マリー「今回の私、何の役にも立てなかった」ベネロフ「そんな事ないですよ、あっしを助けてくれたじゃありませんか」
崩れかけたガレオン船のマストが、斜めに入り江に差し込んでいる。その先端に、半透明の若い女が立っていた。
「さあ社畜共! 始業時間だよ! 今日の仕事はこの入り江の大掃除だ、逆らう奴は片っ端からパスファインダー商会にリクルートしてやりな!」
ガイコツ軍団が一斉に、骨だけの拳を天に突き出し……入り江の海賊達目掛け殺到する!
「くそっ……奴隷共!! 奴らと戦え! 戦った奴には褒美を! 戦わない奴は、身内に罰をくれてやる! か、家族を鞭で」
そう叫ぼうとした、囚人を鞭で打つ係の海賊が、メイスを持ったガイコツに殴り倒される。
「ひぃっ、化け物! 化け物め!」
――ターン!タターン!ターンターン!
マスケット銃が火を噴く……ある弾丸はガイコツの肋骨の合間を通過した。ある弾丸は脇腹辺りの何もない所を。
ある弾丸は眉間に当たり、頭蓋骨を貫通したが。弾を当てられたガイコツは、眉間を二、三度撫でただけで、そのまままた突撃して来る。
「武器が通じねぇぇぇえ!!」
「アハハハハハハ!! お前達もパスファインダー商会の社員にお成り!!死ぬまでも、死んでからも思う存分残業させてあげるよー!!」
半透明の女……トゥーヴァー船長は、ガレオン船のマストから、入り江に停泊していたキャラックの船首に飛び移ると、愉快そうにそう叫ぶ。
「トゥーヴァーさん! そういう風評被害はやめて下さい!」
そしてこんな所に突如現れたバニーガール。
海賊達はこの、見た目は小柄で可愛らしいバニーガールの少女を悪魔ではないかと疑い始めていた。そもそもこんな所に少女のバニーガールなど居る訳が無いではないか。そしてこの少女は、ガイコツ共を全く恐れていないのだ。
別の場所の、マスケット銃を持った海賊の男が。キャラック船の上で高笑いしているトゥーヴァーに狙いを定めた。
――ターン!
しかし銃弾は……トゥーヴァーの居る場所を素通りして、向こうへ飛んで行き……
「ぐはっ!?」
キャラック船のマストの上に居た、密輸業者の船員に当たった。その船員はマストから甲板に落ちて、動かなくなる。
「あたしに銃弾は効かないみたいだね! 残念だったわね。さて……降伏しない奴は、死んでもこき使ってやるわよー?」
「降伏して下さーい! みんな武器を捨ててその場に止まって! そうしたらこのガイコツは攻撃しません!!」
トゥーヴァーが、続いてバニーガールが叫ぶ。しかし。
「ふざけやがれ!!」
混乱の中を貫通するように。一つの声が響いた。そう背は高くない、しかし恐ろしい男。海賊にして奴隷商人、ゲスピノッサ。
「臆病者共が!! 俺に殺されるのは怖く無ェのか!!」
「ぎゃああ!!」「ぐふっ……」
ゲスピノッサは腰のサーベルを抜くなり、逃げようとしていた手下二人をたちまち斬り伏せる。
奴隷達は見た。その二人はかつては彼らと一緒に捕まり、商品とされていた者達だった。この二人は志願して、奴隷商人の仲間と認められ、海賊に加わっていたはずなのに。こんなにも簡単に、ゲスピノッサは殺すのか。
究極の選択を迫られる奴隷達。殺される覚悟でガイコツの前に出るか、殺される覚悟で逃げるか。
ガイコツの一体が、トゥーヴァーに向かって何か叫ぶような仕草をする。
「あいつだ! あいつが奴隷商人の頭目、ゲスピノッサだってよ!! あいつを倒すんだ!!」
トゥーヴァーはゲスピノッサを指差して叫ぶ。
外ではもう一つの戦いが続いていた。
海兵隊の襲撃を受けていたキャラック船の乗組員が、錨を抜き、帆を開いたのだ。その正面にはたまたま、奴隷商人のもう一隻のダウ船が居た。
このダウ船は言わば護衛艦で、今も少数の見張りと共に事態を傍観していたのだが。
「うわああああ!!」
「馬鹿野郎!!」
自棄になったキャラック船の乗組員の操船で、二隻は浅い角度ながら衝突していた。キャラック船側の乗組員がダウ船に鉤爪を掛ける。
「お前らも手伝えよ! 軍隊と戦え!」
「ふざけんな、くそ……あのゴリラをぶち殺すぞ!」
アイビス海兵隊は正規の軍隊で、練度や装備では奴隷商人や密輸業者の用心棒を凌駕していた。
しかし、海賊側の人数は二隻合わせれば海兵隊の三倍は居る。
「怯むなお前達! 野蛮人共に法の正義を下すんだ。ウオオオオオオオ!!」
オランジュ少尉は雄叫びを上げた。
「やめて下さーい!! 戦うのをやめて! 武器を下ろして!」
半壊したガレオン船の甲板の上では、バニーガールが叫び続けていた。
「ひっ……ひいっ、ひいっ……く、く、来るな!!」
棒切れだけを持たされ、無理やり前に押し出された、奴隷の男達が、涙と脂汗を流しながら、必死にガイコツ達を牽制する。
ガイコツ達の表情は、生きている人間からは見えない。しかし、ガイコツ同士とトゥーヴァーには見えていた。
「まずいね」
トゥーヴァーは小声で呟き、手振りで指揮を執る。奴隷に固められている場所は無理に突破せず、別の所に向かえと。
入り江のもう片側の岸からも、ガイコツ達が乗り込んで行く。
「くそおお!! 化け物め!!」
体格のいい海賊の男が一人、逃げ惑う味方を押しのけ、ガイコツに立ち向かう。男は斧で、突撃して来たガイコツのカトラスの一撃を受け流し、重量のある一撃をガイコツの肩甲骨へと叩き落す。
――ガラガシャァァン!
ガイコツが粉砕されたように倒れ、骨が散らばる。
「野郎共! こいつら普通に倒せるぞ!!」
斧でガイコツを一体倒した男が吼える。逃げ惑っていた海賊が振り返る。
「くっ! ……早くお前等も武器を持って戦え!」
男はたちまち別のガイコツに囲まれた。その間に、別のガイコツが……今倒され、バラバラに散らばったガイコツの骨を集めて、元通り並べだす。
「畜生!」
男は一旦その場を逃れ、入り江の奥に撤退する。男を囲んでいた方のガイコツも、一旦戻って白骨並べの方を手伝い出す。
「嘘だろ……」
骨が全部揃うと、打ち倒されたガイコツは、打たれた辺りをさすりながら立ち上がり、自分を組み立てなおしてくれた仲間達と握手する。
「だが見たかお前ら!? このバケモンは倒せる! 倒したら組み立て直させなければいいんだ!」
男が叫んだ瞬間。
――ザバァァァア!!
近くの海面から、イルカのような勢いで、小柄な男……少年が一人、一気に飛び出して来て波止場に飛び乗った。
「だ……誰だお前!?」
「今はまだ……ダーリウシュの息子カイヴァーン」
斧を持った男は、いきなりそれを振り上げた……しかし。それが振り下ろされる前に、男は、カイヴァーンのタックルで腹から二つに折りたたまれ、崖の壁面に叩きつけられ、崩れ落ちた。
「な……何ィ!?」
別の海賊が二人、素早くカイヴァーンを挟み討ちにしようとしたが、カイヴァーンの動きは素早く鋭かった。少年は前から来る海賊のカトラスを掻い潜ると、その懐に入り顎を拳でかち上げる。
「ギャッ……!」
そして次の瞬間にはもう反転して、もぎ取ったカトラスで後ろから来ていた海賊の側頭部を、カトラスの峰で、刈り取るように打ち据えていた。
「ひっ、ひいいっ!? このガキもバケモンか!?」
「そうだ……こいつ、ナームヴァルのカイヴァーンだ!!」
三人目、四人目……薙ぎ払い、蹴り上げ、カイヴァーンは海賊を片付けて行くが……
「こいつには一人や二人じゃだめだ!五人でかかれ!」
「いや……こいつは奴隷共で囲め!」
本物の凶暴な男共で構成されたゲスピノッサの海賊団は、最初のパニックからは脱出しつつあった。
狡猾で残虐な彼らは、ガイコツ達が奴隷を攻撃しようとしない事にも気づき始めていた。
「オラァ! さっさと前に出ろ!」
「やらねえとテメエらの女房や娘の皮を剥ぐぞ!」
その様子を見て……トゥーヴァーはバニーガールの方に振り向いて声を掛ける。その表情には少し焦りの色が浮かんでいた。
「何らかの覚悟が必要だね……もう言ってしまった方がいいよ……マリー船長」
マリー船長と呼ばれたバニーガールは俯く。
「だけど、そうしたら皆が……」
「無理だよマリー、アタシが言ってやろうか? ていうかアンタ怪しいニスル語しか出来ないし、ほとんどの奴隷には通じないから、やっぱりアタシが言うよ」
「トゥーヴァーさん! だけどちゃんと、戦わないでって言って下さい! 生き延びてくれないと意味がないんです! 先に助けた囚人と約束したんです!」
トゥーヴァーはそれには答えず、入り江の中の方を向き……マリーには全く解らないが、奴隷となった男達のほとんどには解る、内陸部の言葉で叫ぶ。
「男共よく聞け! お前らと一緒に略奪された女子供は、マリー船長が助け出した! ゲスピノッサは嘘をついている! 奴の手に、もうお前達の女房子供は居ない!」
すかさずゲスピノッサが怒鳴り返す。
「ハッタリだ! あんな小娘と俺と、どっちが本当の事を言っていると思う!? どっちが本当の恐怖だ!? お前らの人質は俺の手の中だ! そんなに生皮を剥がれた家族が見てえのか!!」
「小娘とは笑わせてくれるね、青二才……アタシの名を知らないのかい。タルカシュコーンからコルジアの沿岸まで、縦横無尽に荒らし回った海賊、キャプテン・トゥーヴァーだよ!」
その名は、この辺りの海賊で知らない者は居なかった。そしてその姿は、言われてみれば伝承の通りだった。小麦色の肌、編み込まれた燃えるような赤毛……絶世の美女というのは、少し盛り過ぎのようだが。21歳の若さで処刑されたと言う事で、若干尾ひれがついたか。実物はまだ少し少女らしさも残す、可愛らしい……幽霊である。
「海賊共も知ってるだろうけどね……ラゴンバの者達もアタシを知っているだろう!さあアタシの為に戦え!……そう言いたいところだが。マリー船長の命令だ。お前達は手を出すな!逃げて逃げて逃げ回れ!」
ラゴンバの者達と言うのは、男の囚人達の多くを占める、内陸の部族を意味していた。
「反乱なんか許さねえぞ!」
「あの女が言ってるのはハッタリだ!」
「今すぐ死にてえか!」
海賊達は吠える。実際、海賊達の人数は、最初にアルバトロス船長らが想像していたのよりずっと多かった。ゲスピノッサの手下だけで100人くらい居る上に、買い手の密輸業者側も全部でそのくらい居る。
そのうち50人は外でオランジェ少尉達と戦っているのだが、入り江の中にはその残りが全て居るのだ。
「お願い! 戦わなくていいから! ラゴンバの人は逃げて! 何とかして逃げて!」
マリーがニスル語で叫ぶ。ニスル語を理解出来る囚人も幾らかは居る。
囚人の一人が。近くに、ガイコツに打ち倒された海賊のカトラスが落ちているのを見つけた。男はそれを……拾い上げる。
「やめて……剣を捨てて!」
マリーはなおも叫ぶ。しかし。
「……マリー船長の為に!」
男は叫び、さっきまであんなに怖がっていたガイコツ達に合流し、海賊達に向かって行く。
「クソが!! そんなに生皮を剥がれた娘の姿が見てェのか!! 牢の見張りに伝えろ!! 奴等の頭の皮を剥いでやれと!!」
ゲスピノッサが自棄気味に叫ぶ。その目前に。
「牢に見張り居ない!! 牢は空だ!!」
やはり内陸の言葉で叫びながら、カイヴァーンが。奴隷や海賊の包囲を突破して飛び出した。
「お前を倒せば終わりだ!!」
カイヴァーンの殺気の篭った刺突を、ゲスピノッサは老獪な動きでかわし、突いた後の横薙ぎも受け流す。
「クソガキが!!」
さらに、鍔を合わせ押し込んで来るカイヴァーンを往なし、ゲスピノッサは立て続けに突きを放つ。カイヴァーンは身を翻してかわす。
ゲスピノッサもまた、十分に化け物だった。
背は低いが極めて頑強で素早く、その動きは老獪で狡猾。そして戦闘経験ではカイヴァーンを遥かに上回っていた。
カイヴァーンの武器は瞬発力と視力だ。相手の動きの変化を見逃さず、的確に、破壊力のある一撃を繰り出す事が出来る。
十合い、二十合い、攻撃を受け押し込まれながら、ゲスピノッサは少しずつ下がって行く……カイヴァーンは次第にゲスピノッサを壁際に追い込んで行く……
「危ない! カイ……!」
マリーが叫ぶ。カイヴァーンは危険を確認する前に横に飛び退く。しかし。
――ターン!
銃声が轟き、カイヴァーンの左肩の辺りに、血煙が舞う……!
「カイヴァーン!!」
「ワハハハ!! でかしたぞマンドラ!!」
マリーが悲痛に叫び、ゲスピノッサが快哉を叫んだ……次の瞬間。
「ぁぁぁぁああああ!!!!」
上空から……一人の男が……黒づくめの男を逆さに肩に担ぎ、大きく股裂きを掛けたまま……波止場に落ちて来た!
「ぐぎゃふっ!!」
三階程の高さから落ちて来たその男、アルバトロスは、見事に着地を決めたが。担がれていたゲスピノッサ海賊団の狙撃手、マンドラは股関節から脊柱までくまなく破壊され、白目を剥き泡を吹いた。
アルバトロスはマンドラを放り出し、立ち上がる。アルバトロスは上半身には何も身につけず、その鍛え抜かれた見事な筋肉を誇示していた。下半身も太腿丈のパンツとブーツの他には何も身に着けていない。
彼は決して武器の使い方を知らない訳ではないし、服を着たくない訳ではない。しかし彼は経験上、この姿が自分の最強の姿だと考えていた。
服も満足に着ていない事は、初見の相手の油断を誘うのに有効だと、アルバトロスは信じていた。
武器を持たない事もそうだ。剣があれば剣に、銃があれば銃に頼ってしまう、自分はそういう意志の弱い人間だという事に気付いたアルバトロスは、いつの日からか、自分の肉体だけを武器に戦う事に拘るようになっていた。
「息子が世話になったな。俺が相手だ」
「この……イカれ野郎!!」
ゲスピノッサはアルバトロスが武器を持っていない事を確認すると、間合いの差を生かすべく積極的に仕掛ける。
「死ね! ゴミ虫が!!」
アルバトロスはじりじりと後退する。ゲスピノッサはアルバトロスを壁際に追い詰めて行く。
「カイヴァーン! 今のうちに下がれ!」
「父さん……ごめん、父さん……」
カイヴァーンは涙ぐみ、肩を押さえて引き下がる。
「どうした! 威勢がいいだけか!!」
アルバトロスを壁際に追い詰め、ゲスピノッサは弄るように斬撃を繰り出し続ける。アルバトロスはゲスピノッサの足元へスライディングを掛ける。
ゲスピノッサは敵がそう動くだろうと予想していたのだが、アルバトロスの速さは予想外だった。悠々切りつけようと見た足元には、アルバトロスはもう居ない。それで慌てて振り返ると。
――ガツッ!!
「ぐあああ!!」
「痛あああ!!」
思い切り頭突き攻撃をかましておいて、アルバトロスはゲスピノッサより少し大げさに痛がる。
「どういう石頭だお前」
「こ……死ね!!」
ゲスピノッサはサーベルで斬りつけようとするが、その右腕をアルバトロスに抱え込まれてしまった……そう思った次の瞬間には。
「なっ!?」
ゲスピノッサの身体は宙を舞っていた。投げ出されたゲスピノッサは一回転して……
「グハッ!」
背中から地面に叩きつけられる。
「グエハ!!」
そして次の瞬間には、ゲスピノッサの胸板に、アルバトロスの跳躍肘落としが落ちる。
「こ、このッ……」
そしてまだサーベルを手放していなかったゲスピノッサが、倒れたままサーベルを振り回すと……アルバトロスは後転して間合いを取った後だ。
「馬鹿にしてい」
急いで立ち上がろうとすると、アルバトロスは腕を交差したまま飛んで来る。顔面に交差した手刀を受けのけぞるゲスピノッサ。しかもアルバトロスはそのままゲスピノッサの顔面に絡みついていた。
「この」
ゲスピノッサはアルバトロスを地面に叩きつけようと上半身を振り回すが、いつの間にか、アルバトロスの足はがっちりとゲスピノッサの首に絡みついていた。
「殺す」ゲスピノッサは殺すと言うがアルバトロスの足はどんどんゲスピノッサの首に絡みつき、息が出来なくなって行く。サーベルを持った手首はアルバトロスの両手に捕まれていた。「やめろ」アルバトロスが身体を捻ると、ゲスピノッサの身体は地面に投げ出される。「ぐは」アルバトロスの身体は離れず、今度はゲスピノッサの右腕を両手両足で抱え込んでいた。「ぎゃふ」ゲスピノッサの右肘の関節が伸びきる。アルバトロスはゲスピノッサの両足に両足を絡め、両手首を掴み、天井釣り固めに掛ける。「ああああ!!」ゲスピノッサは苦悶の叫びを上げる。アルバトロスはそのまま勢いをつけ、天井固めを掛けたままそこら中を転がり回る。「げぶ」
アルバトロスは一旦天井釣り固めを解くと、ゲスピノッサを無理やり立たせる。そして、軽く跳躍すると……ゲスピノッサの後頭部に、遠心力の篭った回転蹴りを浴びせる。
――ドゴッ……ドサッ……
ゲスピノッサは白目を剥き、膝から崩れ落ち……仰向けに倒れた。
ハバリーナ号のガイコツ達の数は海賊に対して決して多くなく、元々の総数では半分以下だった。しかし、序盤ではその姿への恐怖心もあり、優勢に戦いを進めていた。
中盤になると少しずつ海賊が勢いを吹き返し、奴隷達に強要して戦況を押し返して来た。
だが、入り江の上階通路に居た、銃や弓矢を持った射手達およそ20人を一人で各個撃破し、海賊団を恐怖で支配するゲスピノッサを一対一で打ち破ったアルバトロス船長の活躍もあり、戦いの趨勢はハバリーナ号側の勝利に大きく傾いていた。
倒れた海賊達から武器を奪った奴隷も、皆ハバリーナ号側についていた。
「あんたカイヴァーンだったね! 怪我してんだから無理すんな!」
左肩を負傷しながら、まだカトラスを揮って戦うカイヴァーンに、トゥーヴァーが声を掛ける。その元に、今回はほとんど後方で隠れていたマリーが駆け寄る。
「ハウス! ハウス! もういいから! 後はトゥーヴァーさん達に任せて!」
「あの人、本物のトゥーヴァーさんなんだな、やっぱり姉ちゃんは凄ぇや」
カイヴァーンはマリーに右腕を掴まれると、素直にカトラスを手放してマリーに渡し、肩を落とす。
「不精ひげの言う通りだよ、駄目だよあんな、一人で飛び出したら」
「それ、姉ちゃんに言われてもなあ……姉ちゃんの方が余程一人で飛び出すし」
カイヴァーンは。まだ笑いながら敵中に飛び込み、武装した海賊を素手で締め上げ、殴り、投げ飛ばして回る、義理の父の姿を見つめる。
「凄いな、俺達の父さん」
そして朗らかな笑顔を、マリーに向ける。




