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31.夏の休暇③お転婆は大歓迎

「で、アレはないんじゃないか?」


「アレをしても反省しませんからね」


「ならすんなよっ!」


「昨日も出歩いて誘拐されかけたんですから、あのくらいしないと大人しくしません」



昨日の誘拐未遂と今日の出来事を教えてもらうと、知らなかったエレナのお転婆振りが発覚。


昨日はレイが街へ連れて行く約束をしていたが待ちきれず、街で合流すればいいと安易に考えて外出して見ず知らずの男に道を聞かれて教えているうちに馬車に連れ込まれそうになり、レイが助けてことなきを得た。


黒髪黒瞳であることから街中では『領主様の親戚のお嬢様』と知られているので、見守られながら気さくに話しかけられ楽しく過ごしていたらしい。


お嬢様が笑顔で領民と話している姿が男達に好意的に捉えられて、求婚する輩も出る始末で、辺境伯の執事が対応していた。


それもあって、外に出るなと言い聞かせたのに、暇を持て余して窓から脱走した。



「だから妹に王太子妃は務まりません」


「いいんじゃない?親しみは大切だ」


「暇を持て余せば王宮から脱走します」


「楽しそうだね。それなら追いかけるか逃げ出せないように結界を張るよ」


「結界を無効化して逃げ出しますね」


「地の果てまで追いかける」


だって楽しそうじゃないか!

他のご令嬢だと淡々と執務をこなす日々と子を成すためだけに妻を抱く関係なのに、エレナが相手なら子を成すとか関係なく愛し尽くして、それでも暇なら逃げだすなんて、どう捕まえようか考えるのも楽しいし逃げられないように対処法を考えるのも楽しい。


さらに逃げられたら追いかける楽しみもある。刺激のある日々をおくれそうだ。


「シオン殿下は物好きですか」


「いや?普通じゃないか?」


「いえ、普通ではない、ような……」


「日々、刺激がある方がいいだろう。レイだってエレナと一緒に育ったんだから普通のご令嬢じゃ物足りないさ」


「そうかもしれませんね。母上も似たような性格ですし」


「なんだ、それならレイは可哀想だね。好ましいと思う女性が身内だなんて。同情するよ。そんな女性が未来の王妃で国母というのは良いことだと思うけど」


「妹は王太子妃に相応しくありませんよ。忠告はしましたからね」


「国庫を浪費するほど物欲が強いのか?争いが好きなのか?複数の男にチヤホヤされないと満足できない?自分の意見が通らないと癇癪でも起こすか?」


目を細めて微笑むとレイの眉間にシワがよった。


可愛がっている妹だからこそ、手の届く場所に置いておきたいのだろう。

王太子妃や王妃になれば滅多に会う事ができない。


「物欲はありませんし男に好かれたい性格でもありません。争い事は嫌いです。癇癪はしませんが人の話を斜め上に解釈して突飛な行動をすることが多々ありますね。それだけでも十分でしょう」


「十分過ぎるくらい相応しいね。まぁ、お赦しをもらってから本腰を入れるよ」


言外に『この話は終わりだ』と告げると嫌そうな顔をしていた。


普段は表情を変えないのに、態と顔に出している。それだけ嫌だというのを伝えたいのだろう。


話題を変えるためにレイにラストゥール辺境伯領に来ている理由を尋ねると『魔獣の討伐に参加していた』と。王宮や領地の仕事以外で暇があれば剣や魔術の鍛錬のためにラストゥール辺境伯騎士団に混ざり魔獣討伐に参加しているようだ。


自領よりも凶暴な魔獣が出現するから、年に二回は参加しているらしい。


魔獣の実戦経験があるなら近衛か魔術師団に入って伺候して欲しい。

それに士官学校で教官をすれば生徒達にも良い刺激になるのに。


エレナとのことが決まったら本格的にレイを勧誘しよう。

宰相補佐をやめて領地に篭られたら損失だ。その有能さを王宮勤めで貢献して欲しい。王宮勤めでも近衛でも魔術師でも何でもいい。





初日の晩餐はレイとエレナも参加した。

ラストゥール辺境伯の子息とも仲が良く賑やかだ。娘はいたが嫁に出たらしく、エレナは滅多に会えなくて残念そうだ。


食後はサロンでレイと次期ラストゥール辺境伯となるジークと領地や魔獣の討伐、騎士団のことや、レイやエレナとの昔話を聞かせてもらった。


魔獣討伐の話は護衛をしているカイやネイト、ラスティも興味深そうにしていたから六人で話すと盛り上がった。


途中からお酒を飲んだから話も弾んだけど護衛も飲むのかよと突っ込むのはやめておいた。


ラストゥール辺境伯騎士団がいるのだから、多少は羽目を外させよう。僕の護衛なんて疲れるだけだろうし。


昔話は良い収穫があった。

幼い頃からラストゥール辺境伯領へ遊びに来ていたエレナはレイの精霊魔法の練習を見ていたようで、その場所が精霊の湖だったらしい。


あの場所はエレナのお気に入りで、幼い頃に召喚した精霊と湖で遊んでいたようだ。

仲の良い精霊がいるらしく、湖で二人で会うそうで、その精霊は、まだ主をもたないらしい。

エレナを見守っているようで、精霊のお気に入りとされている。


精霊に気に入られていることと他の条件もあってエレナの魔力が貴重とされているらしいが、詳しい話は僕が認められたら教えてもらえるようだ。


和泉皇国の貴重な神の力に関する魔法の話が聞けるといいんだけど、認められないと何も教えてくれないのは辛いな。


国の発展のために必要なら利用したいけど、エレナが嫌がるようなら無理強いはしない。


「シオン、飲み過ぎるなよ」


「大丈夫だ。飲んでも酔うことは滅多にない」


「だろうけど、俺たちが心配になるだろ」


「あと少しでやめるよ」


ラスティの心配ももっともだ。

レイもジークも酒豪なのか顔色を変えずペースも落とさず結構な量を飲んでいる。


酒が入れば陽気になるのは血筋なのだろう。

黒髪黒目で似たような容姿。

ジークは屈強な男とまでは言わないが、レイよりガタイがいいし筋肉の付きがいい。魔術も使えるらしいが騎士としての腕は相当な物だろう。


レイの方が年下というのもあるが、ジークよりも顔立ちが幼いのは母親似なのだろう。


ウェスタリア侯爵夫人はエレナと姉妹と言われても納得できるくらいの幼い顔立ちだ。



ラストゥール辺境伯領で作られているお酒は口触りが良くて飲みやすい。気に入って飲んでいたら土産に持たせてくれることになった。父上にも飲ませてあげよう。


「そういえば、エレナちゃんも母上に連れて行かれたから今頃、付き合わされているかもね」


ニヤニヤと僕を見ながら話すジークは人が悪い顔をしている。

ジークの母親がエレナを連れて二人でお酒を飲んでいると。エレナとお酒を飲むなんて羨ましい。


そんなことは顔に出さずに『そうか』と返答するが、ジークはニヤニヤしながら言葉を続ける。


「エレナちゃんはいい女になったよね。従兄妹でなければ嫁にしたのに」


「お前はまたそれを言うのか」


「あ、でも従兄妹は結婚できたよね?申し込もうかな」


「やめとけ。母上が嫌がる」


「アメリさんに嫌われたら生きていけないな。親父にどやされる」


「そーだろ」


「シオン殿下はエレナちゃんの他には誰を娶るんだい?」



ぶはっ!!!



突然の襲撃に思わず口に含んでいた酒を吹き出した。

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