探偵を志す者(3)
また登場人物が増えます。
いつか、登場人物欄を制作したいです。挿絵を添えて。
「ここに座っていてくれ。」
所長は僕を応接間らしき空間のソファーに座らせた。飲み物もお菓子も置いていない。しかもソファーにうっすらホコリが積もっていた。つまり、客は滅多に来ないのだろう。
「トーナメント戦、拝見させて頂いた。非常に有難かった。」
机越しのソファーに座り、社交辞令を行う所長。有り難いって何の事だろう。
「そうでも無いです。決勝であんな恥かきましたし。」
質問を堪え、半ば本音を混ぜながら答える。すると、笑みがより緩くなる。というか何か企んでいる、が近いだろうか。
「いやはや、あの決勝戦のシナリオを書いたのは私なのだ。公募で名前も変えて送った物だ。」
「えぇ!本当ですか!」
普通に驚いてしまった。
「私が考えた、というか元にした事件を見事に解き明かしたのは君だけだ。審査員でさえあのボンクラの戯言を信じたのだ。殴った次点で減点措置なはずだが。」
最後の言葉にはうなずきたい程同意したが、ぐっと堪える。
「そうなんですね‥自分が間違ったのでは無いかと不安だったのです。」
「いいや、君は自分の推理に自信があっただろう?私はシナリオだけでなく、スタジオのリアル感にもこだわった。君程の実力ならば、開始5分以内で分かっただろう。」
「‥。」
嘘を見抜かれ、解けた時間の予想が当たっている驚きのあまり口を開けて絶句してしまった。僕が今まで見た探偵の中で1番鋭い。
「こんなに鋭い探偵は初めてです。」
もちろん、お世辞込みの本音だった。だが、なんだかとても不満げだった。曲がった口が動く。
「私の事を探偵と言う呼び方は今後一切辞めてくれ。私は、推理家だ。」
そうだった。ここの所長は探偵嫌いだった。少なくともこの人が所長である事は確定した。
「すいません、所長さん‥質問良いですか。」
「良いだろう。」
折角なのでずっと気になっている事を訊いた。
「推理家ってなんですか?」
所長は薄ら笑みのまま動かなくなってしまった。石にした原因が分からないまま慌てふためく僕。
「す、すみません!なんかごめんなさい!」
とにかく、謝る事にした。少し間を置いて所長はやっと動き出した。ゆっくりと頭を抱える。
「良いのだ‥所詮少数派‥ネット検索してもヒット件数は0だろう。教えよう‥“推理家”は“推理の専門家”の略だ。」
所長が早口で喋った事を成る程、と納得する。それを見て所長はほっと胸を撫で下ろした。
「分かりが早くて助かる。この推理家事務所は、依頼者に“推理を提供する”事務所である。まあ推理専門だ、わざわざ犯人の所へ出向く必要なんぞ無い。」
「(ますます僕にピッタリな事務所の様な‥)」
所長は感慨深そうに頷いて呟いた。
「そして、私は見つけてしまったのだよ。」
うっすらやな予感がして訊き返す。
「何を‥?」
所長は僕を指差した。
「降宮 薫、君だよ!私は君程、推理家の才能がある者を見たことがない!!是非私の助手となり、将来は推理家となって活躍したまえ!」
一瞬、頭が真っ白になった。
「えええぇぇぇ!!!?」
15歳の4月、僕は推理家の助手になりました。
⚫︎
上のロフト(室内のベランダ?)みたいな所から声がした。インターホン越しに言い合っていたもう1人の声だ。
「降宮‥君?だっけ?それってショ探偵で有名の子?」
‥‥怒っていい?
所長は上も向かず答える。
「先程トーナメント戦の話をしていたが、聞いていなかったのか。そうか。」
「うっさい、今まで張り込みしてたんだけど?ルパンの指示で。」
事務所に張り込みしている人を初めて聞いた。
というか、推理家事務所の所長のあだ名がルパンではいけない気がする。ほら、浅見光彦さんっぽいから、浅見所長とか。あ、僕の小林とそこまで変わんないや。
「あ、ルパンの愛称が気になるって?いやぁ、この人容姿、言動全てにおいて怪盗ルパンそっくりだから。」
「‥‥」
分からなくも無い、と言いそうになって堪えた。
「てか早く言っといてよ!ゲストが有名人なら特に!」
そう言って声の主は大きな足音を立てて、目の前の階段を降りて来た。
その子は僕と同年代らしく、セーラ服にジャージの上着という格好だった。青っぽい薄灰色から桃色の髪のグラデーションをツインテールにしてまとめていた。そして、首にオレンジ色のヘットホンをかけている。
‥そこまではまだ良いのだが。
(危険な予感‥)
顔を様々なガーゼやら絆創膏やらで覆っていた。しまいには爪が真っ黒。‥見えたのは一瞬だが、腕に引っ掻き傷が大量に刻まれていた。猫でも飼っているのだろう、と考え直しておこう。
「よろしく!降宮君。」
その子は向かいのソファーの背もたれに後ろから寄っかかって、握手を求めた。真っ直ぐな姿勢でソファーの設置部分はお腹のみだ。
「よろしくお願いします‥?」
握手で腕を揺らすたびに体がソファーから落ちそうになる。直ぐに辞めておいた。
「私、井上 桃子。名前、古臭いでしょ?モモで良いよーーギャッ!!?」
遂にソファーから落ちた。テーブルに顔から着地だ。
「大丈夫ですか?ーーうわ!本当に大丈夫ですか⁉︎」
モモが顔を上げた時に思いっきし鼻血を出していたので、驚いて2重に訊いてしまった。
「いつも同じ事で女性にとって大事な顔に傷を付けているな、学習能力は無いのか?」
所長は呆れ返っていた。
「ルパン、ティッシュ。」
「人の話を少しは聞いて欲しいな。」
とりあえず、モモにポケットティッシュを渡す。
「あんがと。」
「モモさんは同じインターンですか?バイトですか?」
ついでに訊いてみた。モモは鼻にティッシュを詰めながら笑った。他人の前でその詰め方はちょっと‥
「何言ってんの?私、“正社員”だけど。通信教育だから時間はあるし、寝泊まり出来るし、スパコンある位の最新のネット設備だし?色々サイコー!」
学生の正社員はまあ良いとして‥家は了承したのか?
‥っていうか、今最新のスーパーコンピューターって言わなかったか?そんな設備何処から。
「色々質問があり過ぎます。」
僕がそう言う頃にはモモはソファーにどっかり座り、VRゴーグルを装着してニヤついていた。座って出来るんだ。
僕と所長はその光景に苦笑いした。
「そろそろ、客がやって来ーーーー」
所長はと僕はギギギと音を立てたドアの方を顔を向ける。入って来たのは所長の言った客では無く、
「ぁぁぁぁ‥」
さっきぶつかった怖い目つきの大きな人だった。確かに行き先はここ以外考えられないから怒りに来る事は容易だろう。でもわざわざ来るか?
多少、身構えた。
「お、ボゥ帰って来たか。例の物の調達とハック調査は済ませたな?」
「‥。」(うなずく)
僕はとてつもなくホッとした。まさかここの社員だとは。でも、怖い。
「ボゥ、監視カメラで知っているだろうがこの少年はインターンで来た。挨拶したまえ。」
「よ、よろしくお願いします。」
今挨拶したのは僕だ。あの人はというと、
「‥‥。」(オロオロしている)
どう見たって頭が真っ白になっている。マスク越しに息が荒くなっているし、額の汗が増えている。
「無理しなくて良いですよ‥?」
僕はこのパーカーにズボンの格好という格好の人が重度のコミュ症である事を推理した。あの目つきはそうゆう事か。誤解してごめんなさい。
「あ!ボーちゃん帰って来た⁈」
ようやっとモモが気付いた。ボーちゃんと呼ばれた人が持っていたビニル袋をかっさらい、中を漁る。
「これこれ!あんがとお、ボーちゃん!よし、早速飛行テストだ!」
モモは中に入っていた小さいドローン(?)の箱を抱え、また上がっていった。
ポケットに違和感を感じてスマホを取り出す。メッセージが届いていた。
『勝手にハッキングしてメール登録してごめんなさい。よろしくお願いします^ ^』
「!!!」
おそらく、目の前のボーさんだ。
「ああ、説明が遅れたがボゥは昔、黒鳳と名乗って活躍していた。基本的彼が細かい調査を行なっている。」
黒鳳は6年位前までネット上で様々な企業の不正を公開しまくった。いわゆる、現代版義賊だ。僕のスマホのハッキングなんて簡単だろう。
「あの伝説の⁈ちょっと待って下さい、警察は認めたんですか?」
所長は顎を触った。
「当時ボゥは未成年だ。18歳になる前に私がここに誘ったのだ。あとは、モモに頑張って貰った。」
「モモさんは何者なんですか‥」
所長は僕の質問を聞かなかった事にした。守秘義務ってやつかな。
「あ、これから来る依頼人だが、ーーーー」
お茶を濁すつもりなのか話題を変えた。
「降宮君、君に担当して貰う。」
再びあの衝撃。また、頭が一瞬真っ白になった。
「え?!何故来たばかりの僕に?」
推理家と名乗る所長は得意そうに笑う。
「非常に謎とも言えない程簡単だから、というのもあるのだがやはり、私や他の社員だとやり辛い相手というのも有る。インターン、そして有名人という立場を利用させて戴くとする。」
「やり辛いってどんな依頼人なんですか?政治家とか権力者って事ですか?」
所長は首を振った。
「惜しいな、その依頼人はーー」
所長はそこで少し溜めた。
「とある銀行の上司とその部下だ。」
新しい登場人物[ボゥ]は、女性ウケが良さそうなキャラデザになってます。ちなみにこの作品も、女性ウケについて熟考した後に出来た作品です。知り合いのG級ヲタ姫に色々聞きました。もちろん、女性のみならずどなたでもお楽しみ頂けます。
‥本当にこれで良いのでしょうか?僕には難しい謎です。