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26.誕生日の夜会④愛を乞う

「私は……愛されたいのです」


「愛している、エレナを愛している」


愛を乞う。

王太子である僕は、きっと、僕を知る人が見たら呆れるくらい情けない顔をしてエレナに愛を伝えている。


「違うの。私だけを愛して欲しいの」


「エレナだけを愛しているよ」


ううん、と首を横に振るエレナの姿を見て『女としては、いつ後宮の扉が開かれてしまうか気が気じゃないから辛いのよね』と先日の母上の言葉が頭を過った。


エレナも同じなのだろうか。

母上と同じ女性であると考えると、、、自分一人だけ愛される環境でないと安心できない?


王族は子を成すことが義務

必ず男児を求められる

だからこそ、正妃との間に子ができない場合に備えての後宮


後宮は女達の争いの場

例え正妃であっても優遇されるのは寵愛を受けている者、一番最初に男児を産んだ者


後宮の扉が開かれれば、いつ、自分が追いやられるか解らない。


だから母上は、今も気が休まらない。

男児を産んでも子は一人



「エレナが憂いなくお嫁に来てくれるように整える」


「えっ?」


「僕の覚悟を見せないとエレナが首を縦に振らないことはよくわかった。それは宰相も同じだろうから、認めてもらえるようにする」


「何をする気?」


「さてね」


エレナの手を取り甲に口付け、目を見ると頬を朱に染め恥ずかしいのか視線を逸らす。


「もう少し抱きしめていても?」


「抱きしめるだけなら」


「ん」


強く抱きしめてエレナの頭を撫で髪に指を絡める。思いっきり香りを吸い込み癒される。

背中から腰へと指を這わせるとビクリ、と身体が反応する。


エレナも、僕を意識している。


熱が中心に集中して昂る。

跨っているエレナの身体には当たっていないから気付かれていないだろう。


エレナの甘い香りに誘われる。

香油とは違うエレナから漂う僕を誘惑する甘い女の香り。


我慢できずに首筋をペロリと舐めると『ひぃっ』と声を漏らし身体を強張らせるが逃げる様子はない。


調子に乗る事にして首筋に舌を這わせ耳を舐めると、驚いたのかエレナの方から僕に、ぎゅぅっと抱きついた。


「抱きつかれると嬉しいと初めて知ったんだ」


「えっ?」


慌てて離れようとするから引き止める。『もう少しぎゅぅっとして欲しい』と強請ると意外にもやってくれた。


「腕を絡めて胸を押しつけられても嫌な気持ちにしかならなかった。でも、今みたいにエレナに抱きつかれるのは悪くない。胸も気持ちがいいし、エレナの柔らかい身体を感じることができて気持ちいい」


「むっ胸!?」


離れようとするから腰を抑えて胸に顔を埋めた。谷間があり柔らかくて気持ちいい。とても、甘い香りがする。


ペロリと舐めると、また身体が強張った。


「この胸は僕のものだからね?」


狙って上目遣いで縋るようにしてみせれば頬を蒸気させ目をパチクリと、なんと答えるか悩んでいるようだ。


「『シオンのものです』と言えばいいんだよ?」


「えっと……」


「他の男に触らせるつもりか?」


少し声のトーンを下げて問えば首を横に振り否定する。


「し、シオン様の、もの、です?」


その言葉に甘えて抱き締めるついでに胸に顔を埋める。心臓の鼓動が聴こえる。とても早くて、全身で僕を意識しているのが伝わってくる。


今許されるギリギリのところで踏みとどまり、たっぷりと堪能した。

何度か口付けて、口内も。僕を覚えさせるように舌を絡めた。慣れてくると僕の舌の動きに合わせて絡めてくるのが堪らない。


エレナの目尻に溜まる涙を舐めとると、全てを僕のものにしたいと欲が湧き立てられる。


「ハァ……大好きだ。エレナが好きだ。このまま連れ去りたい。遠くに連れ去って僕だけしかいない場所でエレナと二人で暮らしたい」


「えぇっ?!」


「それくらい好きだということだよ。エレナがいれば何もいらない」


「そう言っていただけるのは嬉しいです」


「そう思ってもらえるのは嬉しいな」


もうこれ以上、エレナに触れていると可笑しくなりそうだ。額に口付ける。


「まだ時間はあるか?」


「そろそろ戻らないと……お兄様が探しているかもしれません。シオン様は?」


「満足したからお暇しようかな。会場にいるエレナを見ると嫉妬に狂いそうになる」


「もう直ぐ日付が変わるから、長くはいません」


「日付が変わる前に部屋へ戻って。もうこれ以上、他の男達に笑顔を見せないで欲しい」


「かなり無理を仰るのね」


「無理なら皆んなの前で口付けようか?それなら帰る理由もなくなる」


顎に手をかけ親指でエレナの唇をなぞる。唇の間から見える白い歯列が艶かしい。



最後に一度だけ口付ける。



エレナにジャック宛の手紙を託し、僕は転移で王宮へと帰宅した。

エレナからグレディミア侯爵令嬢、そこからラスティへと渡りジャックの手元に手紙が届くだろう。



転移で自室へ戻る。

エレナの温もりがなくなって寂しさを感じる。さっきまで自分の腕の中にいた愛しい女性。シャツには香りだけが残っている。


眠りにつく時はシャツを抱きしめた。

エレナがいない代わりにエレナの香りがついたシャツを。



こんなにも欲しているのに手に入らないなんて思いもしなかった。



それでも、婚約者でも恋人でもない今の時間も大切にしたいと思う。婚約すれば、この曖昧な関係を楽しめないから。


今楽しめることを、今出来ることをする。

エレナの反応も楽しめる。

そして手に入れた時の喜びは大きいだろう。




翌朝、私室で本を読んでいると侍従が訪ねてきた。僕宛に荷物が届いていると。


受け取ると黒いリボンのついた小箱。

中身は赤い薔薇とメッセージカードだ。


夜会を訪ねたお礼と気持ちに答えてなくて申し訳ないと書かれている。


それと、昨夜の顛末。


グレディミア侯爵令嬢がラスティへ手紙を渡したら、とても喜んでいたけどエレナから僕宛だと知って凄く嫌そうな顔をして手紙を破ろうとしたのをジャックが止めた、と。


ジャックは『恐らく自分宛だから寄越せ』と騒ぎ、その後、グレディミア侯爵令嬢は逃げるように場を離れて行ったから、ラスティはジャックに絡んで酒を飲んでいたらしい。


他の人の目には触れていないと思うがラスティのグレディミア侯爵令嬢への好意が、近くにいた人に伝わったらしく、これから噂になるかもしれない。どうしてくれるんだって、僕の所為かよ。


ラスティには目立ちすぎるな、と伝えるか。


僕とエレナが決まればグレディミア侯爵令嬢で問題ないのだろうけど、メッゼリッヒ公爵令嬢になると相手を変える必要があるからなぁ。


だから、協力してもらわないとね。

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