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27.赤い華

ウェスタリア邸で行われた夜会のことは社交界に瞬く間に広がった。




『王太子がウェスタリア侯爵令嬢に寵愛の証を贈った』




あのピンクダイヤモンドは父上が母上へ贈った時も社交界を賑わせた。なかなか頷かない母上にピンクダイヤモンドの意味を伏せて贈り外堀を埋めた。


父上達の上の世代が意味を知っていたことで社交界に寵愛の噂が流れ、母上は嫁入りを決めた。


まぁ、そういう噂だけど当人同士は想いあっていたらしいが。


だから、息子である僕がピンクダイヤモンドを贈ったことの意味は大きい。



あの夜会が終わって紳士科ではすでに周知の事実として捉えられている。寵愛を受けているのなら、ウェスタリア侯爵家を敵にはしない。


自分たちが婚約するならウェスタリア侯爵令嬢の友人達をと考える者が多くいるらしく、淑女科での友人関係を調べた令息が周りに情報を教えたりと、エレナの交友関係を知る機会を得ている。


「もうエレナ嬢が婚約者で決まりか?」


「私はそう思うけど、ね。多分、母上も問題なし。父上も大丈夫」


「問題は〜、宰相と兄貴と本人か〜。難関は本人だろうね」


グレイは相変わらず鋭い。

本人、エレナ自身がお嫁に来てくれる覚悟を持ってくれないと自発的には難しいだろう。王命で婚約もできるし、そうなってもエレナは僕に心をくれるだろう。


「それでも、エレナに了承してもらえるよう努力するしかないね」


この噂はそのままにしたいから、昼はエレナを誘った。人目につくところは嫌がるから王族専用サロンで食事をする事に。


それでも、食堂にはラスティとグレイ、ジャックはいるのに僕はいないし、エレナも友人と一緒ではないから二人で食事をしていることが知れ渡るだろう。


食事も終わりお茶を飲み始めたから給仕をしていた侍女と侍従を下がらせた。

これで二人きりだ。


「専用サロンは頻繁に利用しているの?」


「たまに、かな。執務をしながら人に聞かせられない話をするのに便利だよ。あと、逢瀬をしたり、ね」


微笑んで見せるとモジモジしながら目を逸らす。うーん、この笑顔、好きじゃないのかな?


「……他にはどなたと?」


「ほか?」


「逢瀬をしたり、と仰ったから」


「あ、誤解させたね。逢瀬での利用は初めてだよ。いつもはラスティやグレイとジャックと利用している」


「王族専用って」


「王族とモリアーティス家が利用できる専用サロン。学園へ入学した頃には公務もしているから隙間時間に執務をするために専用の執務室として利用できるように用意されているんだ。あとは他国から留学してきた王族とかね」


と、僕の前に利用したのは父上だけとね。

基本は執務室として使えるように、執務机も用意されているし。


「この前の夜会、日付が変わる前に部屋に戻ったか?」


「へ?あ、はい」


「本当?」


「本当ですっ!お、お兄様に……」


「レイに?」


「あの、部屋にいた事を知られてて……アレコレ訊かれました」


あ〜、やっぱりそうか。

奥の部屋へ通されたから、気付かれているんだろうなとは思ったけど、エレナと一緒にいることも知られていたなんて。


「何を話したのか教えて?」


「何をしていたのか聞かれました。その、お話ししていたと伝えたのだけど……」


「だけど?……口付けしたことを気づかれた?」


「?!はい……」


「そうだろうね。エレナの紅がとれていたし、髪の毛も乱れていた。ドレスも乱れたままだし、胸元は隠さなかっただろ?」


「胸元?」


「赤い華を咲かせていたから気づかれただろうね。おいたしたことに」


あの日、エレナの唇を貪った。紅がとれたことに気付いていたし、僕は袖で口を拭ったから紅がついた。その服はミアが見たし王妃に報告されただろう。


唇を貪りながら指に髪を絡め態と乱した。

僕の上に跨らせてドレスにシワをつけた。


多少でも手を出したことを暗に知らせて責任を取るつもりであることを伝えた。


「赤い華?」


ん?きづ、かないもの、なのか?


「襟元のボタンを外して胸元、膨らみの辺りを見てご覧?」


あの時、僕が胸元に吸い付いたのを思い出したのか顔を青くして慌てて胸元のボタンを外して、あ、背を向けた。


「えぇっ?!こ、れ」


席を立って背を向けているなんてつれないな。近寄って後ろから覗き込んだ。

うん、まだ綺麗に咲いている。


「強く吸い付いたから赤く綺麗に咲いているね」


後ろから抱きしめて耳元で囁くと足の力が抜けたようだから崩れ落ちないように支える。


「あっ……わ、たし……」


「見たのはレイだけかな?そのまま会場に戻ったのかな?」


「お、兄様に胸元を直してもらってから戻りました」


「そう、それなら見たのはレイだけか」


口元を手で抑えて声を出さないように堪えているけど、叫びたくなったのだろうか。

叫びたい、にしては顔が真っ赤だ。


「ふふ、胸元が肌けたままだ。僕としてはいい眺めだけどね」


どうやらエレナは考え事をすると他がおざなりになるようだ。

王妃にマルチタスクは必須だ。ここはお妃教育で身につけていけばいい。

僕が絡むとマルチタスクが無理になるなら、それは構わない。


「あっ」


慌てて胸元を隠して前屈みになる。僕から逃げ出そうとしているみたいだけど、腕の中から離すわけがない。


「あの、ボタンを」


「つけてあげる」


と、胸を下から盛り上げたけど可愛い蕾は見えなかった。残念だ。

エレナの制服のボタンをつけて胸元のリボンを整える。


入学してからエレナを見て触れて関わってきたけど、この子、無意識に男を煽る。で、無防備で人を信用しすぎ。


人を信じやすい、いや、人の悪意に晒された経験が少ないのだろう。

大切に育てられ過ぎて、悪意を持って接する人間がいるなんて思いもしない。


それをわかっているから宰相とレイは過保護になっているんだ。


意外と芯は強い子なのに勿体ない。



「シオン、さま?」


考え事をしていて僕の手が止まったことでエレナが後ろを振り向いた。エレナの後ろから抱きついていた僕が少し前屈みになっていて上を向くように振り向いたエレナとは顔が、唇が近くなっていて……


「あっ」


エレナの方が気づくのが遅かった。

顎に指をやり、そのまま吸い寄せられるように口付ける。


「今日は我慢しようと思ってたのにエレナが誘うから我慢できなかった」


「わっ……私のせい!?」


「そう、エレナのせい。責任取って」


「責任って?!」


「冗談だよ。さぁ、お茶の続きをしようか、お嬢様」


エレナは頬を染めたままだけど、僕の態度が変わって安心しているようだ。あのままだったら、うん、執務机に押し倒したな。

あ、あそこの長椅子でもいいかも。


「夏の休みは領地へ帰るのか?」


「はい!北の領地なので王都より涼しいですよ」


「ウェスタリア領は夏の暑い時期は避暑をするのに最適らしいね。夏は人出が多いのだろう?」


「そうですね、冬は雪が積もるので夏の観光業が盛んです。秋も紅葉が綺麗なので人出が多いんです」


「機会があれば案内してよ」


普通、婚約してないご令嬢に社交でも案内して欲しいなんて言わないけどね。

今回、宰相は夏の休暇を取る時期がずれるから同行するのはレイか。


「ぜひっ!シオン様は夏の休暇はどうされるんですか?」


「僕は公務かな。それでも数日は暇をもらって東の方へ出かける予定なんだ。挨拶をしておきたい人がいてね」


「お休みでもお仕事されるなんて大変ですね。ご自愛くださいね」


「ありがとう」


エレナのために赦しを得て心置きなく夏の休暇を明けたい。

夏の貴族たちの気持ちが緩んでいる今、僕が出した法案に宰相は大変な思いをしているから領地へ帰れなくなったんだけどね。

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