04.捕まえた
この辺りから新しく構成した内容になってきた。
新作連載を描いている気分になってきたYO!!
まだ生徒会室を出て直ぐの場所にいた。
「待って!」
僕の声に振り向いてくれたけど、その瞳は驚いたようで見開いていた。
「で……殿下?」
僕が追いかけて来たことに驚いて、でも、直ぐに反応してスカートの裾を掴み頭を下げた。流石、宰相の娘だ。
「頭を上げてくれ」
姿勢を正して、やっと僕を見てくれた。
「お礼を言えなかったからね。書類を取りに行くところだったから持って来てくれて助かったよ」
「とんでもないです。殿下のお手を煩わすことがなく良かったです」
ん?直ぐに目を逸らされるのは何故だろう?
他のご令嬢だと話しかけると喜ぶし頬を染めたり、会話を続けようと話を振ってくるのに、この子、凄く迷惑そうにしてないか。
「殿下の貴重なお時間ありがとうございます。また、私如きに態々お礼など光栄です。私はこれで失礼させていただきます」
「えっ?あっ」
初めて先に話を終わらされた!
王太子相手に失礼だけど凄く伝わった!
僕から逃げたい気持ち!
で、言い終わったと同時に走って逃げるなーーーー!!!失礼の極みっっっ!!!
失礼なところはレイにそっくり!間違いなく血の繋がった兄妹!!父親の宰相は、もっと失礼!!
逃げられたら追いかけたくなる。
しかも、君の逃げた方向は紳士科の建物の方ーーーー!!!
角を曲がると、左右を見て慌てている彼女の姿が。もしかして建物の構造か内装が違うのか?淑女科の建物と違うことに気づいたようでキョロキョロしているし、振り向いて僕の姿を見て驚いてるよ。
ガチャガチャと中庭に続くガラス扉を開け放ち、方向は戻って中央棟へ向かっているけど、その奥に道はあるのか??
暫く追いかけたけど、彼女の走る速度が落ちたから僕は早歩きでも一定の距離を保てる。
うん、行き止まりだね。建物の裏だけど大丈夫??
「ねぇ、どうして逃げたんだ?」
優しく声かけたけど、そんなに驚かないでよ。虐めてるみたいじゃないか。
「あっ……えーーと……オホホ、やだ、道を間違えたみたい。では、殿下、ご機嫌よう」
今ので誤魔化せたと思っているなら間違いなく宰相の血を継いでるぞ。
嘘っぽい演技、下手くそ。
「あれ、私の問いには応えられないのかな?」
何事もなかったかのように横を通り過ぎようとするから得意の王太子スマイルで追い詰める。
「君、宰相の娘なんだってね。知らなかったよ、ウェスタリア侯爵家にご令嬢がいたなんて。レイとも一緒に仕事をしているのに君の話は聞いたことがない」
どうして娘がいることを隠していたかなんて宰相に聞かないとわからない。それでも彼女自身は何か知っているんじゃないか。
「まぁ!そうでしたか。兄が失礼をしました。きっと公私を分けるべきと考えているのです」
「へぇ……で、ラスティの知り合いなんだろ?」
「はい、ラスティ様とは何度かお逢いしています。母同士、仲が良いみたいなんです」
彼女の口からラスティの名が出るとイライラする。他の人からラスティの名が出てもイライラしたことはないのに。
「もう用はないですね?帰りますっ!」
「待て」
思わず手首を掴んだ。
掴んだ手を引っ張り身体を近寄せる。
「私から逃げた理由は?」
目を大きくしている、そこまで驚かなくても。その瞳に僕が映っている、それが嬉しく感じるのは何故だ。
「女性を誑かす人に近づいてはいけないと言われているんです!!!」
彼女はキッと睨みつける。
誑かす?誰が?
「この数年、婚約者候補の女性を侍らせて遊んでいらっしゃると!!」
「侍らず?誰が?」
「王太子殿下が!!」
「は?」
彼女の話だと父親と兄に僕の話を聞いたらしい。
婚約者候補の女性に手を出している
侍らせている
気に入った女性と直ぐに閨を共にする
などなど、これはまだマシな方で、もっと酷い話を聞いたらしい。
あれ?僕って宰相とレイに凄い嫌われているのか?事実無根の噂を初めて聞いたよ。しかも自分の噂!!
「えーーと、話を聞く心は持ってる?」
「その手を離すなら考えます」
手首から手を離すとプンスカと怒ったような態度を見せて『仕方がないので聞いてあげます!』と赦しを得た。
あれ?王太子相手の態度はそれでいいのかな??あ、そうか。多分、これが素に近い態度なのか。
「先ずは事実無根だ」
「お父様とお兄様は殿下と仕事されているのですよ。嘘をつくはずがありません!私に嘘をついて得るものはありません」
「いや、あるよ」
「なんです?」
「娘を婚約者候補という面倒に巻き込まなくて済む。事実、私は君の存在を知らなかったし、君は私に興味を持つことがなかった」
あ、腕組んで考え始めた。
…………初めて知った。可愛いってこういうことか。
「でもでも!!殿下が婚約者を決めずに侍らせているのは事実です!手を出したかは判断できませんが」
「侍らせているは語弊があるが側からはそう見えるだろうから認める。遊んでいる、手を出している、直ぐに閨に誘うは事実ではない。手を出したなら責任を取って婚姻している」
うわぁ……なんで僕がジト目で睨まれているんだろう。
悪いことしていないのに悪いことしたみたいじゃないか!!
「事実確認が出来ないことなので保留にします」
「はぁ?」
「では、私は帰ります。公式の夜会以外では二度と会うことはないでしょう、ご機嫌よう」
『失礼なことをしたのは父には内緒にしてくださいね!お互いのためです』なんて言いながら、また、横を走って逃げようとしたから手首を掴んで壁に背を押しつけ腕で囲った。
「失礼なことをしている自覚はあるみたいだな」
「ひぃっ……」
どうして僕は、こんな事をしているんだ。
彼女に固執する理由はどこにあるんだ。
「保留にしないで事実か確認しろよ」
彼女の耳元に囁くと身動いだ。でも、腕の中からは逃げられない。
「ど……どうやって?!」
「噂に惑わされずに、その目で確かめろ。でなければ真実がわからないだろ」
「え……と」
「解ったか?」
「は、い」
怯えている、その彼女を見ると嬉しくなる。
「名前は」
「な……名乗りました」
「私のためには名乗ってないだろ」
さっきのはメッゼリッヒ公爵令嬢や伯爵令嬢に名乗ったようなものだから。僕のためだけに名乗って欲しい。
「エレナ……エレナ・ウェスタリアです」
「そう、エレナ。私はシオンだ。シオン・リズタリア」
「し……知ってます」
「違う。出逢いは今からだ。噂は全て知らないことに。今からお互いを知ればゼロから始めることになるだろ」
「え?」
「返事は?」
「は、い」
「私の名前は?」
「シオン殿下、です」
「違う」
「え?」
「私の名を言え」
「シオン、さま」
うん、やっと王太子としてではなく僕個人として名を呼んでくれた。
嬉しくて微笑んだら初めてエレナの顔が朱に染まった。
ぎゅうっ
思わず抱きしめた。
そうか、エレナの魔力が心地良いんだ。
この魔力に癒される。
「あ……あの、シオン殿下!事実じゃないですか!女性なら誰でもいいんですか?!」
あ、失敗したかも。
「今のはなかったことにしよう」
「は?」
「今から」
「はい?自分に都合良くしないで!」
「噂を事実にしようか?今、この場で」
「ごめんなさい、今からスタート!!」
「……ふっ……ハハハ!マジかよ、面白いな!」
久しぶりにお腹を抱えて笑った。
なんだよ、コロコロと表情は変わるし令嬢言葉を忘れているし自由過ぎだろ。
学園で逢えるとしても中央棟か。エレナが生徒会役員になれるだろうけど他の役員と摩擦が起きそうだ。
来年には一緒に役員を出来るだろう。
僕と二人でいるところを見られて変に噂されると宰相とレイが動くだろうから、人目につかないように淑女科の建物の近くまで送り届けた。
さて、僕は生徒会室へ戻るとするか。
面倒な事になっていなければいいんだけど。
あぁ、学園生活が楽しくなりそうだ。




