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独りと一人は  作者: ライト
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ふたりとふたり

さて、とりあえずコーヒーを優くんに出してみた。お茶の方が良かったかな……でも、とりあえずこれで行くと決めたんだもの。


こ、こういうのは、どっちから、話したらいいのか、まいっちゃう……


「夕奈先輩、なんだか、昔と同じですね。」


え、え?少しはにかみながら優くんは先に会話を始めてくれた。ああもう、優しいなあ!


そう、見える?


「すごく、綺麗になりましたけど、中身はなんだか昔みたいだなって。」


あー……一言一言胸にクる。


それを言うなら、優くんも、カッコよく、なったよ?


「そんなこと、ないですよ。でも、嬉しい、です。そう思ってもらえて。」


……こんな少ないやり取りだけでオーバーヒート。私今顔真っ赤じゃない?勢いに任せて核心突いちゃった方がいっそ……いやいや、そんな勇気無い!


優くん、テレビ、見たよ。その、おめでとう。


「ありがとうございます。とても遅くなっちゃったけど、でも、やっと納得のいく結果が出せたって思います。」


テレビ越しだけど、すごく綺麗な景色の絵だったね。


「夕奈先輩は、憶えてますか?」


やっぱり、あの絵の景色、昔一緒に行った?


「はい、新しい何かを描こうとするとき、いつも夕奈先輩と一緒に過ごした時間が鮮やかに自分の中に浮かび上がるんです。そんな絵をずっと描き続けてました。」


……そうなんだ。不思議、だね。


「いえ、不思議じゃ、ないです。それだけ、夕奈先輩と一緒に居た時間が、僕にかけがえないものを与えてくれたんです。ここまで頑張れたのは、夕奈先輩の、おかげです。」


本人を目の前にすると流石に、優くんに……申し訳ない。頑張ったのは、優くんだもの。私は……何にもしてないのに……後ろめたさが募る。


私なんて、全然力になってあげられなかったもの、優くんが頑張ったんだよ。


「ううん、先輩が、ずっと傍に居てくれている、そう思って頑張ってこれたんですよ?」


私が、傍に?


「僕から見た先輩は当時からなんでも出来て、みんなに慕われるすごい人でした。もちろんそこにはたくさんの努力があるのも知ってました。それを見せないようにしてるのも。だから僕はたまに思ってたんです。自分が近くに居ることで、夕奈先輩の時間を奪ってしまってるんじゃないかって。夕奈先輩のやらなくちゃいけない事の邪魔をしちゃってるんじゃないかって。自信なかったんです。でも、なんでもいいから、夕奈先輩の力になれればってずっと思っていました。」


優くん……それは、私の方だって、そうだよ。全く同じだよ。



「学園祭の日、僕は、結果はどっちにしても転校しなくちゃいけない事を伝える事、どうしても出来なくて

……どんな伝え方をしても、夕奈先輩が悲しむような言葉しか、僕には浮かばなくて……駄目ですね、本当に。」


そんなこと、ないよ。たくさん、考えてくれたんだよね。分かるよ。


「もし、あの絵が、最優秀賞をとって、成功したら、自分にも夕奈先輩を支えられる自身を持てるかもしれない、そして、その、伝えたいことがあったんです。でも、結局、僕にはまだ夕奈先輩を支えられるような力は無くて、あんな形で、別れることになってしまって、先輩を傷つけてしまって……自分が悔しかったです……」


……私は、自分を勝手に傷つけてしまっていた、優くんは、自分を傷つけていた。私を傷つけた優くん自身を。でも、私は、優くんに傷つけられてなんかいない。それは、私が一番分かっている。私を悲しませないために、優くんは努力してくれたんだね。その優しさが、とにかく嬉しい。優くん。


「だから、もし、次逢うとき、その時には、絶対に夕奈先輩を支えられるような強いものを持った自分で逢いたいって思ってました。」


だから、連絡を……?


「はい、それに、夕奈先輩には夕奈先輩の道があって、それは、みんなを導いていく素晴らしい道だと思いました。だから、きっと僕が一生懸命頑張った先にはきっと夕奈先輩もいるんだって思ってました。」


本当に、真っ直ぐ。眩しいぐらい。


「だから僕は高校を卒業して、大学を出た後、海外へ行きました。もっと、もっと、夕奈先輩みたいな高みを目指すために。」


すごく、頑張ったんだね。それがどれだけの挑戦でどれだけ覚悟がいる事だか、私にだってわかる。


「辛いこともたくさんありました、でも、どんな時でも、夕奈先輩が、助けてくれたんですよ。」


……私が?


「海外に居ても、夕奈先輩の事を忘れたことなかったです。夕奈先輩が、日本で頑張ってること、そして、今や社長だなんて。本当に凄くて、夕奈先輩もあの頃と変わらず頑張ってるんだって思ったら、僕も負けられないって、そう思って頑張れたんです。」


私は……何の目標も無く、ただ、頑張ってきた。そんなもの、私にとっては無価値だった。


無価値の……はずだった……のに……


優……くん……


私は、とうとう、涙を隠せなかった。


それは、何の夢も希望もなくただ生きてきた私の行動の中で初めて生まれた、喜びの涙に他ならなかった。

何の価値もないと思っていた事が、優くんの夢の、手助けになっていたならば……もちろん、そんなものは1%に満たないものかもしれない。頑張ったのは優くん本人なのだから。分かっている。分かっているけど……でもそれでも、本人の口からそれを言われて私は、もう感極まってしまう。その時ばかりは、申し訳ないという想いはなく、ひたすらに喜びと感謝の感情に満たされていた。


「泣かせちゃって、すいません……夕奈先輩!そ、その、僕、今日は、あの日、伝えられなかったことを、伝えたくて、来たんです!」


涙をぬぐいながら、私は優くんに答えかける。


え……?あの、日?


「学園祭の日、本当に伝えたかったこと、です。」


もし、最優秀賞を取っていたら、言おうとしていた事……?


「はい、ずっと、ずっと、言いたかった、事、です。こんなに遅くなってしまって、もしかしたら、もう間に合わないかもしれないんですけど……でも、言うって、決めてここに来ました。だから、聞いて、くれませんか?」


うん……何……?


私は、少し、泣き静まってきて、そして彼の言葉を、聞かせてもらった。


「夕奈先輩、ずっと、ずっと、好きでした!今までも、これからも、ずっと好きです!だから、これからもずっと一緒に、居てください!夕奈先輩の事、隣で、支えさせてください!」


……へ……?それ、って?


「僕と……………」


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


「結婚……して、ください。」


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


・・・・・・・・・


優くんは……私を何回、泣かせるの……そんなに泣かせるなんて……ズルいよ……


優、くん……これからも一緒に、私と一緒に、居て……くれる?


「一緒に、居てほしいです。ずっと、ずっと。」


うん……一緒に、居てほしい、優くん……


優くんは、私を、抱きしめた。なんだか、もう、何も考えられないのは、さっきと同じだけれど、こんなに幸せな気持ちで満たされてるのは……こんなに暖かい大切な人が、傍に居るから。


私は、再び、涙を溢れさせながら、彼の、プロポーズを、受けた。


・・・・・・・・・





「夕奈……先輩……」


優くん、もっと、抱きしめてて?


「はい……」


私は、甘えに甘えモードに入ってしまった。急転直下、あまりにも唐突に事が起こりすぎて、しかしそんなトラブルなんてどうでもいいくらい、今は幸せな時間だった。


「こんなに遅くなっちゃって、すいません……正直、もう、誰か、他に大切な人が出来てるんじゃないかって、思ったりもしちゃいました。でも、どんな結果になったとしても、これだけは言おうと思ってたんです。」


私からすれば、そんな相手は優くんを置いて他に居なかったけど、優くんからしたらそうだね。十何年も連絡取ってなかったもんね……でも、そんな相手にいきなり逢うたびプロポーズなんて……たまに大胆なんだから。


「ごめんなさい。でも、やっと、自分に自信が持てたんです。」


あの賞を取れたこと?


「はい、自分の目標を達成するために努力する。そんな、一人前の自分にやっとなれた、そして、先輩の助けになれる自分になれたって、やっと思えたんです。そうしたら、居てもたってもいられなくて、逢うまで、ずっとドキドキしてました。」


私も……何話したらって、こんなに時間経っちゃってるから、優くん、優しいし、誰かともう一緒になっちゃってるかもって思ったり……でも、もし、私の事、まだ想っててくれたりしたらって、思ってたら……優くんは、私なんかの事、ずっと覚えてくれてて、私も、自分のやってたことが少しでも優くんの力になってたなんて、本当にうれしくて……今日は嬉しくて、泣きっぱなしで……まいっちゃったな。


「夕奈先輩、これからは、ずっと、ずっと一緒です。」


……うん。いっしょ。


・・・・・・・・・


……大胆と言えば、じゃあ、学園祭で、私に結婚申し込むつもりだったの?


「え、えっと。流石にその時は、結婚を前提におつきあいを……って言おうと思っていたんです……まだ学生だったし……」


ふふ、そうだよね。


優くん?


「はい?なんでしょう夕奈先輩?」


その……夕奈……って、呼んで欲しい……な?

私はほんの少し冷静さを取り戻し、上目づかいで優くんに要求してみる。


「……ゆ、夕奈……先輩……」


もう~……


「あはは……やっぱり、夕奈先輩は夕奈先輩が一番しっくりくるっていうか……」


むぅ……なんとなく分かるけど~、私も優くんの事呼び捨てにはなかなか出来ないだろうし~……じゃあ、今度ね?


私はそう言って、また優くんに体を預けて後ろから抱きしめられるのを続ける。あー、暖かい。本当に、幸せだな……


「……夕奈……」


え……?耳元で、囁くように、それは、優くんの声、だった。全身が、蕩けるような、甘い、声。優くんが私をもっと強く抱きしめる。


私は……彼に、身を、委ねた。


・・・・・・・・・
















「それからしばらくして、夕奈と渡瀬優が結婚に至るっていうのはまあ語るほどの事でもないな。まあ、素直に嬉しい事だ。色々あったが、一番いいところに収まった。と、思う。夕奈自身には、もう、抱える闇もない。全部、渡瀬優が、支えてくれるだろう。」


「それで、いいんじゃないですか~?」


「……夕奈に問題が無くなった。そうしたら、俺に問題が現れた。お前という。」


「……もう少しだけ、この物語、続けます~?」


間延びした口調で、女は問いかける。


「俺は言わば、実際には存在しない人物。そんな人物に付き合うことが出来るのは、産み出した夕奈だけのはずだ。じゃあ、お前は、誰なんだ?渡瀬優と一緒に現れたお前は、一体誰なんだ?」


「二人で、お話ししましょう~?そうすれば、きっと、答えは分かると思いますよ~?」


ここにきて、俺は最後の詰めに差し掛かっていた。それは、夕奈自身にではなく、まさかの俺自身にかかわる問題となるのであった。

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