彼の未来、私の、未来
「お前は、自分の心をどこまで理解している。」
?何言っているの夕真?自分の心は、自分が一番理解してるはず、だよね。
「本当にそうか?なら、あんな意にそぐわない言動などするか?」
……相手を傷つけたと自分が思いたくないから自分ではなく、相手のせいにした……それじゃあ、理由にならない?自分で言っていて苦々しい。
「ならなくは、ない。だが、これまでのお前の思考から考えるに別の理由が浮かびあがる。」
別の、理由。何?
「今までの二つと同じだ。認識にズレがある。既に証明済みだろうが。」
証明、されてない、けどね。夕真がそう言っているだけ。私は、認めていない、よ。
「お前の平等という価値観。ポイントはその一点だけだ。お前は他人の失敗を自分のせいにされたくないから、自分のおかげと言われたくない。そうだな?」
私は、返事こそしないものの、目で、そう。と答える。
「ではお前は、その考えをそのまま周りに言うか?誰にでも好かれるようなやり方をしている人間はそんな事決して言わないよな、そんな言い方されたら嫌な気持ちになるものな。」
そりゃ、言わない。黙って、押し殺す。
「ではなぜ、夕奈は好かれ続けたのか、分かるか?」
別に、好かれていたかどうか、確信はないけど……夕真は答えが分かるの?
「平等が、そのまま答えだ。お前の表向きの考えの裏に潜むもの、当時の夕奈が胸に抱いていた気持ち。」
私の、裏に潜む、気持ち。
「失敗は自分のせい、こいつにはもう少し続きがある。」
続き?
「当時のお前の言葉を借りるなら、じゃなくちゃ平等じゃないだろう?」
当時の、私……
「失敗は自分のせい、だからこそ、成功は、それはあなた自身の頑張り。たくさんの人に感謝するかもしれないけれど、一番頑張ったのはあなた自身。自分をたくさん、褒めてあげてほしい。だ。記憶にあるだろう?」
……どうして、記憶にあるような、気が、するの。
「お前自身のスローガンみたいなものだったろうが。むしろ失敗は自分のせい、というネガティブな部分を除いてお前は皆によく言っていたはずだ。皆がお前に感謝する中、お前は相手自身がの頑張りを認めて自分を褒めるようにとしてきたはずだ。自分の頑張りなんて大したものじゃない、お前はいつもそう思ってきた。」
そんな、そんな人間じゃ、ない。
「立派かどうかは分からないが、それが事実だ。お前が立派だと思うなら立派なのかもしれないな。そしてそんなお前が自分の考え方を全て話した人物が一人だけいた。」
優、くん。
「渡瀬優もお前の考え賛同していたはずだ。そして一番頑張らなくちゃいけないのは自分なのだと。誰かのせいにするようではいけないのだと。」
夕真が言ってること、私と全然違う。違うはずなのに、もしかしたら、そうなの、なんて考えがよぎる……そんなわけない!私は、自分の事が大事で、相手を傷つけることだって平気で出来てしまう!そんな、そんなッ……!
「お前は、渡瀬優が居なくなってしまった理由を自分のせいにしなくちゃ、やりきれなかったから、記憶を作り変えたんだろう。最後に交わした会話、それは、本当にお互いを絶望へと叩き落とすものだったのか。いや、違う。違ったのだ。」
最後の、会話。優くんの、せい……って
「確かにそう言ったさ。でもそれは相手に責任を押し付けるためじゃなかっただろう。」
……あれ……この……記憶……なに……
・・・・・・・・・
優くんは、悔しそうな、顔を……ダメ、だったみたいだ。
「夕奈、先輩、ちょっと、届かなかったです。悔しいなぁ……あんなに夕奈先輩にもたくさん手伝ってもらったのに……すいません。」
私は、私は、それでも、優くんが頑張ったこと、凄いって思う。私なんて大して何にも出来てない!何の助けにもなれてない!それでもお疲れ様って、凄いって!頑張った!って言ってあげたい……だけど、私が言葉を言う前に優くんは続ける。
「ううん。違う、誰のせいでもない、自分がまだまだ、だった。ですよね、夕奈先輩。」
あれ、優くん、こんな、笑顔、だった……?
「優くん……うん、そう、だね。」
私は、優くんに、こんなところで止まってほしくなかった。
「優くんの、せい、だよ。」
「ふふ、夕奈先輩は、やっぱり優しいですね。前にもそう話してくれましたね。観覧車の時の事、ずっと覚えてるんですよ?夕奈先輩は、自分に厳しい人なんだって、自分を甘やかさなかったから夕奈先輩はこんなにすごい人なんだって。失敗は、誰かのせいにしちゃいけない。でもだからこそ、成功したとき、本当にうれしいんですよね?平等って甘やかすだけじゃなくて、厳しい時もあるんですよね。」
優くんは、本当に、強い。私は、転んだことが無かった。私の強さなんて、見せかけ。だから、失敗して、こんなふうに立ち上がれるのが本当に凄いって感じた。
「はぁ、今回は、言いそびれちゃった、ですね。残念。でも、いつかは自分の頑張り、しっかり認められるような結果、出してみせます。」
私は、彼に、見惚れていた。
「けど、今回は失敗だったけど、それでも夕奈先輩に嫌がられちゃうかもしれないけど、夕奈先輩が居てくれたから、出逢えたから、こんなに頑張れたんだって、それだけは言わせて欲しい、です。」
私が、居たから?頑張れた?邪魔じゃ、なくて?
「もちろん、ここで止まるつもりなんてないです。でも、先輩にあってから自分の絵が、今まで以上に綺麗な色を描くようになって、付き合うようになったらもっと、鮮やかな景色がキャンパスに描かれて。先輩が居てくれて、本当に感謝してるんですよ?」
私、そんな、力になんてなれてない、のに。
「本当は、言いたかったんですけど……約束、守れなかったから……あの、先輩……」
優くん、何を、言おうと。
「いえ、今まで、本当に、ありがとうございました。これからも、今まで通りの先輩でいてください。それと……ッ、ごめん、なさい。これ、いつか、読んでください。口で伝えられなくて、ごめん、なさい。」
優くんは、そう言って私に手紙を差し出し、生徒会室を後にした。
こ、こんな……記憶、そんなッ……
・・・・・・・・・
「夕奈。」
こんな記憶……これこそ、ねつ造、だよ。
「他人がどう思うか知らないが、俺には、素敵な記憶に見えたが、な。」
私は、涙が溢れだした。こんな記憶、真実なわけ、ない、のに。悲しみの涙じゃない。優くんは絶望なんかじゃなく、次の未来に胸を輝かせていたのだと。もしそうならば、それは私にとっての救いだった。
だからッ!そんな都合のいい記憶、認められないよ!平等じゃ、ないんだよ!
「お前にとって、その記憶は多くが隠されてしまった悲しい記憶だった。もう一つ悲しいのが、お前は手紙を、読まなかったのだ。彼が居なくなったショックだけは現実にあったことだった。そのショックから逃げるためお前は、自分の記憶に嘘をついたのだ。その頃からお前は他人にだけじゃなく、嘘で自分の記憶すらコントロールすることが出来る様になってしまった。」
確かに手紙の事なんて、今見た記憶でしか知らない。本当にそんなものがある?自分の記憶に嘘を?
「自己防衛反応から産み出された能力と言ってもいいかもしれない。その能力こそお前を死へと駆り立てる原因だ。」
私が、死にたい理由を、自分で作り、出してる?
「察しがいい。現に最初の記憶はお前のせいじゃない事を自分のせいだと思い込ませている。」
二つ目、は?
「あれは確かにお前がやったこと。動機も真実、だが、俺が思うに、やったことに対する償いを本当はお前は必要以上に行っているはずだ。その罪悪感からその子の事を必要以上に気にかけてきた。それもまた、平等のため、ひどい事をしたのだから、それに見合う以上の事を私は彼女にしてあげなければならない、まあそんなところか。俺は断言してもいい。仮にお前がその時の罪をその子に打ち明けたとしても、彼女は今のお前を恨んだり憎んだりはしない。笑って許すだろう。お前は彼女にそう思わせるほどに、献身的に動いてきたはずだ。」
……
「だからと言って、許されるわけじゃない、がな。けど、夕奈はその罪悪感を自らの異常さへと認識をコントロールしたのだと俺は思う。結局は死ぬ理由づけだ。」
……そう、なの、かな。
「流石にだいぶ心は動いたようだな、夕奈。それでも認められないか?」
……認め、ないのは、ちょっと、ズルいかも、ね。夕真は、しっかり道筋を立てて、しっかり証明してみせてくれたんだものね。
「夕奈。」
そう、かも、しれない。
「お前のその言葉は、肯定だ。」
私は、しばし、考える。夕真がこれまでに言ったこと、全て、真実、かもしれない。私は自らが死にたい理由をただ、これまでの記憶から作り出しただけなのかもしれないという事。
え……?
わ、た、し、が、し、に、た、い、り、ゆ、う?
ねえ、夕真?
「……なんだ、夕奈?」
私の、死にたい、理由、って、なあに?
「……」
死にたいから、死にたい理由をねつ造した。っていう事は、私って。なんで、死にたい、って思っているの?私は、これまで辿ってきた記憶そのものが死にたい理由だと思っていたはず、でも、違う?これまで辿ってきた記憶とは違った死にたい理由が、あるっていう事?
「そう、なる。」
私は、いったい、なんで。死にたい、の?
「少なくとも、俺の目的の、半分は今、成功している。」
夕真の、目的?
「お前の記憶に、誤りがあるってことをお前はほぼ、認めつつある。これまでの事は、ある意味夕奈が作り出した偽りだった。ならば、この先に真実があることになる。俺の目的のもう半分は、その真実を夕奈が受け入れて、そのうえで生きていくこと。」
私、何が何だか、もう、分からない。よ。難しいよ。
「そうだな、確かにそうだ。それならば、記憶を辿って行こう、そう、次で、最後だ。夕奈の中の記憶でいいその日付は?」
私の中、の記憶。1年前、の8月、20日。
「丸一年前。そうだ。俺の、朝奈夕真の、誕生日だ。」




