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独りと一人は  作者: ライト
15/18

今日が終わって

夕奈の意識が現実に戻ってくる。ずいぶん長い事一人で、いや、二人で話していた気がする。事実朝だったはずなのにもう夕方だ。


夕奈は一息をついて天井を仰ぐ。死ぬことを決意していた気持ちは確かにそこにあったが、今となってはふわふわとどこかを漂っている。かと言って、何をどうしようという気も浮かばない。ただボーっとしているだけだ。


その様を夕真はじーっと見ていた。というか現在進行形で見続けている。


明日は、8月21日、月曜日。本当はもう死んでいるはずだったのだし。仕事なんていくつもりなかったのだから、何にも考えていなかった。これでもひとたび外に出れば社長である。


もうすぐ、今日、終わっちゃうな。


流石にこの気持ちで死ぬのは、なんの意味もない。私の気持ちは夕真によって解きほぐされてしまった。


とりあえずアイスでも食べよう。庶民的なスイカバーがたくさん冷蔵庫に入っている。庶民的って、ちょっと平等じゃない。上から目線だ。


・・・・・・・・・


少しお風呂で長湯してから夕食を食べて、今日で通算3本目のスイカバーに手を伸ばす。あーおいし。


いいのかな、これで。……決めたんだもの。いいの。


夕真みたいに、図々しく生きるんだから。


「誰が図々しいんだ。大体夕奈はもともと図々しいんだ。」


ありゃ、流石に夕真の口が出てしまった。ふふ。夕真は、実はいつもはあまりしゃべらない。夕真がしゃべってくれるのは、私が、悩みに悩んだとき、とか、今みたいなときとか。いつもしゃべりっぱなしなわけじゃない。私には都合のいい……ううん、私にとっては、かけがえのない大切な、人。


夕真、本当に、ありがとう、ね。


「都合のいい人で結構だがな。それに、お前自身なんだから。夕奈は自己愛が強いのだな。」


言いたいこと言ってる。でもね、それでもやっぱり、夕真は私とは違うって思うんだ。私なんだけど。私は、自分じゃない自分を願って、そうして夕真が生まれたと思うの。だから、夕真は私とは違うもっと大切な事を教えてくれる人なんだ。


「……まあ、そうだな。それで夕奈が良いと思うなら、俺はそれでいいさ。」


あれ?少し照れてる?


「そういえば朝、携帯に連絡が入っていたと思ったが。」


有紀からだ。そういえば返信してない。死ぬつもりだったから。


「屋上の子だよな。名前、憶えてるじゃないか……」


さっきまでは、もう必要ないから、忘れてた。でも、これからは、必要だから。頭に戻ってきた。


「どんな頭だよ。やっぱり図々しい。」


明後日の夜一緒にご飯、か。もちろん行く、っと。


「明日の予定は?社長殿?」


んー、死ぬつもりだったから。後釜の人に、いろいろそれとなく引き継ぎしておいたから、私がそんなに張り切らなくてもいいっちゃいいんだよね。


「死んだら死んだで、みんな悲しむぞ。葬式代とか。」


そっち……?それは悲しい。


「俺も、悲しむ。」


……そうだよね。ありがとう。


夢、か。夢、まだ、見つからないけど、とりあえず行けるところまで行ってそれから、かな。


「そうか、今まで通りだが、それで大丈夫なのか?」


ここまで転ばずに来ちゃったからね。いつ転ぶのか、流石にそろそろ転びそうな気もするなぁ。


「夕奈、本当は、自分の事、否定してほしかったんだろう?」


……うん。たぶん。


「間違ってるって、言ってほしかったんだな。」


嘘ばかりついているのに、そんな成功し続けるの、本当は違う。そんな人間が、人の上に立つのは、本当は違う。人の上に立つことは、みんなの未来を担う事。そんな大事なこと、私がやっちゃいけなかった。だから、どこかで転びたかった。上になればなるほど、転んだときに、多くの人を巻き込んでしまう。それは本当に怖い事だった。


「優しいんじゃないか。」


でも、それでも転ばないように、頑張らないと。


「お前は今までそうやって努力してきた。大丈夫だ。辛かったら俺がいる。」


夕真、うん。私には夕真がいるから、大丈夫。


さて、とりあえず社長になって、もう何にもないかと思ってたけど、まだ日本支社だもんね。本社のトップをまずは目指してみようかな。流石に時間かかるだろうなぁ。7年で社長だから二倍かかるとして44歳。そこから更に世界中の会社のトップになるとしたら、その2倍で28年。72才!?うーん……流石に厳しいなぁ。一生かかっちゃう。それまでに夢、見つかるといいなぁ。


「夕奈よ……どこまで本気なんだ……」


呆れてる。


全部本気だよ。本気で嘘ついてここまで来ちゃったんだもの。だからこれからもずっと嘘。


「人にとっては、それが十分夢であったり目標だったりすると思うんだがな。」


夢とか、そういうのは、また何か違う、ものなんだよ。


優くんが描いていた景色みたいに、周りも自分も、キラキラするような。そんなものが夢、なんだよ。


「周りも自分も、か」


一つ、一つだけ、決めた。かも。


「目標か?」


うん、優くんに逢いたい。


「逢って、どうする?」


その時、考えようかな。


「夕奈にしては、計画性がないな。」


優くんの前だと、考えてたこと、全部とんでっちゃうんだもん。


「夕奈。」


なに?


「辛い、か。まだ。」


……


「俺がこうして話してるってことは、そういう事だな。」


……すぐは、無理、だね。簡単じゃないね。


けど、大丈夫。大丈夫だから。


「……ああ、分かった。信じよう。」


うん。だから夕真、今度からは、たくさんしゃべって?


「俺は俺の話したいタイミングで話す。」


なんで~……?


「なんでもだ。」


ちぇ。ふふふ、夕真、ありがとう。


私は、ベッドに横になる。本当は、今までの事、全部まっさらにして進みたい。でも、やっぱりそんな器用じゃない。それにまっさらにしたら、平等じゃない。苦しくても、受け入れて、生きていこう。私の事を一人でも、想っていてくれている限り。夕真が居てくれる限り。私は生きていこう。


・・・・・・・・・


そんなこんなで一人で勝手に始まった自殺衝動は一人で幕を閉じた。終わってみれば、誰の目から見てもどうという事はないものだったろう。夕真の言う通り。それでも、私にとっては、今でも、無視できない大きなものだ。割り切れはしない。でも、とりあえず、それはいいかな。


今の私は、更に上の地位を求めて努力を重ねなければならない。嘘をつき続ける私にとってそれは義務だ。そうでなくては平等じゃない。自分の過去を嘆き悩むことは、周りへのメリットにならない。なら、私は努力を続けよう。悩む時間すら努力に繋げよう。


平等という言葉を都合よく使っているけど、それでいい。夕真だって、それでいいって言ってくれる。


夕真に頼り切っている私だけど、自立するつもりはない。それぐらいズルくても、いいよね。


私の一大決心の後、周りからの私への目は変わってはいない。あんなに苦しんでたのにな。ふふ。


じゃあそれだけ私はやっぱりうまく嘘をつけていたのだ。周りに悟られない程度には。よし、これからもこの調子だ。誰からも理解されないのではなく、誰からも理解させないのだ。はっはっは。


「うーん……常々思うんだが、なんで、これで頭良いんだ。」


頭が良いんじゃないよ。ただ、学力だけ、じゃない?大切なのって、もっと他のところだもの。


「ま、バカじゃこんな地位にはなれない、か。」


夕真が言ってるからごまかしてるけど、私って、ナルシスト?


「だいぶな、自意識高いだろう?」


やっぱり?まあ、あと、美人だから。てへ。


「いっそその内面ぶちまけてみろ。ドン引きだから。」


流石にそんな分かり切ってることできないよ。それに、誰の得にも、ならないでしょ。


学力だけは高くて、容姿もそこそこ整ってる、なら、その人ができることを私は務めなくちゃいけないんだよ。それが、平等。与えられた人間は、与える側の人間にならなくちゃ。そこに胡坐をかくのは傲慢。


「そう、かもな。」


私はまだまだ、上に上がり続けなくちゃいけない。たとえその頂が見えなくても。


「夕奈、今日、帰ったら、話がある。」


え?何?俺、消えるんだ……とかじゃないよね?


「俺の意志で消えられないだろうが。違う。」


分かった。今日、ね。


私は、分かってた。いつ、見ようかと思ってはいた。今日、か。


・・・・・・・・・


愛しのマイルームにご到着~。アイス~。


「うむ、やっぱりアイスはうまい。」


暑い時に食べるアイスも寒い時に食べるアイスも乙ですな。


「夕奈。」


……うん、手紙。だよね。


私の記憶から抜け落ちていた。手紙。優くんが最後に手渡してくれたものだ。


どこに、あるの?


残念ながら、私の記憶は復元されたというより認識が変わっただけなので、手紙をどうしたかはもう夕真しかわからない。捨てた。とかないよね。


「机の一番下の引き出しの中の緑色のファイルの中だ。」


私は、ファイルをめくっていく。そこに、手紙らしきものが、あった。


「それだ。内容は今から俺も初めてだ。」


優くん、何を書いてくれたんだろう。優くんは、もし最優秀賞をとっていたら何を言おうとしてくれていたんだろう。ここに、その答えが、少しでも書いてあるのだろうか。


「読むか?」


うん、読む。


私は、13年前の記憶に、今、触れる。


そこにあるであろう、彼との、つながりを求めて。


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