17.『次』を増やしたい
デートしてから数日後、登校した時からチラチラと視線を感じている。僕と目が合うと慌てて逸らしているけどさぁ、隣にいるグレディミア侯爵令嬢とジェラール辺境伯令嬢は苦笑いをしているよ。僕のことを見ているって気付いているからね?
ついでに、僕の隣にいるラスティとグレイなんて挙動不審な姿に笑いを堪えているよ。
「なぁ、エレナ嬢は何がしたいんだ?」
「さぁ?わかってたら苦労しないよ」
「シオンが気になるのかなぁ〜。で、その薬指の指輪って何か意味あるの?」
グレイが目をつけたのはデートで買ったお揃いの指輪だ。チェーンを通して首飾りにしても良かったが、付けていることをエレナに知って欲しくて指にはめた。
「ブラックダイヤモンドを使うなんて珍しいな。ドレスの装飾以外では使わないだろ」
ラスティの指摘通り黒い色の宝石は女性達に人気がない。
それでも、ドレスで黒い色を表現する際にブラックダイヤモンドの色は綺麗に映えるので使われることがある。
「公式の行事でも滅多に宝飾品は付けないのにね〜。最近のシオンは人間らしいよね」
「そうか?」
「以前なら生徒の関係性を確認するために食堂を利用するなんて考えもしないだろ。影に任せて報告受けて自分では動かないし書類で済ませてたはず」
確かに自分で動くとか考えたとしても行動に移さなかったかもしれない。
「あ、エレナ嬢も今日は食堂を利用するみたいだね。シオンは待ち合わせでもしてたの?」
「してないよ、ここで話したら目立つだろ」
「ふぅん、エレナ嬢はこっちを気にしていたみたいだけど?」
グレイが『ほら、また見てる』と教えてくるからエレナの方に視線を移すと思い切り顔を逸らされた。……意味わかんねぇ。
エレナから話しかけられる訳でもなく、他の女子生徒が近づくこともなく、ある意味では平和な食事の時間を過ごせた。
トレイを片付けて食堂から出ようとした直前、呼び止められる。
「シャルダン伯爵令息、でお間違いないかしら?」
ジェラール辺境伯令嬢が呼び止めたのはグレイだ。
「やぁ、えーと、ジェラール辺境伯令嬢で間違いないかな?」
「はい。あの、これを」
手渡されたのは手紙のようだ。
二人とも婚約者はいないし、周りも僕ではなくてグレイが呼び止められたから、さほど、気にしてはいないようだ。
「???……あぁ!ありがとう」
グレイが受け取った物の認識をしたと確認できたのか、ジェラール辺境伯令嬢はエレナ達の方へと戻っていく。
「グレイ、何もらったんだよ」
紳士科の棟へ移動し、教室へ向かう途中、ラスティはグレイが受け取った手紙を覗き込み、僕の方を見てニヤニヤしている。
「とりあえず、場所を移そうか」
ラスティとグレイの二人で移動すればいいのに腕を掴まれて中庭へと連れて行かれる。僕には関係ないだろっ。
人目につきにくい場所に着くと、グレイから受け取っていた手紙を渡される。中を見てみろと促されるが、ジェラール辺境伯令嬢と交流を持ったことはないのに、なぜ、僕まで手紙を見ないといけないんだ。
「え?」
「驚いた?」
「は?」
もう一度確認するとエレナから僕に宛てた内容だった。
『シオン様へ
お話ししたい事があります。
放課後、お待ちしています。
エレナ』
はじめて、エレナから誘われた。
嬉しくて、顔がにやけていそうだ。恥ずかしくて右手で口元を覆う。
「へぇ、どこで待っているのかわかるのか?」
「よく二人で逢瀬してなきゃ、この書き方にはならないよな〜。二人っきりなら既成事実にもなるだろうし?密室?どこまで手を出したんだ?もうウチの邸を使わないで私室に連れ込めよ」
「エレナ嬢も考えたよね〜。シオンに渡すと周りの令嬢が黙ってないから、ジェラール辺境伯令嬢が代理で僕に渡すなんて。何これ、僕への嫌がらせ?」
「グレイには悪いが助かった。グレイを使うのはいい方法だ」
「あまりやられると僕の方が既成事実になりそうだから遠慮してよ」
ジェラール辺境伯家の子供は三人とも女だから婿をとって爵位を継がせる予定だ。それなら騎士や魔術師が適任だろうからグレイが選ばれることはない、はずだ。
エレナとの仲が進展したら、婿入りできる騎士や魔術師を紹介しよう。
放課後、足早に生徒会の前に中央棟の裏へ向かう。生徒会までの短い時間しか会えない。数秒、数分、少しでも長く一緒にいたくて走り出したいのを我慢している。
中央棟と裏へ到着すると既にエレナが待っていた。壁に寄りかかり、空を見上げている。
自分を誘ってくれて、待っていてくれているのが嬉しくて、思わず駆け寄りたくなる。
「待たせてしまったね」
ゆっくりと歩を進める。嬉しくて抱きつきたい衝動を抑えて。
こちらに視線を移したエレナに、目を細めて微笑む。
「急にお呼び出しして、ごめんなさい」
頭を下げで詫びるエレナは、うろうろ眼だ。
「呼び出し方は誰が考えたんだ?」
「リサ様です。直接、シオン様に声を掛けると他の方から何か言われるかもしれないから、シャルダン伯爵令息へ手紙を渡せば疑われないと提案してくれたんです」
「良い案だよ。誰も疑わなかったからね。それで、週末まで待てない程の用は何かな?」
逢瀬の日よりも二日も早く会わなければいけない用事はないはず。
「あの、」
「ん?」
エレナの直ぐ隣に立ち髪を一房取りキスを落とす。薔薇と甘い香りがする。この香り、好きだ。
俯いてスカートを握りしめている。
言い出しにくいのか恥ずかしいのか……。
「代金はお店でお支払いするのだと、、、」
「代金?」
「この前の猫ちゃんの、代金、です」
言いづらそうに、チラリと僕を見てすぐに俯いた。
「あぁ、猫のぬいぐるみの?」
「は、い」
ふふ、やっぱりエレナは買い物を知らなかったのか。
クスクスと笑っているとエレナはムッとした顔をして僕を睨む。
その、睨んでいる顔も可愛いなぁ。
「安心して、指輪の代金と一緒に支払ったから」
「うぅっ……ごめんなさい。私、買ってもらうつもりはなくて、その……お支払いします」
「それは困るかな。気持ちだけいただくよ」
「でもっ!」
はいそうですか、と、代金を支払わせたらダサいだろ。好きな子のために、お金を使っているんだから気にされるのも男として情けないんだけど気づいていないだろう。
「例え婚約していなくても男女で出掛けたら支払うのは男の務めだ。それでもエレナが何かしたいと思うなら、今度、気持ちのこもったお礼をしてくれればいい」
「気持ち?」
「そう、気持ちがあれば何でもいい」
一緒に入れる時間とか、ね。なんて言えたらいいけど、エレナが何をしてくれるのか楽しみだ。
「考えます。シオン様に喜んでもらえること」
「楽しみにしているよ。それと、」
エレナの左手を取り薬指を確認するとプレゼントした指輪が嵌められていた。
自分の色を身につけてもらえているのを見ると嬉しくなる。
その左手薬指にキスを落とすと、エレナの身体がビクリと震え、頬が朱に染まる。
「指輪をしてくれて、ありがとう」
「学園では指につけます。邸では、お父様とお兄様が気づいてしまうから……」
「それがいいね。指輪を取り上げられそうだ」
と、困った表情をすると『暴露ないようにしますね』と、また一つ、秘密を共有してくれた。
別れ際、唇を重ねたいのを我慢して額にキスをすると真っ赤な顔をして口をパクパクさせている。
一つずつ、エレナとの次を増やしていく




