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独りと一人は  作者: ライト
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嘘吐きのフィロソフィ

「内面はともかくとして、外に見える部分だけなら全体的に高水準なスペックを持っていたのであろう夕奈だったが、色恋沙汰はどうだったのかと言えば、ここまで辿ってきた中学校生活終了まではそれらしきものは無かった。ただし、継続的な、と言う話で。」


恋、未だによくわからないな。


「やはりと言うか、何というか、その。やはり、思春期頃の中高生ともなると、ピンクな感情に染まりやすいのはその通りであって、その中で、学力もまぁ良く、運動もこなし、素行もおそらくは良く、人当たりも良かったのであろう、と言うところで……」


回りくどい、なんて言ったら夕真に怒られちゃうかな、怒らないだろうけど、いつも私に丁寧に喋ってくれる夕真だけれど今は、言い淀んでいるというのが正確だった。


「特筆すべきは、さらに磨きのかかったであろう、その容姿、だったように思う……」


夕真ったら、そんなに褒めたら照れちゃう。てれ。


こういうあざといアピールも時には必要だった。それより、夕真、大丈夫?喋りにくそう。


「死ぬかもしれない夕奈に気を使わせる俺はなんなんだ。分かっていて聞いてるんだろうが、恥ずかしいのだ。流石に憚られる。」


まあ、たしかにまともだったら多分恥ずかしい。まともだったら。


「ふう…しかし、こういう話題の度にこんな小っ恥ずかしい真似はもういいだろう。いちいち気にしてはいられん。客観的な視点に基づいて、あくまで平等な目線での俺の言い方を使わせてもらうからな。」


私は、それでも恥ずかしがる夕真にどうぞ、とアシストする。


「要約すると、夕奈はなんでも出来て器量好しだったので言い寄られた経験は何度かあったのだ。ここからは少し不思議な事が続く。」


なんだったかな。


「夕奈は高校二年になるまでに7人の人物に言い寄られた。中学で2回、高校で5回。デートして欲しいだの付き合って欲しいだのアプローチは様々であったがそれに対して夕奈はというと、決まって賭けを持ちかけた。コイントスを行い。表が出たら誘いを受け、裏が出たら断るというごく単純なものだ。」


それか、相手の名前はもちろん、って言うまでもないかな。


「死の瀬戸際にあっては、そんな事覚えておく必要もない、か。」


そういうことに、していい、よ。


「確率は50%、コインに細工などなく通常のもの。夕奈自身、内心どちらでもいいと思っていたはずだ。付き合うなら付き合い、無理が出たならやめれば良い程度のものだっただろう。」


私は、そう、かも、ね。

そうやって話されると、なかなか嫌な人物だった。


「だが少し擁護させてもらうならば、それは夕奈にとっての「平等」であったのだ。もちろんどちらでもいいという側面が無かったとは言わないが、表が出たならば夕奈は自分なりの精一杯で付き合う腹づもりでいた。自分のために気持ちを込めてくれた相手の気持ちは十分に感じていた。」


私に惹かれるなんて、人を見る目はない、と思う、な。


「夕奈目線ではそうだとしても、彼らの目に映る夕奈は、そこまで行動させるほどの魅力を持った女の子だったという事だろう。」


今の私には、自分が他人によく映ろうが、悪く映ろうが結局は悲しいだけだった。


「相手の好意、自分もそういう経験をしてみたいという好奇心、ほんの少しの恐れの気持ち、そういうものを全部考慮した結果、夕奈は自分自身で決められなかった。相手の気持ちを優先したら自分にとって平等ではない。かと言って断るのも相手に平等ではない。されど絶対に付き合いたくないわけではないという、現在のややこしい夕奈の考え方の根のようなものだ。」


私は、どっちになっても相手を傷つけたくない、と動く、かな?


「ゲーム混じりに返答し、後腐れない関係になれるような立ち回りという意味もあったのだと考えている。如何に感情が混じろうともコインは常に50%という確率を与える。」


私が一方的に権利を持つのは少し不公平も否めなかったかもしれない。そんな考えを持つのがおかしいのは、今は分かっていなくもない。恋愛とはまぁそういうもの。結構どちらかが気を使わせてしまうもの。私も、そうだったな。


「ところが、もし恋愛の神様がいるならば、そんな気持ちで恋愛に臨むなと言わんばかりに、コインの目は裏を示し続けた。7回連続裏が続くことになる。確率で言ったら結構薄い。相手にとってはやんわりと断られた体に話を持って行ったので、コインに細工をしていた、などと言う疑問などを抱かせることにはならなかった。内心驚くは夕奈のみだ。続けば続くほど不可解であった。平等の為の方法をとったはずが、平等に程遠い結果が叩き出される。まあ、それは実際には、確率のいたずらに過ぎなかったことが13年前の6月に示される。」


優くん、だ、ね。


「夕奈が、今現在でもその名を忘れていない数少ない人物、身内以外では、おそらく唯一。渡瀬優。その人だった。」


優くん。だけ、特別扱い、は、平等じゃ、ない、かな?

自虐的に乾いた笑いを交えて私は口を動かした。


「進んだ高校は、今はどうだが知らないが当時でも最高レベルの進学実績を持つ進学校。そこでの入学試験で最高得点を出して入学した夕奈が再び生徒会の門をくぐることになるのは半ばお決まりのルートだった。」


私が入ったときは、生徒会なんて、勉強時間を割く、面倒なことを押し付けられる誰も早々やりたがる人がいないものだったけれど。


「中学校ぐらいでは各々の能力にそこまでの差はあまり出ない。だからこそ生徒会会長を務めたという肩書は仕事量に合わない評価を与えてくれる割のいいものだった。ところが高校になると闘いの場は日本全国規模に広がり、勉強において優秀な成績を収める者、スポーツにおいて優秀な成績を修める者。それらの差は甚大に広がりを見せる。そんななか生徒会役員など、当人がその肩書に見合った能力を有していなければただのお飾りと化す。むしろマイナスに働くまであるかもしれない。実際にその時間を自らのやりたいことに充てる方がいいと考える人はこの高校においては99%だったろうと想像に難くない。」


それならそれで、みんなは自分の目標に頑張れるし、私には目標がないから、それをやることのデメリットは少なかったし、みんなが平均的に平等になれる。か、な?


「お前はそういうやつだ、自分から始めたわけではなかったが、当時の生徒会長に誘われ、そのまま生徒会に加わり、やることは中学の時と変わらぬ、与えられた仕事をこなし、生徒からの要望に全力で応対する。その合間で勉強や運動も周りに後れを取らないようにこなすなど、普通ならそんな生活とても保てはしない。夕奈自身、少し、そうして自分に限界が来ることを願っていたような節もあった。ところが、そこでも夕奈は、成功し続けてしまう。あまりの優秀さに周りからも嫉妬の感情すら湧くことなく、ただただ尊敬や憧れの対象になるばかりで、その年の後半には1年生にして生徒会会長を務めることになる。」


思えば、目標がなかった分、私は、他のみんなより余力があっただけなのかもしれない。みんなはそれほど一生懸命に何かを追っていたのだ。私は。


「そんな順風満帆な生活を送りながら、夕奈は2年生になり、遂に、渡瀬優との邂逅を果たすことになる。渡瀬優は、その年の新入生だった。桜の季節もやや過ぎた頃、新たな生徒会役員の一員を選出することになるのだが、渡瀬優はその立候補者の内の一人だった。それからしばらくして、渡瀬優は生徒会役員の一員に加わることになる。」


優くんは、私に似ていた、って思ってる。でも私と違って夢はあった。


「渡瀬優について少し語ると、進学校に進むだけあり、学力は高く、運動は普通程度にこなし、背は年頃の男子にしてはやや低く当時の夕奈より少し低いぐらいだった。夕奈が周りよりもちょっと高めだったからべらぼうに低かったわけではないことは言っておく。あどけなさの残る顔でカッコいいよりは可愛いという言葉が似合う、何より特筆すべきは、ひたむきな一生懸命さと、優しさにあった。」


それは私みたいな人付き合いの上手さを持っているのと同じことだった。だけど、私のそれは、私の為のそれだった。周りとうまくやることで自分の理に繋げようとする打算的なもの。それがここに至るまで誰にも露見することが無かったのは、自分の努力よりも、運の側面が大部分を占める。そんな不安定なくだらないもの。優くんは、そうじゃない。本当に、自分も大切にして、周りも同じくらい大切にしようとしていた。


「生徒会に入った渡瀬優は、精力的に活動を行っていた。周りからは入学当時の夕奈を思わせるほどの評価を得ていた。そんな彼だが、別段、夕奈は特別視する事もなかった。その頑張りや結果には心で相応の評価をしながらも、だからと言ってそれ以上とはならなかった。近くに居るから頑張りをよく知ることができる。だけど近くに居ない人たちだって努力をしている。だから過剰に評価することは平等にならない。」


それは私自身にだってもちろん言えること。私に与えられている評価があまりにも度を過ぎているものだという事は重々承知していた。私の内面を可視化することができたならば、そんな評価は塵と消えて吹き飛んでしまうだろう。


「夕奈は、自分の内面を周りに知らしめようとも思ったことがある。内に潜む悪をひた隠している事に申し訳なさと自分自信を許せない心がそうさせようとした。」


楽になりたかった、だけ。


「だが、それが、誰に、何の利益をもたらすのか。夕奈がいかに捻くれ、歪んでしまった心の持ち主だろうと、それを明かす事は自分が満足する以上の利益なんて、ほとんど得られない。ならば、偽り続ける事の方が、その辛さに見合う対価を得られる。理想の平等とは、言わば、皆が幸せになるようなものに繋がってほしいという考えだった。自分をさらけ出し、自分を貶めて、それを見下して得られる幸せなどより、最低な自分だとしても、偽りでも、それを信じてくれることで皆がそれぞれの未来に向かうための活力になるならば、そちらを貫きたいと思った。それが自分の生き方だと夕奈は悟ったのだ。」


おじいちゃんのいなくなってしまったあの日、私の心は、死に目に会えなかった悲しさと、嘘をついてしまったことへの後悔と、そして、自分の嘘が、他人の認識を捻じ曲げ、真実を変えてしまえたことへの支配感に満たされていた。その時に知った。私には、語った嘘を真実に捻じ曲げてしまう力が、宿っていた。そしてそれをたまらなく心地よく思ってしまっている、自分が確かにいたこと。


「それこそが夕奈が最も自らを嫌悪する要素だった。そして夕奈は自らの理を優先して行動する。大げさに言えば自分の思い通りに周りを動かしてしまうことになるのだ。夕奈にとって、周りの人間は自分の為にいるのだ、と。そんな感情はいつでも夕奈の心の奥底にひっそりと笑いながら存在していた。」


なんでも出来てしまうほど周りに与える影響力も大きくなっている、気がした。


「そんな自分を律するためのルールこそが「平等」という指針だった。自らの理は優先するが、それに関わる人間にも平等に利が発生するような考え方をすることで少しでも心に潜む汚い感情から逃げたかったのだ。」


たくさん、失敗して、たくさん、転んでしまいたかった。そう思う、な。


「そんな自分自身の葛藤と戦いながら矢先の事、渡瀬優は、朝奈夕奈に、告白したのだ。13年前6月6日の事である。」

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