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35.メッゼリッヒ公爵令嬢の思惑と男爵令嬢リリア

新学期になると一人の女子生徒が編入した。

男爵の後妻の娘で最近まで平民として暮らしていたようだ。


なんというか、もうさ、マナーなってないんだよね。

平気で紳士科に入ってくるわ、食堂で高位貴族の男に擦り寄るわで『お前は何しに学園へ来てるんだよっ!』と、胸ぐら掴んで問い詰めたい。


淑女科でも問題行動、貴族らしからぬ行動が多いらしく生徒会には連日、苦情が殺到中。

それに合わせて生徒会も毎日開催中。

他にも生徒会の仕事、文化祭準備とか慈善活動準備とか、もろもろ山積みなのに、夏休み明けて三日経ってから連日、対応策と苦情の受付と事実確認に追われている。




馬鹿野郎




そう叫べるなら叫びたい。



腐っても王侯貴族。

この程度の苦情でバタバタと忙しそうに見られないように振る舞わねばならず、ドッシリと構えて迎え撃つ所存。


マナーの講義は受けてくれているらしいけど、必要最低限が身についている上での講義内容だから理解しているのかは不明。


マナー講座を受けても変わりない様子なら次の方法を考えよう。と、いうのが二週間前のことで、変わりないから次の対策を検討せねば。



「淑女科の編入生は一年生ですから、在校生にお世話役をお任せしましょう」


「世話役は誰に頼むんだ?」


「このような時は爵位の一番高い方にお願いしましょう」


メッゼリッヒ公爵令嬢の提案だと一人の令嬢に負担がかかりすぎる。

生徒会の役員ですら手を拱いているのに押し付けるみたいだ。


「爵位だけで頼むなら該当者は複数人いる。一人の令嬢に頼むのではなく、複数人に依頼するのはどうだ?シオンもそれなら納得じゃないか」


「誰かに集中的にマナーの伝授はお願いしないと編入生も困るだろうし、その方向で。該当者からの相談は生徒会役員にしてもらおう」


そこでメッゼリッヒ公爵令嬢から出された爵位の高いご令嬢が……狙ったのかよと突っ込みたくなる。


ウェスタリア侯爵令嬢、グレディミア侯爵令嬢、ジェラール辺境伯令嬢、ポワイエ侯爵令嬢…………と、全員に頼むわけにはいかないんだよなぁ。


「ウェスタリア侯爵令嬢に頼みましょう。侯爵家では一番の古参ですし宰相の娘というなら教養も十分でしょうし」


何を企んでいるんだ?

そもそもマクリオ男爵令嬢を手引きしたのはメッゼリッヒ公爵令嬢なんだよなぁ。

絶対に何かをやらかす気だ。


「追加でジェラール辺境伯令嬢にも頼もう」


気の強いご令嬢も一緒なら安心だろう。

ジェラール辺境伯令嬢は物事をハッキリとさせて意見も言うから頼もしい。


「何故ですか?追加するならグレディミア侯爵令嬢でいいのでは?」


「グレディミア侯爵家は末席、ほぼ伯爵に近い。ジェラール辺境伯家には百五十年前に第三王子が婿入りしている。辺境伯は侯爵家の高位の者たちと同格と考えている」


即妃の息子だった第三王子は武芸に長けていた。魔力量が少ないせいか子供たちに紫色の瞳を継なげることは出来なかったが。


「ですが……」


「その二家はモリアーティス公爵派だ。オフィシナリス公爵派の令嬢を入れた方がいい。マクリオ男爵家はメッゼリッヒ公爵派だからバランスを考えると丁度いいだろう」


「それもそうだな。うちの派閥のご令嬢二人に負担をかけるより、派閥のバランスを取るならジェラール辺境伯令嬢の方がいい」


「わかりました。そのお二人で構いません」


「それと、メッゼリッヒ公爵派のご令嬢への指導になる。責任者はメッゼリッヒ公爵令嬢が務めるように。もちろん、最終責任者は私だから気負う必要はない。ご令嬢二人には明日の放課後に生徒会室へ来るよう手配して」



翌日の放課後、メッゼリッヒ公爵令嬢からの依頼で生徒会室へ来たエレナとジェラール辺境伯令嬢に今回の依頼内容を伝える。


「と、言う事なんだが協力してくれるだろうか。彼女も貴族社会を学ばないだろ卒業後に社交界で恥をかくことになる」


「そうですね。同学年ですし何かあれば私達が何も手を施さなかったのかと噂されても困りますので協力いたします」


「リサ様も一緒なら心強いので私も協力させていただきます」


ジェラール辺境伯令嬢とエレナが同意して協力してくれるなら問題なし。


「二人は例のご令嬢とは話したことあるか?」


「私はありません。先日、エレナ様が話しかけられていましたよね?」


「えぇ。突然、目の前に現れて『私が元平民だからって馬鹿にしないでください』と泣き崩れていましたわ」


あ、もう接触してたんですか。

想定通り、狙いはエレナか。


「それで、どうしたんだ?」


「どうもこうも、一頻り何かお話しされた後に立ち去りましたわ」


「そ、そうか。絡まれているようだけど任せて大丈夫かな?」


「マクリオ男爵令嬢が嫌がらなければ大丈夫かと」


うーーん、エレナに突っかかるなら無理そうだけど。それか突っかかるネタをあげるだけになりそうだ。


「彼女は了承していますわ。ご安心ください、ウェスタリア侯爵令嬢」


そう言い微笑んだメッゼリッヒ公爵令嬢は、一瞬だけエレナを蔑んだように見ていたのを僕は見逃していない。


「至急の対応は同じ淑女科にいるメッゼリッヒ公爵令嬢へ。時間に余裕があるなら対応で悩んだら私に相談して欲しい。週末前以外なら放課後は生徒会室にいる」


エレナと逢瀬をしている週末前は生徒会室には寄らない。その事に気づいたエレナの眉が僅かに上がった。

流石、表情に出さないように教育されているだけはある。

二人きりの秘密で知られると面倒ごとになるのをわかっているから表情に出さず態度も変えない。


翌日にはメッゼリッヒ公爵令嬢が生徒会役員として仲介役を担い、昼の食堂でマクリオ男爵令嬢とエレナ、ジェラール辺境伯令嬢と顔合わせをした。


『よろしくお願いします!』の言葉を発した時以外は、僕とラスティのいる方に視線を向けていたのに気づいているからな。


最初はメッゼリッヒ公爵令嬢を見ているのかと思ったが、通り越して僕とラスティを見ていたな、絶対に。


その日は四人で食事をしてくれたようだけど、食事のマナーも知らないようで、周りを見ながら真似る仕草はしていた。


いや、君さ、昨日まではそんな事をしていなかっただろ。


「どーなるかな」


「どーなるかね。でもさ、マクリオ男爵令嬢は仲の良い紳士科の友人と時間を作るのに忙しいから、いつ、エレナ嬢達からマナーを学ぶつもりなんだ?」


「さ、ぁ?」


苦情の大半は婚約者のいる男へ擦り寄り籠絡される馬鹿男の婚約者からの被害届みたいになっている。


王族が生徒会長をしている年に婚約破棄騒動ばかり起こされたら僕の面子丸潰れなんだけどなー。


「そろそろ本気を出してキレていいかな?」


「シオンが本気を出すと、いくつ貴族がいなくなるやら」


「婚約者いるのに籠絡される馬鹿に時間潰されるのが許せねぇ」


「そこは同意。ジャックからの報告書は王宮の執務室のあそこに置いといた」


マクリオ男爵と娘のリリアについて平民街での噂や素行は影以外に練習を兼ねてジャックにも調べさせている。

影からは報告が上がっているしメッゼリッヒ公爵家との繋がりも確認が取れた。




エレナに手を出したら一気に叩き潰してやる。

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