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18.新しい友人

出会ってから数日経過したが廊下ですれ違うこともなく食堂で姿を見かけても友人と一緒にいて話しかけるタイミングが掴めず、強硬手段を取ることにした。


夏の休暇明けのために、今から仲良くしておきたい、というのが本音だ。


「ジャックはいるか。ジャック・エブラルド子爵令息」


教室の出入り口近くで友人と話している令息に声をかけると僕を見て驚き口が開いている。


にこり、と微笑んで『ジャックはいるか?』と再び尋ねると、慌ててジャックを呼びに教室内へと駆けて行った。


怖がらせたつもりはないのに。


すぐにジャックが来たが僕を見て驚いている。まさか、学園内で呼び出されるとは思ってもいなかったのだろう。


「今日の昼だけど予定はあるか?」


「え?昼ですか?ありませんが……」


「なら良かった。昼は食堂を利用する予定なんだ。そこで待ってるよ」


「えぇと」


「私の友人と一緒になるがいいか?」


「こ……光栄です!」


「じゃぁ、またあとで」


約束を取り付け教室を後にする際、ジャックを見るとクラスメイト達に囲まれて騒がしい。


平民街で会ったことは秘密にするよう約束しているから、僕との仲を聞かれても明確には答えられないだろう。

他人事だが、大変そうだ。


高位貴族と下位貴族の教室は少し離れている。隣、という訳でもなく、生徒達が廊下で集まって話していても邪魔にならないよう教室を離している。

廊下も広く造られている。


高位貴族と下位貴族では講義科目が違っていたり、同じ講義でも内容が違う。


一応、高位貴族は国の中枢で働くことを前提にした内容になり、下位貴族は領地経営の基本から学ぶことになる。






高位貴族のクラスは午前の授業が早くに終わり、食堂に到着したがジャックは来ていない。ラスティとグレイと席を取り、到着を待つことにした。


「昼はジャック・エブラルド子爵令息を誘った」


「ジャック・エブラルド子爵令息?」


「あぁ、子爵家だが事業も軌道に乗っているし大きな問題はない。入学試験での成績も悪くない。中の上の方なら期待できるだろ」


「ん〜、まぁ、エブラルド子爵家の悪い噂は聞かないから大丈夫じゃないか。今からならシオンの悪いようにはならないだろうし〜」


「うちの影をつけとくか?」


「ラスティのとこは手が空いているのか?」


「うちはそこまでウェスタリア家包囲網に影使ってねぇし、お前はエレナ嬢に何人影つけてんだよ」


「可能な限り、チャラ影と話し合いの上で、だよ。調査済みだけど学園での状況はモリアーティス家に任せる」


「シオンに目をつけられるなんて、ジャックも可哀想に。本好きかな?」


「失礼な。先に声をかけたのはエレナの方だ。本が好きかは本人に聞いてくれ」


「エレナ嬢が声をかけたの?牽制のために友人になるの?」


グレイは失礼さが宰相やレイに負けてない。嫌そうな顔で僕を見ている。


「平民街での噂話しのことでエレナが僕を庇ったんだよ。勢い余って。ジャックか彼女と一緒にいて仲良くなった」


「うわぁ。エレナ嬢に庇われるほど悪い噂が流れているんだね。うんうん、シオンだもんね。女侍らせてるとか、ヤリまくってるとか、碌でもない噂だろうね」


大体あっててムカつくなぁ。


僕が機嫌悪そうにしても二人は気にせず揶揄ってくるし、それで楽しそうにしている。

他の奴は僕が機嫌悪そうにしていると怯えるからマシか。



食事を始めて十分程待つとジャックが現れトレイを手にしてキョロキョロとしている。その後ろには様子を伺うクラスメイトの姿。


「ジャック!」


手を上げ声を掛けると、こちらを見て、うん、友人と一緒になると伝えてはいたがラスティとグレイを見て驚いている。

二人も高位貴族クラスだから、話したことはないだろうし。


「あ、の、本当にいいんですか?」


「問題ない。ジャック・エブラルド子爵令息だ。先日、街に出た時に知り合って仲良くなったんだよ」


ラスティは『あぁ、あの日に』と納得した様子でグレイは気にしていないようだ。


「よろしく、ラスティ・モリアーティスだ。呼び捨てで構わない」


「グレイ・シャルダンだ。シオンとは乳兄弟なんだ。僕も呼び捨てで構わない」


「よ、よろしくお願いします」


席につき食事を再開する。

高位貴族のクラスメイト達も遠慮してなのか僕に対して積極的に関わることはしていないのに、子爵家の嫡男と仲良くしているのを気にしている様子だ。


「シオン殿下「シオンで構わない」


「いや、それ無理……です」


「話し方も先日と同じで構わない」


「いや、あ「何度も同じこと言わせるのか?友人に気を遣わせていると思われたくないんだよね。主にエレナに」


「わかった」


エレナの名前を出すと、先日のことを思い出したのか即座に了承してくれる。


「理解が早くて助かるよ」


「シオン〜、それ脅しじゃ〜ん。可哀想だよ、震えて。ジャック、シオンのことは殿下だと思わなければダイジョーブ!何かあればラスティが護ってくれるさ」


「俺かよっ?!」


話せば意外と仲良くなるもんだ。

いつもより賑やかだ。



ふと、視線を感じた方を見るとエレナと目が合い逸らされる。いつものことだけど。


「シオンってばエレナ嬢に目を逸らされただろ」


「グレイはエレナのことを見ているのか?」


「僕がシオンの方を見るとエレナ嬢が視界に入るんだよ」


僕の方を見ると、そう遠くない場所にエレナと友人が座っていることが多いらしく、視界に入るらしい。それ、羨ましい。


「シオンで……シオンはエレナ嬢に話しかけないのですか?」


「人目につくところは困ると断られた」


「魔術実践で初回の講義以外は大人しくしておけば良かったのに、その後も執拗に絡みすぎなんだよ。手を握ったのはマズかったよな〜」


数度の魔術実践の講義で魔力の相性が良いなら色々と試してみようと提案して、魔術の代理行使とかやり過ぎたせいか。


魔力のないジャックは魔術実践の講義を受けていないのでグレイから説明され、下位貴族のクラスで『ウェスタリア侯爵令嬢が魔力で王太子を籠絡している』と、いう噂があることを教えたくれた。


いや、魔力で籠絡ってなんだよ。


「ジャック、これだけは覚えておけ!」


「なんすか?」


「シオンが人間でいるために、いや、臣下となる僕たちが苦労しないために必要なのはエレナ嬢だ」


「グレイ、婚約者がエレナ嬢でなければ不幸な人が増えるだけだというのは、この前の休日でよくわかった。エレナ嬢かいなければ、俺は今頃、命はなかった。この男、ヤバい奴」


「そう!シオンはヤバい奴だから、そこだけ気をつければ生きていける」


「生死の問題かよ!」


「そう、生死の問題」


「確かに生死の問題(ある意味エレナ嬢の)だな」


「そう生死の問題(この国の)だ」


グレイとジャックは酷い言いようだ。二人の主語が違うように聞こえているのは……気のせいだろう。


エレナの方を見ると目が合っても顔を逸らされず微笑んでくれたのは、気のせいではない。


放課後の逢瀬が楽しみだ。

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