28.意外と頼れる兄貴肌のレイ
夏の休暇が始まった。
休み前に出した法案のことで陛下には小言を頂戴した。法案というか王族典範みたいなのを、すこーし変えて欲しいってお願いした。
ついでに宰相からは根回し不足を指摘された。
い、急いでたんだよ。
僕の出した法案は陛下と宰相にモリアーティス公爵と王太子の他に、モリアーティス家の男児から承認を出なければいけない案件らしい。
昔、父上が出した時は現モリアーティス公爵から承認を得られず頓挫した。
今、承認をしていないのはモリアーティス公爵家の三人だ。いや、ラスティとテオには話していないから承認を得る段階ではない。
王家に関わることだけど、少数の承認で良しとされているのはモリアーティス公爵家が絶対に首を縦に振らないからだ。
数代に一人、同じ法案を出すらしいけど、ことごとくモリアーティス公爵家の説得に敗れて承認を得られず状況が変わらない。
僕はなんとしてでも次期当主となるラスティの説得、攻略をしなくてはならない。
「長々と説明ありがとう。その法案の必要性は王族にとって、感情を優先するなら必要なことだと理解している。家でも父上から聞かされていたからな」
「なら!」
「ダメだ。うちの負担が増える。それに、もしもがあったらどうするんだ」
「もしもはない!」
「お前じゃなくて子供の代でだよ!」
「こんな状況に縛られている男のところへ嫁ぎたい女なんていないだろ!」
「沢山いるから安心しろ」
そーでしたー。
沢山いました。盛り沢山だよ。本命以外は、ウェルカムだったな!!!
「どうしてモリアーティス公爵家は頑なに拒むんだ」
「他の貴族の代弁してんだよ。あと、本当にうちの負担になるから」
「そんなに負担なのか?」
「モリアーティス公爵家の嫁の負担を減らすためだ。王家の直系は子を成しづらい。だからスペアを作るために側室制度が必要なんだよ」
僕の出した法案は『王族の一夫一妻制かつ側室制度の廃止』だ。
これはもちろん、エレナに嫁いでもらうため。ただそれだけだ。
まぁ、側室制度とか嫌悪していたからってのもあるけど。
「だーかーらー、スペアはいるだろ!それに、僕に何かあればラスティがリズタリアに養子に入るんだぞ。グレディミア侯爵令嬢を娶った後に側室取れるのかよ!」
「うっ……いや、あれだ、王太子になったらそれ義務だから」
あ、こいつ、目を逸らしやがったな。絶対に、そんな覚悟は持っていない。
他人事だ。他人事だから承認しないんじゃないのか。
「王位継承権放棄するわ。で、臣下に降る。それでエレナを嫁にもらって、王都から離れた領地でのんびり暮らすよ。リズタリアへ養子に入れ」
「うっわっ……ひでぇ。馬鹿さ加減が酷過ぎる」
「ちょっと陛下のところへ行って宣言してくる」
執務室から出てすぐに捕まり部屋へと戻された。いや、本気なんだから離せよ。
部屋の扉付近で『放棄する』『馬鹿はやめろ』と攻防を続けていると不意に扉が開き、手をついていたから二人でバランスを崩して転んだ。
「何やってるんですか?餓鬼ですか?」
見上げると、とても不敵な笑みで僕とラスティを見下ろしているレイの姿があった。
あ、普通に見下ろすんだね。
もう見下している感じだな。
「ちょっと揉めただけだ。じゃ、私は陛下のところへ行ってくる」
ガシッと腕を掴まれ部屋へと引き戻される。何故かレイまで手伝うから両腕を掴まれていて抵抗できない!
ラスティとレイの手によりソファーに押さえつけられて両脇に座られたら逃げられない。
「この広い部屋で私の両隣に座る必要はあるのか?」
「陛下のところへなんて馬鹿やりに行くとしか考えられません。大方、この間の件がモリアーティス公爵家に拒否されたから王位継承権を放棄しようと考えているのでしょう」
…………読まれてんのかよ。優秀ってすごーい!
流石は宰相補佐だ。エレナの兄でなければ、馬鹿話の相手に最適だったのに。
「その顔は当たってますよね?で、んか!」
いい笑顔で睨んでいる顔、ご令嬢に人気があるんだろうな。女遊びしている噂は本当なのかな、なんて考えるのは逃避、だろうか。
女遊びしているなんて、良いご身分ですねぇ。影に調べさせて弱みとして握るぞ。
「大当たりだ」
と、悪気なく答える。
良いことをしている自信があるからな!
「王位継承権を放棄する程、妹に価値はありませんよ。諦めてください」
「責任取らないと?」
「取らなきゃいけないことをするなっ!!ラスティは見張っとけよ!」
うわぁ、遂にはラスティを呼び捨て。一応、ラスティの方が身分が高いから、以前はモリアーティス殿とかラスティ公子殿下と呼んでいたのに。
「おれ?!いやいや、レイの妹だろ!手を出されたくないなら、そっちで見張れ。シオンは止められない」
と、二人は僕のことで言い合いを始めたけど、聞いている本人としては責任の押し付け合いと面倒事の押し付け合いだ。
言い合いしているのを間で聞かされるのも疲れる。
「言い合いなら他でやってくれ。陛下のところへ行ってくる」
溜め息を吐きながら立ち上がるとソファーに戻された。いや、本当に諦めてくれ。
「貴方が王位継承権を放棄してもいいと思うほど妹を好いてくださっていることは伝わりました。なので、手篭めにするのは勘弁してください」
「理解してもらえて嬉しいよ。で、まだ手篭めにはしていない」
「まだ、でしょう!」
「時間の問題だね」
「本当は一夫一妻制と側室制度の廃止だけでは宰相職としても受け入れ難いのです。他にもご提案ください」
「モリアーティス公爵家以外に王家の血を預ける。僕の子供の代は無理でも孫の代で……」
「で?」
「ウェスタリア家へ孫息子か孫娘を」
「うちを巻き込むなっ!!!」
「モリアーティス家に次ぐ古参貴族だろ。エレナの孫を欲しくないか?」
「欲しい」
「決まりだな」
「いやいや、それ、きっちり纏めろ。父上が闇に葬るからウェスタリアの名前を出すな」
「でもよぉ、第三の王家が出来ると権力闘争が激しくなりそうだな」
「だからウェスタリア侯爵家なんだよ。代々、権力に興味がない」
「決まりだな。モリアーティス派だからうちとしては問題なし」
執務机に戻って提案を受け入れてもらえるような書き方にして纏める。
部屋からレイを出さずに宰相が納得するだろう書き方を教えてもらう。何度もやり直して二時間かけて提案書を作成した。三割ほどはレイの提案が含まれていてラスティに話を聞いてモリアーティス公爵家の要望も入れた。
ラスティの弟のテオに爵位をあげて血を残す。は、受け入れられたが、ラスティの妹をウェスタリアに嫁がせる、で、拒否された。七つも下の女を嫁にもらうなんて待てないだって。女遊びしてあるんだから待てるだろ、と三十分程言い合ったが、レイの機嫌を損ねたら宰相に話が通らないから諦めた。
レイの代でモリアーティス公爵家と血を混ぜれば、少しは王家の血が入るのに!
作成した提案書はレイに任せ、ラスティには承認を得るために説明を続ける。
夏の休暇が明けるまでには決めてやる!




