予告(2)
所長は半5階から渡田を見下ろす。面倒そうな顔なのは気のせいだろうか。
「相変わらず全てにおいて荒いですねーー渡田刑事。」
「荒い?この俺からそんな言葉どっから出んだよ!俺は時間死守タイプだぞ。」
その他が荒いんだよ、とこの場に居る全員が思った。
応接ソファーに渡田と所長は、先程から座っていた薫と向かい合うように座った。
「説明が遅れたな、このお方は渡田刑事だ。降宮君、君はこれから、ほぼ毎度お世話になる。」
「3ヶ月間お世話になります。渡田刑事さん。」
薫はそこで一旦口を噤み、「それから」と言いかけた。
「所長。まだ貴方の苗字を聞いていません。教えてくれても良いのでは?」
所長はゴホンッと咳払いをした。同時に渡田が片手で天を仰ぐ。
「晃、まだ言ってなかったのか!あーもう、こいつはぁ‥」
渡田が諦めの嘆きを呟く。所長は姿勢を改め、遅い自己紹介をする。
「申し遅れた。私は長谷部 晃、根っからの推理好きだ。」
⚫︎
薫は長谷部の名前の漢字を聞き、メモ帳に書きながら聞いた。
「そういえば、所長。この前の客にはあんな軽口を披露していましたが、渡田刑事には敬語なんですね。」
太宰が何⁉︎と反応する。
「渡田刑事には昔からお世話になっているからな。昔っていうのは交番時代の事だ。」
「成る程、所長が推理して渡田刑事がどんどん功績を挙げたんですね。なかなか渡田刑事ズルイですね。」
「オイオイ、どうしてそうなった。」
薫はとあるカフェで買ったアイスティーをストローで飲む。カップの汗が机に滴る。
「言っておくが、私は誰振り構わず軽口を叩く様な人間では無い。私はその相手が“敬語を使う価値のある人間か”が重要なだけだ。」
薫はカップを両手で持ちながら頷いた。
「流石ですねー。」
一瞬で納得した薫に渡田がツッコミを入れる。
「おい、納得すんな!」
机に沢山の資料が並ぶ。薫はひとしきり見渡すと感想を言う。
「最近ニュースで報道されている誘拐事件ですね。浜松聖女学校の生徒ばかり狙われるとかの。」
この女学校は中高一貫校でとても優秀な者か、とても裕福かのどちらかでしか入れないお嬢様学校だ。置かれた資料はそればかりでは無く、誘拐された場所を繋いだ点線がある地図もあった。点の色が違う物もあった。
「犯人、相当こだわりが強いですね。女学校の周りを通学路の地区ごとのポイントで8角形を作って囲むつもりでしょうか。あと地区は3つ、もう少しでポイント埋まりますね。」
薫は色の違う点を指差した。
「で、この色が違う4つの点は除外されてますが、何故ですか?どれもこの点線に近いですけど。」
「ああ、これはおそらく、この犯行に感化された快楽犯の仕業か、犯人が他に仕組んだダミーだ。」
「何故そう言えるのですか?」
長谷部は資料をいくつか取り出した。1つは、現場の写真、また1つは誘拐された人の写真と情報が書かれたものだった。
「この誘拐現場には誘拐されたが持ち主の、ウサギのキーホルダーが落ちている。だかこの4つには何も落ちてない。キーホルダーの中には、どれもとある動画へのリンク先が書かれたICチップが入っていたようだ。」
「このキーホルダー僕も持ってますね。目印として犯人自身が買った物を誘拐した所に置いたと言う事でしょうか?」
「そして、この被害者達の写真と情報を見て、何か思わないかね。」
薫はしばらく凝視すると、あ!っと声をあげた。
「皆、よく見ると、首筋などに傷があります。もしかしたら、体中にも。家に問題でもあるのでしょうか?」
お見事、と長谷部は薫を褒めた。
「そして、この4つは違う。ーそこまでは警察も分かっている。まあ、ここまで分かるのに1日掛ったそうだが。そして!」
長谷部はボーを呼び寄せ、パソコンを持って来させた。ボーは動画を再生する。
〔こんにちは、皆さん。〕
機械で変換された高い声が響く。
〔貴方達のお人形は我々が戴いた。返して欲しければこの口座に1人1000万注ぎ込め。さもなくばお人形達は自らの巣を壊すでしょう。〕
ここで動画は停止された。
薫はひとり、呟いた。
「‥やっぱりそうゆう事か‥‥洗脳?まずいーーー」
「お取り込み中すまないが、1つ付け足しさせて貰う。」
所長は怒りを隠せないのか声が滲んだ。
「これを見た5人の親は“馬鹿馬鹿しいどうせ自作自演だ”と相手にしなかったようだ。ボゥが後に調べたら、全員、貰いっ子である事を隠していた。」
薫は顔を上げた。
「所長‥!犯人の目的が分かりました。多分、被害者宅を爆破させるつもりです!周辺にも被害が!」
「ちょっと待てガキ、詳しく。」
「説明してくれるかな?」
全く分かっていない渡田を分からせる為か、所長は説明を求めた。
「はい、予想の範囲ですが、被害者は全員裕福な親に貰われています。傷だらけな所から“文字通り”人形扱いな事も想像出来ます。おそらく、それは警察が動く程の酷さで。」
渡田は黙って聞き、所長は神妙な表情で頷いた。
「おそらく、犯人はそれにつけ込んで、爆弾でも抱えさせてテロでも起こす気です。多分、ビデオを送っても何も無かった事でより拍車がかかっているかと‥」
「急がないといけねぇな。」
「ほぅ、その観点があったか。では、降宮君。犯人像は浮かんでいるな?」
薫は頷いた。2人の言葉が同時に重なった。
「犯人像は、裕福な人に恨みを持つ人です。」
「‥‥‥ーーー裕福な人に恨みを持つ人だ。」
ボーがメッセージを送った。
『監禁場所、分かるけど。』
薫は手を振った。
「いいえ、分かってます。おそらく、」
薫はとある地点を指差した。
「ここ、女学校の隠された場所ーー地下元実験室です。」
所長の名前が明かされたので、文章上『長谷部』呼びに変わります。ちなみになのですが、シリアスは次回までです。