスティからお詫びの上、ジェラール辺境伯令嬢とグレディミア侯爵令嬢を別日に呼び出して四人で話し合うことを約束した。


エレナは今回の件から外すしかない。

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