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29.夏の休暇①旅路

夏の休暇の公務を休みにした日、ラスティとカイ・ヴィクトールとネイト・デクスターを護衛にして東にある領地へと向かう。


僕が訪問することは理由を添えて手紙を出していて、相手側からも了承を得られた。


「今回の訪問で知り得たことは他言しないように。ヴィクトール家とデクスター家に迷惑をかけたくないだろ」


「「はいっ」」


「最近、士官学校を卒業したと聞いたが?」


「はい。近衛に所属しています。近衛師団長の配慮で魔術師から魔術指南を受けています」


ネイトは真面目だと聞いていたが、その通りだ。


馬車には護衛として一人が同乗し、他は騎乗して警護する。今回の三人は交代で馬車に同乗させることにした。


人の良さそうなカイが僕を気にしている素振りをしていたから最初に同乗させた。


「ご婚約者候補の血縁者に会われるのですか」


ネイトに比べてカイは柔軟性があるのだろう。人当たりの良い笑みだ。


「そうだ。ウェスタリア侯爵家は娘の婚姻先の伺いを立てるはずだから先に赦しを得る」


「ウェスタリア侯爵家の方が家格は上ですよね?」


「奥方の母親は和泉皇国の高位貴族の出自で宰相は婚姻の赦しを得る際に娘が出来たら婚姻先は伺いを立てると約束したらしいんだ」


前ラストゥール辺境伯夫人は和泉皇国の出身で皇帝との婚約が解消され、留学先で知り合った前ラストゥール辺境伯と恋に落ちて婚姻したと聞いている。


その夫人は貴重な神の力を発現させる血筋で、特に女系の血は途絶えないように国として護ってきた。


皇帝一族と仲違いしたのか、本来は他国、しかも違う大陸へ嫁に出すなんてしないのに、夫人はリズタリア王国へ嫁入りしにきた。


皇帝一族に嫌気が差しただけでリズタリア王国へくるにしては理由が弱すぎる。他にも理由にあったのだろうけど、それは自分の血を継ぐ娘たちの婚姻先に関することだったのだろう。


「あの、何故、ウェスタリア侯爵令嬢なんですか?私共はメッゼリッヒ公爵令嬢で決まると考えておりました。王妃に相応しいと噂されていましたし」


「王妃に相応しいとは何を持ってして決定されるんだ?」


「そ、れは。教養や学力でしょうか」


「それらは高位貴族の令嬢なら当たり前のように教育されている」


「それだと……統率する力?女性を纏めるのは大変だと耳にします」


「王妃に必要な素養は国王によって変わる。国王を支える女性が必要になるからね」


父上の時は横に並び立てる才女が必要だったそうだ。最初に婚約していた伯爵令嬢とは婚約継続が難しくなり、解消した上で、婚約者の選定をやり直したが、友人だった現宰相が紹介した女性と婚約、それが今の王妃だ。


陛下の横に立ち共に国の発展に貢献している王妃は理想なのだろう。

自分の母親ではあるけど、他人にも自分にも厳しく、それでいて慈愛があり仲の良い友人には気さくだ。


皆が憧れている女性らしいが、それが王妃のイメージになり、僕の婚約者候補は同じように振る舞っていた。


でも大切なのは、今の陛下だから選ばれた女性であるということ。


横に並び立つにしても覚悟だけでいい。僕に必要なのは癒しを与え人としての感情を持たせることができる人。執着できる相手なら最高だ。


「では、ウェスタリア侯爵令嬢はシオン殿下を支えられる女性、ということですか」


「そうだね。初めて人に執着したよ。二人になりたい、手に入れたいと思わせたのは彼女が初めてだ。それに、国を発展させるために必要なんだ」


「それほど、ですか?ウェスタリア侯爵家は力があるのですか?」


「そうではない。人に関心を持たない、愛を知らない王の治世は可もなく不可もない。リズタリア王国では数回、そのような国王が即位した。国や民に興味がないから何も手を出さず現状を維持するに留まる。自分が生きている時代の王は何もしなくて満足か?」


「い、え。大きな変化は望みませんが生活の向上は望みます。今よりも豊かに、穏やかな生活を望みます」


「無難だね」


「すいません」


「咎めたつもりはない。だが、王が一人の女性のために国を良くしていくのも悪くないだろ?」


「それが民にとって最善なら。ですが、私はどのようなことでも殿下に仕えます」


「そう……君が見る未来を豊かなものにするためにも、今回の訪問は成功させてみせるよ」


エレナと出逢ってしまったから、エレナとの子供達が笑顔で過ごせるような国にしていきたい。


民の生活を見て悲しむような国にはしたくないから、常に最善の策を考える。最善まで出来ないことは最悪の事態を防ぐ。


全てはエレナを悲しませないために。

あの笑顔を見せて欲しい、エレナに尊敬されたい、褒められたい、抱き締めてもらうためなら、どんな事でもしてみせる。


ラストゥール辺境伯領へ到着するまでに何周か同乗する護衛を入れ替えた。


質問されたら答えたり、世間話や領地経営の話をしたり、現役騎士の訓練や士官学校、要望を聞いたりと、なかなか忙しい。


何件か手をつけたい案件も出たから王都へ戻ったら計画を立てるか。


ラスティが同乗した時は、側室制度を廃止した場合の未来について話し合った。


男児が産まれ血を繋ぐことさえ出来れば問題にならない。

いつの日か、孫以降の代で男児が産まれなかった時に備えて王家の血を、どう残していくか、その一番の問題は子供達へ押し付けることになる。


王族として贅沢をして暮らしている代償なのだろうけど、その所為で母親の異なる子供達が王位を争うようなことは起こしたくない。


今後、そのような事は絶対に起こしたくないから側室制度を廃止して愛する女性とその子供達に争う事なく王位を繋いで欲しい。


モリアーティス公爵家にかかる負担を減らすために、王家の血が混ざっている貴族の家柄を調べて第三の王家に相応しい家を決める。


その家にはモリアーティス公爵家と同じように王家と地を交える。


不幸なことに王家の直系は子供が出来にくいのか、あまり他の家に娘が降嫁することがなく、そのほとんどはモリアーティス公爵家で引き取っていた。


驚いたのはウェスタリア侯爵家とラストゥール辺境伯家にも王女が嫁入りしていたこと。


それも優秀だとされた賢王となった王の娘達が嫁いでいた。


モリアーティス公爵家も代を空けないと血が濃くなりすぎるから、その間に産まれた王女の嫁ぎ先になっていたようだ。


他の侯爵家も問題のない家柄だが、メッゼリッヒ公爵家とオフィシナリス公爵家にも王家の血を混ぜているから、説得できる材料を集めてから第三の王家を作り出す必要がある。



と、まぁ、第三の王家はリズタリアとモリアーティスで勝手に作ればいいことだけどね。

婚姻を繰り返していけば第三の王家となりうる血筋はたやすく作り上げることができる。


その家の子供たちが紫色の瞳を持てるようにすれぼいいだけだ。


手間をかけずに作り出すならテオ・モリアーティスに家名と爵位を与えれば済むことだ。

そうなると僕は少なくても息子一人と娘二人は必要だ。


エレナが婚約者に決まったら体力作りから始めてもらおう。

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