表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/66

小さな守護者








「身長は多分150cmくらいだと思います。髪は黒、ポニーテールにしてました。痩せ気味で服装は迷彩柄のパーカーに深緑色のパンツ。警備軍が履くようなゴツい革靴と……こんな事言うのも変ですが凄く綺麗な女の子でした。年齢は恐らく14,5歳かと」


「14,5歳……予想よりずっと若い、いやある意味予想通りか」


 花畑は聞き役で、残りの男達が記録している。録音もしているが同時に書き込みも行っていた。


「レヴリの額を撃ち抜き、すぐに胸部に二発。発砲音は全くありませんでした。暫くすると背後から歩いて近づいて来て、私の横を通り……レヴリの頭部に何発も。やっぱり発砲音は小さくてパシュって感じの空気が抜けるような、聞いた事のない音です」


「消音器みたいな?」


「いえ、其れらしい物は何も」


「……銃の形状は?」


「印象は子供の玩具です。色は黒で全体に緑色した線が這っていました。サイズはこれくらい、ただ形は……出来損ないの狙撃銃みたいな、それかパーツを継ぎ足したハンドガン、でしょうか。昔テレビでやっていた男の子が好きな、何でしたっけ?」


「うーん、男の子……何とか戦隊、とか?」


「あっ、それです。キャラクターが持っている様な武器が一番イメージに合うと思います」


「そんなのであの威力? ちょっと信じられないわね」


「でも、本当なんです……」


「見た目の材質は? まさかプラスチックとか言わないわよね?」


「流石にそれは……かなりマットな印象で、強化カーボン、みたいな」


「ふむ、重さは? 天使は小さな女の子でしょ? 持て余している感じとか」


「それは全く。かなり手慣れた感じです。それこそ白石隊長みたいに」


「いまいちイメージが湧かないわね……結果とのギャップがあり過ぎでしょ。天使は綺麗な女の子なんだよね?」


 余り元気がなくなっていた陽咲だが、此処で俄然張り切り始める。


「そうなんです! 可愛いと綺麗の丁度良い感じで、イメージは……氷とか雪、雪の精霊みたいな、冷たい」


「それ褒めてるの?」


「勿論です! 司令だって会えば成る程と思うに決まってます! 視線は鋭くて冷たい感じなのに優しい……とにかく凄く素敵な女の子ですから! 睫毛だって長いし、肌なんて雪みたいに真っ白で、服装はアレなのに、霞むことなんてなくて」


「わ、分かったわ。いや良く分からないけど」


「でも」


「でも?」


「一番感じたのは"拒絶"です。私が近寄ると距離を取りました。会話も何処かチグハグだったのを覚えてます」


「杠さん! 会話ですね! ど、どんな話を」


 今度は花畑が張り切る。鼻息が荒くて二人の女性は半歩引いた、気持ちごと。


「えっと、最初は怪我がないか心配してくれて。その後に水筒を投げて、飲んでって」


「優しいじゃない。言語は日本語?」


「はい。と言うか間違いなく日本人です。顔立ちや発音からもそう思いました」


「それから、どうなりました?」


「それが……怒られた、のかな? 何故逃げなかったのか、判断出来ないなら戦士に不向きだって」


「へぇ、興味深いわね。でも幾ら聞いても益々分からないわ。陽咲が報告を誤魔化すような状況とは思えない。それどころかレヴリを倒した結果を自分のモノにするなんて貴女らしくもないしね」


「その、それは……私にも戦う理由があると返したら、教えてって言われました」


「理由を?」


「はい」


「希少な念動を持つ杠さんの戦う理由ですか。僕も聞きたいですね!」


「陽咲、答えたの? 正直に?」


 三葉は陽咲の姉である千春を当然に知っているし、行方不明になった事も分かっている。戦う理由も、心の拠り所も千春なのだ。叔母である三葉からみても千春は強くて賢い素晴らしい女性だった。異能はまだ調べていなかったが、陽咲を超える力を得たとしても何の不思議もない……それ程の傑物だったのだ。つまり、かなり個人的な話になってしまう。


「答えました」


「あの……理由」


 花畑が何か呟いているが、二人は当然に無視だ。


「そう」


 陽咲と三葉はあの美しく大人びた千春を思い出していた。時間は止まったままで、今も大学に通う学生。成長などしない。


「天使が姿を隠す理由はよく分からないけど……陽咲が報告を怠ったのがその理由? やっぱりしっくりこない」


 当然だ。まだ理由が隠れている。


「わ、わたし、私の……」


 三葉の眉がピクリと上がり、直ぐに元に戻る。まだ陽咲は伝えたい事があり、そして言いづらいのだろう。それは誰の目にも明らかだった。


「……少し休憩しませんか? 僕コーヒーが飲みたいです」


 花畑の居たテーブルには冷めたとは言えコーヒーは残っている。彼なりの気遣いだった。


「いいの? 花畑にしては珍しい」


「後で必要な情報は聞かせてくれるのでしょう? 三葉司令の事は信頼していますから」


 そう言い残し、残り三人も引き連れて花畑は去っていった。















 新たなコーヒーを二つ用意し少しだけ息をつく。三葉は徐にでっかいスプーンでコーヒーミルクをドバッドバッと入れ、更に角砂糖を一つ、二つ、三つと次々に落としていく。もし四つ目を指に摘むつもりなら、念動で弾き飛ばしたかもしれない陽咲だったが、どうやら我慢した様だ。


 クルクルと混ぜると最早コーヒーとは思えない香りと色だが、三葉はウンウンと満足気だった。ふと動かない陽咲に気付いたのか、顔を上げる。


「飲まないの?」


「頂きます」


 飲む前から胸焼けした陽咲だったが、手元のカップには褐色の液体が入っていて何故かホッとした。


「ふぅ……美味し。さてと陽咲、何なの?」


 一口だけ濃い目のブラックを喉に通し、陽咲もカップを置く。そしてジッと揺れる液面を眺めて暫く沈黙した。三葉も特に急かしたりしてない。


「本当に不思議な話なんですが」


「うん」


「あの子、天使は私の名前を知ってました」


「名前を?」


「はい。苗字も名前も両方とも。(あかなし)は珍しい苗字ですから知っていた筈です」


「詳しく話しなさい」


「いきなり尋ねてきたんです。杠陽咲か、と」


「……それで?」


「その後は怪我の有無、お茶をくれて、怒られて……私は理由を答えました。私の支え、憧れで大切なお姉ちゃんを探していると。そうしたら今度はお姉ちゃんの名前を教えてって」


「千春の名前を? 何故」


「私は答えました。するとあの子は」


「あの子は?」


 陽咲は何かを思い出したのか、悲しみを湛え一瞬口を閉じた。そうして視線を上げて三葉を見る。


「涙を、一筋の涙を流して……噛み締めるようにお姉ちゃんの名前を呟いたんです」


 三葉は両腕を組み、無言で天井を見上げる。暫くは沈黙が支配した。そしてコーヒー擬きをゴクゴクと飲み干し、漸く視線を陽咲に合わせた。


「天使の目的はソレ? 陽咲が陽咲である事を確認していた……千春が鍵……ならば今までの天使の行動の動機は貴女になる。その後はどうしたの?」


「お姉ちゃんを知ってるなら教えて欲しくて肩を掴もうとしたら、逃げられて……凄く分かり易い拒絶でした。後は、近づく部隊の存在を教えてくれたと思ったら姿は消えて」


「陽咲の安全を確認した訳か」


「周囲の脅威は取り除いたって言ってました」


「まるで守護者(ガーディアン)ね。小さな、女の子の」


「でも……あんな子は知らないし、お姉ちゃんの友達にしても年齢が違いすぎて。お姉ちゃんの知り合いなら私も殆ど分かるから」


 陽咲の酷いシスコン具合に三葉は少し引いたが、努めて考えない事にした。そして思考を深めていく。


「……過去半年間の天使の動向をもう一度洗いましょう。共通点が見つかったかもしれないわ。それに半年前なら……陽咲、貴女が()()()()した頃ね」


 異能者、特に力の強い異能者は世間に宣伝する事がある。異界汚染地(ポリューションランド)の脅威を薄める為に、そして戦意高揚の為に。陽咲は将来有望な異能者として名簿に掲載されたのだ。しかし、()()()()()()()()()()()()()()


「……それに何か意味があるんですか?」


「直ぐに分かるわ。お花畑‼︎ 入って来なさい!」


 待機していているのが分かるのか、三葉は躊躇なく声を上げた。そしてドアは直ぐに開いた。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ