Lie to cover up another Lie 後編
後編ってより裏です。
所長は一瞬、言うのを躊躇ったのかも知れない。
「とある銀行の上司とその部下だ。」
銀行、と言う言葉を聞いて嫌な予感がした。友達の桐生は代々銀行をやってきた一家だからだ。
「安心したまえ、君の友の所の銀行では無い。」
薫の不安に気遣ったのか優しくそう付け足した。だが、そうだとしても、もし薫が不正を暴いたとすると、銀行自体の信用が無くなるかも知れない。大変な責任だ。
『責任を感じる必要は無いです。大体、揉み消されますよ。しかも、これを遠隔で仕組んだ人がいますから。』
「いえ、でも‥いきなりってのは‥」
ボーのメールに反論する。するとすぐに
『仕組んだ人は黒蜥蜴と名乗るハッカーで自分の宿敵なんです。自分らはそれの炙り出しに尽力しています。貴方はそいつの道具の片付けをするだけです。』
メッセージが返って来る。最後の文をもう一度眺めた。
薫は自分が目指して来た世界は、かなり殺伐とした世界だという事を痛感した。
「ただデタラメな話を聞いて推理出来る訳が無いだろう。だから、ボゥが作ったSSC に登録してくれ。」
「SSC ってなんですか?」
「スーパー・シークレット・チャットの略である。これはFBIにも覗き見不可能だ。我々はこれで事件の情報のやり取りをする。」
つまり、オンタイムで証拠やヒントが来るって事か。なかなか凄いチートな気がする。名前、ちょっとダサいけど。
「これで速攻解決出来ますね。」
「分かりが早くて助かる。ではこのUSB に繋ぎたまえ。」
ボーがさっきからパチパチ打っていたパソコンに接続する。アプリを入れた時の音がして、ボーは薫にスマホを返した。
『このアプリはぱっと見カメラアプリですが、ムービーモードとカメラモードを同時に押すと顔認証でチャットにアクセスします。カメラとしても使えます。というか、これで撮って下さい。』
「成る程っ‥」
作成会議(チャットの使い方講座)はしばらく続いた。
⚫︎
とある刑事はここの長谷部所長の指示で、2人の依頼人が入った後ドアに張り込みしていた。
(ったく、晃の奴。なんでこんな場所に張り込みしなきゃいけねぇのか理由も言わねぇで‥)
渡田はしょっちゅうここでお世話(現行犯)になるので顔見知りだった。所長の長谷部とは、所長が小さき日の“とある事件”の時からの仲だ。時々気になって顔を出しに来る。
(まあ、理由は現行犯逮捕しろって事だろうがな。)
渡田はドアの小さな窓から中を覗く。
(おおっと‥あ、犯人は背中向けているか、あぶねー。)
気付かれそうになった。代わりに見た事ある少年と目が一瞬合う。少年は演技派なのか顔色1つ変えず話を聞いている。
(あ!降宮って言う奴か!あの事件をほぼ自力で解き明かしたって聞いたな。)
犯人候補は薫が訊く質問に段々と答えられなくなっていった。薫の声が凛々しく響く。
「何故、この人達全員が関わっていると知っているのですか?」
(あんな小さい子が‥そういえば高校生だったな。まあ、あんな顔するガキはそういねぇ。)
渡田に長谷部の“とある事件”の事を必死に伝える姿がよぎった。
ーーー兄ちゃんは殺してない!時間帯も証言もデタラメだ!
(少し、似ているな。)
頬が少し緩んだ。
「うわぁぁぁぁーーー!!!」
上司らしき人の顔が汗塗れで真っ青になって立ち上がる。しばらくするとこちらに走って来た。
「ーーー退け!どけ!」
渡田は自らが壁になり、逃走を阻害する。殴り掛かって来たので訓練通りの動きで羽交い締めにする。きつめに手錠を付ける。「イテっ」と言っていたがお構いなしだ。
「ーーっと。」
付き添いの女性は驚いた表情をしていた。代わりに少年は静観していた。
(肝っ玉‥‥いやこれ緊張して表情筋動かなくなったのか?)
渡田は一応自己紹介として押さえていない手の方で警察手帳を見せる。
「はーい、警察です!落ち着いて下さいねー!」
押さえ付けた被疑者が逃げ出しそうなのを渡田は見逃さなかった。
「くっ、まだ逃げる気か!!」
本当は駄目だが、首を締めて落とそうと思った瞬間、バカでかいパトカーサイレンが鳴り響く。太宰は咄嗟にロフトを睨む。
「(あ、とだっちと目が合った!おーい、貢献したぞーー!!感謝しろ!!)」
渡田は見なかった事にした。
「糞ッ‥ここまでか‥」
被疑者はサイレンを聞いたからなのか、全身の力が抜けた。
(恐ろしい‥これが警視総監の娘パワー‥)
しっかり、通りで待っていた後輩が乗っているパトカーに引き渡した。
「ありがとうございます。渡田先輩。どうして、我々が探していた被疑者がここにいるって分かったんですか?」
太宰は頭を豪快に掻いた。
「いいや、俺じゃない。ここの事務所の所長が探し物を持っているから待ってろって連絡が来ただけだ。」
後輩は何も分からないような顔をした。
「いずれ分かるさ。ここの連中がどれだけ“警察としての”犯人逮捕に貢献しているか。ようし、後輩、あの事務所にはした金と感謝状送っとけ。もちろん、経費でな。」
「‥はい‥‥?」
この後渡田は命令通り、しっかり待ち、もう1人逮捕したそう。
ちなみにボゥ、実は事務所メンバーのスマホはいつでも覗けます。情報漏洩も良いところです。