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ショート 【お題:君の影を編む】

作者: 松木 真誠

明るい青空の下、公園には車イスに座った男とそれを押して歩く女がいた。

二人とも顔がどこかあどけなさを残しており、社会に出たばかりのようだ。

のんびりと散歩をしながら、なにかを見つけては会話を楽しむ様子が伺える。

男にはがっしりと筋肉がついており、とても自分で歩けないとは思わせないような体なのだが、それでも車イスを押されながら話すその顔は間違いなく全幅の信頼を女性に預けていた。


彼がこうなってしまったのは一年前の冬、彼は所属していた部活の大会の当日、いつもかけていたはずのアラームが鳴らず、親は外出しており起こしてもらえず、とても慌てていた。

そのため普段はなんてことないような家の前の道が凍りついていることも気付かず、踏ん張りがきかず車道へ飛び出してしまったのだ。

運悪くそこを車に轢かれる形になってしまい、病院へと搬送された。

そのときに真っ先に駆けつけてくれたのが、部活のマネージャーであり、その病院の院長の娘でもあった彼女であった。

大会のことは二人いる他のマネージャーに預け、慌ててきたとのことだ。

娘の知り合いと言うことで院長じきじきの診察を受け、くだされた診断は下半身不随。

結果として部活はやめることになった。主力だったこともあり部員にもマネージャーたちにも泣かれた。

そんななかで自分が面倒を見ると告白し、実際に院長にごり押して彼女が病院に泊まり込んだことがこの生活の始まりだった。

本人はずっと、あの日私がもっと早く君が遅刻していることに気づけばこんなことにならなかったから。というのを理由にしている。

しかし、男はいざこういう生活をしてみると面倒みられっぱなしの生活は嫌だ、と何度か病院を抜け出したりしていた。

だがその度に何故か彼女に真っ先に見つかってしまうのだ。すべてお見通しだと言われる。

それを何度も繰り返してるうちに、そういう彼女の笑顔が愛らしく感じたときに、男から告白しいまに至る。

思い返してみれば、この生活を手に入れたと思えばあの経験も悪くなかったかもしれない、そう彼女と話すこともある。

しかし、未だにわからないことがひとつある。轢き逃げだと告げられ、犯人は見つからなかったあの日、誰が一体救急車を呼んだのか。

あの日は親も帰らず、周りの家に聞いても呼んでいないとのことだった。

公園を散歩しているときにもふと考え込んでしまい、彼女に心配される。

そのときに思わず聞いてしまったのだ。

「君の家の病院なら誰が救急車を呼んだのか。もしかしたらわかるかもしれない」

それを聞いたときの彼女の怒りとも、悲しみともとれない表情は恐らく一生忘れないだろう。

家を利用するような発言で機嫌を損ねてしまったと思い、ご機嫌とりに走る。

「いまの君は俺の光なんだ。そんな顔をしないでくれ。」

彼女はたちまち笑顔に戻り、散歩は再開された。

その夜、彼女から告白とも取れるような言葉を送られた。

「貴方はずっと私の光だったの、私は貴方の影になってずっと側にいたいと思ってしまった。でも、部活にいたときの貴方はみんなのヒーロー。私のものじゃないの。

でも、こうなって貴方は私を光といってくれた。

だから、私、あの日の選択は間違いじゃないってそう思えたの。光の貴方の側にこうして立てて、私は貴方の影を編み続けるのよ。」

そういった彼女の顔はいままでになく晴れ晴れとしていた。

俺は一生あの日の彼女の選択に感謝し続けるだろう。何故なら下半身不随という地獄から自分を救ってくれたのだから。

これからこんな感じであちこちでいただいたお題で軽く一本ずつでリハビリします

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