12.○○疑惑
転移術の承認がおりる前、ラスティには転移を使いこなせるよう訓練をつけた。空間魔術の適性があったようで、一日でマスターして自由に転移ができるようになった。
アレンが行う結界張りについては見積もりをとったりと実際の術の行使前後の業務も多いのでラスティも手伝えるよう仕事を教えた。
僕は魔術師とラスティから報告を受けて……って、魔術関連の業務を任されることになった。頑張ったら仕事増えるって何でだよ。
本来は宰相補佐であるはずのレイは一時的に魔術師団で世話になるらしく、転移術と転移除けの結界を学んでいる。
というか、一緒に訓練して魔術研究までしている。能力はアレンと同格か上、だしな。
ウェスタリア邸は自分で結界を張るらしい。
自分で張ってメンテナンスをするなら費用は発生しないし手間も省ける。
今週は授業の後は二日に一度の生徒会の活動と帰宅後にはスッカリ馴染んだ魔術師団との魔術研究と転移の訓練、転移避け結界と他の結界の進捗確認と、通常の執務をこなしていた。
レイとは王太子と宰相補佐として接するより気安く話し合えて良い関係だけど、エレナの話はしてこない。
宰相と同じでキッチリ公私を分けているのか話したくないのか。後者だろうけど。
で、やる事が多くて睡眠時間が削られている。
それでも合間に転移術行使の訓練も行った。僕自身が、一人で遠くまで転移するために。エレナと日帰りで遠出できる日を夢見て。いや、実現する。
学園では大きな問題は起きておらず、淑女科も落ち着いている。食堂の一件があったことで、大人しくしているようだ。
そのまま大人しくしていてくれ。
一週間頑張ったご褒美が今日の逢瀬だ。
魔術関連での執務が多かったこともあって、あっという間に逢瀬の日になった。
昨日は頼んでいた物をオリヴィニス・ホージャ(宝飾店)の店主が届けにきてくれた。イメージ通り、とても良い仕上がりになっていて安心している。
放課後、いつもの場所に用意が完了し、影に預けていたプレゼントを受け取る。
『チャラ影によるとエレナ様はシオン殿下に嫌われるべく努力されているようです』
「チャラ影?嫌われる努力?」
『ウェスタリアのチャラ担当の影ですよ。実力あるのにチャラ担当してるんです。王族には嫁ぎたくないようです。チャラ担当が入れ知恵していますね』
「王族に嫁ぎたくない理由は?」
『ご自身でお確かめいただくのがよろしいかと存じます』
「そう……」
王族に特有の制度と考えたら一つしかない。それか、責務に対してか。
どちらにしても嫁ぎたくない理由がなくなれば諦めるだろうし、嫌がっても手に入れる。
「こんにちわ」
ひょこっと角から顔を覗かせて、周りをキョロキョロと見渡し誰にもつけられていないことを確認している。
「来てくれたんだね。先週のこともあったから来ないかもしれないと思っていたんだ」
「王太子殿下との約束を破る程、失礼ではありません!係の仕事があって遅くなりました、ごめんなさい」
頭を下げて謝ってくれているけど、王太子殿下ねぇ……。義務みたいな気持ちなのか。
「エレナが嫌だと思うなら来なくていい。王太子ではない、これは、私との約束だ」
「はい」
座るよう促すと、茶葉を持ってきたから用意してくれることになった。手際がいいから普段から自分で用意しているのだろう。
「薔薇の香りに似ているね」
コクリと口に含むと鼻腔に薔薇の香りが広がった。
「ブラディという茶葉です。我が家の領地で取れるんです。そういえば、お兄様がお世話になっていると聞きました。ご迷惑をお掛けしていなければいいのですけど」
「魔術師団で魔術を学んでいるね。学び終わっているんだけど、魔術師総出で引き止めているよ。そこに近衛騎士も加わってレイを取り合っている」
レイは魔術も使えて剣の腕もある。
今までは宰相補佐の仕事を優先し、領主代理までやり始めたから、近衛騎士も魔術師も指を咥えているだけだったのに、自らやって来たんだから、暫くは付き合ってもらう。
それより、エレナとの逢瀬の時間は短い。
がっついていると思われてもいいから、本題に!
「来月の七日が誕生日なんだってね」
「シオン様に知っていただけているなんて光栄です」
言葉遣いもフランクにして欲しい。
今は無理、だよな。
「ラスティから聞いたよ。モリアーティス家には招待状を出したんだろう」
「……モリアーティス派ですから」
「それだけではないと思うけど?」
「ご存知なんですよね?それでしたら、私と会わない方が」
「ラスティの婚約者候補なのは知っている。でも候補だろ?それに、ラスティは知っているよ。彼は婚約に乗り気ではないみたいだけど」
驚いているな。
ラスティとの婚約を願っていたのだろうか。
ああ、下を向いて黙っちゃった。
「怒りたいなら怒っていいよ」
「違います」
「じゃぁ何かな?」
「初めてお会いした時からラスティ様が乗り気でないのは気付いていました。ずっと、シオン様との思い出話をされていましたから。ラスティ様はシオン様の事がお好きなんですよね?!」
…………はい?
え?何言ってるんだ、この子。
ラスティが僕を?
「ラスティ様、シオン様との思い出を大切にされているんですね。お互い結婚する相手は女性になりますが、影ながら想いを通わせるのは暴露なければ……いいえ、この際、お認めくださる伴侶を得ることでストレスなく想いを通わせる事が出来ます。応援していますね」
……応援?何故っ!?
「ま、まてまてまてまて!」
「何でしょう?」
そ、んな首を傾げて可愛らしく振る舞っても認めないからなっ!
「ラスティが僕を好きだって?!んな訳あるかっ!ついでに僕が想っているような口振りだけど違うからっ!!」
あ……思わず素が出た……。
あ、いや、誤解を解くために必要、じゃなくて誤解を解こうと焦ったら素が……
「あら?違いました?だから婚約者を決めなかったのでは」
「違う違う!!婚約者を決めなかったのは、相応しい人が居なかったからであって、あ、いや……」
あ〜〜言い方が悪くなる。
なんて言ったらいいんだ。
どう説明すると誤解なく伝わるのか解らなくてテーブルに肘をついて頭を抱えてしまった。
うーん、と唸っていたら頭に触れる感触。
頭を撫でられているのか?
バッと顔を上げると、嬉しそうに頭を撫でていたエレナの楽しそうな表情。
ーーーーどうして撫でたの?
「シオン様って一人称は『僕』なんですね。普段のシオン様が見れて嬉しくて、頭も近いから撫でちゃいました!」
あの、予想の斜め上いく行動はお控えください。で、あと、恥ずかしい。
……顔が赤くなっていそうだよ。
「とにかく、ラスティは僕のことを想ってはいないし僕もラスティを想ってはいないから、それで納得してくれ」
「はぁーい!」
返事が軽いせいか、揶揄われている気分になる。