表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
泰西洋の白波

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/97

アレク「……リトルマリー集合」不精ひげ「リトルマリー集合……」ウラド「……了解」

結局去って行った父。愉快な幽霊船の面々ともお別れ。

フォルコン号に出頭するマリー。

今回の冒険は静かに、穏やかに終わろうとしていた。

 オランジュ少尉とアイビス海兵隊、それに奴隷商人に捕まっていた人達を、あの場所に残して……フォルコン号は夜中のうちに出港した。

 行先は多分ダルフィーンだ。私、マリー・パスファインダーはフォルコン号の船牢に居るので細かい事はよく解らない。



 翌朝目覚めると、牢の入り口は閉まっていないし縄梯子は降りている。

 私はそっと甲板に上がる。


 船は副船長のロイ爺の指揮でダルフィーンに向かっているはず。ダルフィーンは300km近く先にあるが、風は都合良いようなので、今日の夕方にも到着するかもしれない。


「あらおはよう、()()


 後ろから声を掛けられ私は飛び上がる……アイリさんだ。しかしアイリは私が振り向く前に追い越して行って……甲板に上がってしまった。


「あの、アイリさん聞いて下さい、そもそもあの幽霊船に出会ったのは」

「船長! そんな事より貴女が居ない間に消費した物資の確認と承認を済ませて! 昨日は一時的とはいえ80人も乗ってて、私全員分の食事作ったのよ!?」


 アレクも口を挟む。


「モロコシのコンテナも開封しちゃった。決済御願いします」

「艦長室に行って仕事して! 着替えてからでいいから!」



 その後も。身支度をして書類整理を終えて甲板に出て、操舵するウラドに話し掛けても、操帆する不精ひげに話し掛けても、似たような反応が返って来る。


「船長! 木工用の斧が悪くなったようだ、次の港で購入してもらえないか」

「船長! そんな事より予備の帆を縫ってくれないか?」



 ロイ爺だけは、少しだけ話を聞いてくれた。


「わしは事情が解らんから手伝えないという事は前提として言っておくがの。コルジア軍には何と説明するんじゃ? ガレオン一隻、ダウ二隻、キャラック二隻とその乗組員を、オランジュ少尉以下17人が全部降伏させたと言い張るんか?」



 フォルコン号は今日の夕方にはダルフィーンについてしまうだろう。

 オランジュ少尉達、捕虜になっていた人々、捕虜になった海賊、奴隷商人、密輸業者、500人近い人々が、立場の違いはあるが、あの入り江でコルジア軍が来るのを待っている……コルジア軍には速やかに来て貰わないと困るので、私の責任は重大だ。

 万一、私の言う事が小娘の戯言と一蹴されてしまったら、私は自力であの人達の移動を手配しなきゃならなくなる。


 報告書。どう書いたらいいんだ……幽霊船の事は書けないよ。そんなの書いたら笑われて終わってしまう。

 私は結局、封印していたキャプテンマリーの服を取り出してしまった。船酔い知らずのストックが尽きました。げろげろ言ってたら報告書が書けないし、もう仕方が無い。


 あーどうしよう。時間だけが過ぎて行く……

 もうアルバトロス船長が全部やった事にしようか?いや……あれはあれであんまり大っぴらに出来ない。お父さん、多分まだ何か秘密にしてるよな。レイヴンやアイリ以外にも、自分の正体を隠しておきたい理由が、まだ何かあるんだと思う。


 誰か私の頭脳になって下さい。




 ダルフィーンには夕方に着いた。マリキータ島とは全然違う、聞いていた以上に発展している町だ。マリキータ島よりは雨も多いのだろう、山には森があるし丘陵には畑もあるようだ。そりゃ人もこっちに住むわね。

 さて……本物の軍人さんの所にキャプテンマリーで訪れるのはちょっと……ここは真面目の商会長服で行こうか。幸い、港内は波も穏やかなようだ。



 ダルフィーンのコルジア駐留艦隊のリナレス提督は、遅い時間にも関わらず、彼の旗艦の集会室にすぐに私を通してくれた。

 40歳前後と思われる、赤い髪も口ひげも綺麗に整えた素敵なおじさまなのだが、御食事の途中だったのだろうか、頬と髭に赤いソースがべったりくっついている。


「報告書は拝見しました、美しいお嬢さん。大変な冒険をなさったようですな。本来コルジア海軍が守護すべきこの海域で……誠に申し訳ない」


 私の後ろには、私を案内して来てくれたコルジア海兵隊の人が立っているのだが、彼は必死に笑いを堪えているようで、荒い鼻息が聞こえて来る。


「そして救助されるべき人々が、捕らえて罰するべき奴等が、マリキータ島東岸の入り江で待っていると。勿論。コルジア海軍は艦艇と人員を派遣し、然るべき処遇を取るでしょう。さて、その中で」


 提督の後ろには、副官と思われる、こちらも立派な軍服を来た人が控えているのだが、私と海兵さんの表情から何かを察したのだろう、そっと提督の横顔を覗き込む……あ、違います、反対側ですよ。あー気づいた。


「拿捕船がキャラック二隻とダウ一隻、ゲスピノッサとその一味には賞金も掛けられていますし、彼らの財産も半壊したガレオン船とその近くの海底に沈んでいるとありますが……何故それを不要とおっしゃるのですか?」


「御願い致します、その資金でどうかラゴンバの人々が故郷に帰れるよう御取り計らい下さい、牢から出られただけでは、決して自由になれたとは言えないのです」


「アイビスの海洋商人の貴女が何故そこまで。素晴らしい。ではせめて、この小切手はお受け取りいただきたい」


 そう言ってリナレス提督は傍らの副官に合図する……副官の方は……こちらは笑いをこらえるというより、必死に……表情筋だけで提督に訴えつつ、手では小切手と羽根ペンを差し出す……ついてますよ……ほっぺにソースがついてますよ……


「私のような者がいくら吼えても。銃を撃ち大砲で脅しても。この海が静まる事は無い……今回のような事件は今も、どこか近くで起きている……新世界の奴隷市場には、今も毎日のように()()が入荷するのだと聞く! 嘆かわしい事だ」


 小切手に金額と署名を入れる提督……あっ……ああああ、下を向いたら髭についたソースが垂れそう、小切手に赤いソースが!


「この海に本当に必要なのは、貴女のような正しい勇気を持った人なのです。我々に出来るのは、貴女の力になる事。それだけです。さあお受け取りを」


 提督が前を向いたので、ソースはなんとか持ちこたえる……ああ……船酔いも忘れてハラハラしましたよ……



 ほっぺのソースはともかく、リナレス提督は良い人だった。夜のうちにジーベック船が一隻、他の船から集めた士官や水夫や海兵隊、物資まで満載して出航して行く……向こうに行けばすぐ動かせる船が二隻はあるから、あれでいいのか。

 報告書の内容については、結局何も聞かれなかった。小切手には今回の総経費の10倍くらいの金額が書かれていた。




 ダルフィーンには二泊した。オランジュ少尉とアイビス海兵隊はフォルコン号に乗せて帰るのが筋だろう。

 少尉達を乗せたダウ船は、船倉に囚人をぎゅうぎゅう詰めにして戻って来た。


「この魔女め! 地獄に落ちやがれ!」


 桟橋を連行されて行く途中の囚人が一人、私を見て叫ぶ。隣でアイリがちょっとビックリしてるけどアイリさんの事じゃないと思います。


「なんだ、わざわざ待っててくれたのかマリー船長! フォルコン号は飯が美味いから、出来ればフォルコン号で帰りたいとは思ってたよ。ワハハハ」


 オランジュ少尉以下17名、アイビス海兵隊は再びフォルコン号に乗り込んだ。



「それじゃあヤシュムを経由してロングストーンへ!一気に行きますわよ!不精ひげ!抜錨よ!」


 私はアイリの丹念な手入れで復活したお姫マリー姿で、合図をする。


「抜錨~」


 いつも通りの間抜け声の不精ひげ……キャプスタンは実際には海兵さんが巻いている。


 この二日間。私が折角幽霊船の話をしてやろうとしても、水夫達もアイリもみんなすぐ別の話を被せて来て話させてくれない。解ったわよ。もう言わないわよ。

 今回も、起きた事のほとんどを無かった事にして。フォルコン号は出航する。




 でも、何で水夫達は、アルバトロスがフォルコンだったかどうか、聞いてくれないんだろう。

ロイ爺「それは……フォルコンに会えたのなら、マリーは大喜びしているはずじゃろう……わしらに黙っている理由も無い」

ニック「……つまり、そういう事だよなあ……でも、何か理由がある可能性も」

ウラド「いや……あれほど子煩悩だった船長だ……娘が船乗りになった上、一人で冒険をしていたなどと知ったら、我々の前に現れない訳が無い」

アレク「フォルコンさんだったら、僕らの前に現れて猛抗議してただろうね……」

ロイ爺「この話、あまりしない方が良さそうじゃな」

一同「……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ご来場誠にありがとうございます。
この作品は完結作品となっておりますが、シリーズ作品は現在も連載が続いております。
宜しければ是非、続きも御覧下さい。


シリーズ全体の目次ページはこちら
マリー・パスファインダーの冒険と航海
― 新着の感想 ―
「レイヴンやアイリ以外にも、自分の正体を隠しておきたい理由が、まだ何かあるんだと思う」 仮にフォルコンさんに別の事情があったとしても、前者2件のインパクトに比べると霞んでしまいそうではあります。 まあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ