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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
泰西洋の白波

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トゥーヴァー「これが最後の戦いだよ!! ハバリーナ……今までありがとう」

生き別れの父と奴隷商人と幽霊船の欲張りセット!

クライマックスが始まります!

 海賊にして奴隷商人、ゲスピノッサは、世間のイメージよりは背の低い男だった。しかしその事を本人の前で口にしてしまい、無残な姿となった者も多い。

 とにかく残忍で凶暴、何をするか解らない、それでいて狡猾な男……それがゲスピノッサである。

 だから今、ゲスピノッサ達が留守にしてるうちに襲撃があった事、襲撃者に残らず殴り倒されて女子供の商品を強奪された事を報告した、ホビンなど守備隊の面々は……散々に棘付きの鞭で打たれ、血塗れになって、地面に這いつくばっていた。


「俺が何故怒ってると思う? 死体が無ェからだ。奴らの死体もお前らの死体も、一つも無ェって事はな? お前らが襲撃されたフリをして、商品を横流しした可能性もあるって事よ……次からは死体になる役を用意するんだな」


「……ち……ちがいます……俺達は本当に襲われ」


 ゲスピノッサの鞭が再び唸り、打たれた男は声もあげず血反吐を吐く。


「仮に違うとしてもだ。襲われて敗北したなら何人か死んどけって話よ。ちゃんと命張って戦ったんだって証拠によ」



 ゲスピノッサは返り血を拭ってから仕置き部屋を出る。

 入り江には彼の部下と男の商品が戻っていた。


 ここの場所を知らない取引相手を見つけ出し誘導する為、ゲスピノッサは一隻のガレオンと二隻のダウで出港した。男達は反乱を起こすリスクを避ける為、船倉に詰めなおして連れて行った。


 250人ばかり居た「商品」の中には、50人くらいの仲間入り志願者が居た。ゲスピノッサ達はその中から30人くらいを「商品」から「仲間」に引き上げ、性根の知れない15人を「商品」に戻し、反乱を企てたと認定された残りの者を「廃棄」した。



 入り江の波止場では「商品」を買いに来た側の密輸業者達が居た。入り江の外には彼らのキャラックが二隻、停泊している。

 密輸業者達は「商品」の一人一人をチェックし、年齢や健康状態、体格などで等級を分け、帳面に記載して行く。


 勿論周囲は武装した海賊に固められている。下手な動きを見せれば、まずは棒で殴られる。それ以上の抵抗をすれば銃で撃たれる。

 だが男達が海賊に抵抗出来ない理由は他にもあった。

 奴隷商人達はきちんと「商品」達の人間関係を把握していた。一緒に捕えられた女子供の、誰が誰の妻か、誰が子供か、兄弟姉妹か。そういう肉親の情も、奴隷商人達は情け容赦なく利用して来た。


 故にゲスピノッサ達からすれば、女子供が全員奪われたという事などは絶対に知られてはいけない事だった。男の商品達にも買い手の密輸業者達にも。


 女子供も船に乗せれば良かったのか。しかし古くから女を船に乗せるのは不吉と言われている。

 実際去年の今頃、奴隷女の一人に惑わされた者が居た。ベネロフとかいうその男は女ばかりかその夫と子供まで逃がしたのだ。

 有り得ない馬鹿だった。そいつはその女に夫と子供が居た事を後から知ったのにそれでも逃がしてやったというのだ。

 ゲスピノッサはベネロフをその場で八つ裂きにしてやろうかとも思ったが、そうはせず、より残酷な刑を科した。南大陸の砂だらけで何も無い海岸に置き去りにしたのだ。



 密輸業者のオーナーがゲスピノッサに近づいて言った。


「女子供の商品はどうした……日が落ちる前にね、ここを離れたいのだよ、夜のうちにダルフィーンから遠ざかりたいからね」

「先に男共を船に積んだ方がいい。姿を見ると騒ぎ出す男も居るからな……つまらない事で商品を減らしたくないだろう?」

「とにかく、日暮れ前には出港させてくれ給え」


 ゲスピノッサは勿論、内心苛立っていた。

 とにかくさっさと男だけ全員積ませてしまうか?だが船に積ませてから女子供が居ない事を告げたら、向こうにいいように値切られてしまう。積むのは取り引きをまとめてからだ。


「そうかい、そんなに急ぐのかい……実は明日別の客が来るんでな……無理して買ってくれなくてもいいんだが」


「人に無駄足を踏ませる気かね! 約束したはずだぞ!」


「待て待て、実は俺も困ってる、そいつは女子供だけ欲しいって言っててな……あんたは女子供は三掛けでしか買わないって言ってたよな? そいつは男の六掛けで出すって言うのよ、あんたの倍だ。俺だって懐は苦しいからな、子分共を養わなくちゃならねえし……」


「女子供なんか、三掛けでも高いだろう! かと言って男ばかりでも向こうの市場での値が下がるのだ! 約束通りの数と値段で売れ!」


「うーん、それじゃあ、男を八掛けで売ってやるよ。それでどうだ?」



 密輸業者が密かにほくそ笑む。200人を越える男を八掛けで売っては、女子供80人が六掛けで売れても損ではないか。仮にも商売をしているくせに、そこまで学が無かったのかと。

 ゲスピノッサは苦虫を噛み潰す。勿論ゲスピノッサも計算くらい出来る。だが間抜けのフリをするだけで相手がいい気になって、商売上の約束を破った事を無しにしてくれるなら、それでいいと考えたのだ。



 検査の終わった男達には、早速奴隷としての仕事が課せられた。入り江には今ガレオン船が浮かんでいる。広い入り江ではあるが、さすがにギリギリの大きさだ。


「お前ら!まずこいつを引き出せ!」


 各所に結ばれた綱を引き、まずガレオン船が入り江から曳き出されて行く。向こう側でボートを漕いでいるのはさすがに海賊の手の者だ。



 暫くしてガレオンが引き出されると、今度はキャラック船が曳き入れられて来る。


「客の船だ!絶対にぶつけるんじゃねえぞ!」


 キャラック船は幅が広い事もあり、入り江の入り口はギリギリ通れる程度だった。


 徐々に日が暮れて行く……海岸は南東向き、入り江の入り口は東向きなので、夕日は全く見えない。入り江の中は方々にランプが灯されている。かがり火もいくらか焚かれている。


「よーし、じゃあ商品を積もう。五人ずつ並べ! 下手な動きをしたら命は無いと思え!」


 勿論奴隷達には、女子供が居なくなった事は知らされていない。皆、もう一隻のキャラック船に乗せられるのだろうと思っていた。


 今日集められた者の多くは、南大陸沿岸をずっと行き、タルカシュコーンを遥かに越えて彼方の、さらに内陸の……戦乱に荒れた国から差し出された、あるいは略取された人々だった。

 家族ごと誘拐された者も居る。長く働き手になりそうな者は連れ去られるが、老いた者は残される。女は若く丈夫そうな者以外は残される。だから連れ去られて来るのは圧倒的に男が多い。


「さあ、早く歩け!」


 だらだら歩く男の背中を、海賊の一人がマスケット銃の砲身で押す……その瞬間。



「わああああああああーっ!?」



 悲鳴を上げ、空から一人、男が降って来て……波止場とキャラック船の間に空いた海面に落ちた。



「ワーッハッハッハッハ!!!! 私はー!! キャプテン・アルバトロス!! この!! マリキータ島の!! 王であーる!!」



 高い崖に囲まれた入り江に、その叫び声は木霊した。



「言ったはずだ! この島に住むなら、この私に税を払えと! 何故お前達は私の宮殿の前にかしずかない! 私の神輿を担がない! お前達の方から来ないから、私は自ら来てやった!! 王は寛大なのであーる!!」


――ターン!ターン!


 二つ、銃声も響いたが。


「ぐえっ!!ぎゃああああああああ!!」


 一人がまた、悲鳴と共に落ちて来て。


「お前達に命ずる!! 今すぐ私の宮殿に出頭せよ! 我が宮殿には久しくゴミが溜まり甚だ不快である!! 速やかに清掃し! 我が寝床を整えるのだ!」


 上からは依然、そんな声がする。

 そしてその声の主は、岩棚を繋ぐ通路を通り、どんどん下に降りて来るらしい。


「侵入者です!! ひ、一人!!」


――ターン。ターン。


 時折、乾いた発砲音が響くが。


「わははははははは! 王である私には弾など当たらない!!」



 下に居る人間の誰もが、判断に迷った。


 海賊達は思う。敵が一人だというのならとっとと上の連中で始末すればいい。奴隷達も、一人で暴れられた所で何の反応も出来ない。


 侵入者がもう少し大勢で、例えば10人20人で来たというのなら。海賊も奴隷を先に立てて応戦するだろう。100人200人なら?奴隷に応戦させる間に退路を探す。400人なら?海賊は逃げるだけだ。奴隷は反乱を起こすかもしれない。


 しかし敵は一人である。だが、その一人がなかなか片付かない。


「マンドラ!片づけて来い!」


 ゲスピノッサが苛立って叫ぶと、ゲスピノッサの近くに居た、二連装のマスケット銃を持った黒づくめに黒い半覆面をした男が頷き、近くの階段を駆け上がって行く。


「何の騒ぎだね、一体……」


 密輸業者が眉を顰めて言った。


「すまねえな客人。暫く使ってなかったからな……近くに狂人でも住み着いてたんだろう」

「なんだかんだで、遅くなってしまったな」

「だが、日没までにはまだ一時間はあるんじゃねえのか?」


 太陽は島の西岸ではまだ見られるだろうが、東岸ではもうマリキータ島の山の向こうに隠れて見えなくなった。



 奴隷商人や密輸業者、そして奴隷にされようとしていた男達。その中に、この瞬間入り江の外の海の中など見ている者は居なかった。

 皆言われた事をやろうとしているか、キャプテン・アルバトロスの顛末を見届けようと入り江の上を見ていたのだ。

 だから勿論、急に海の一部が澄み渡って来て、底に古いキャラック船が沈んでいるのが見えるようになっても、誰も気づかない。


 そんな海の中を、相当に泳ぎの得意な少年が一人、潜水して泳いで行く。その肩に泳ぎの苦手な少女を一人捕まらせて。

 少年は真っ直ぐ沈没船のマストに向かう。少女は手を伸ばし、その沈没船のマストに……触れた……




「な……なんだ……?」


 二隻のダウ船のうちの一方、ゲスピノッサの船長室がある方の船。今はゲスピノッサは下船していて、僅かな見張り役しか居ない。

 ゲスピノッサは奴隷と一緒の船に乗る事を嫌い、選りすぐりの水夫だけを選んだこの船で、海上で許される限り最高の贅沢をする事を好む。


 ハバリーナ号はその下から上がって来た。



「な、波が!? 違う」「なんだああ!?」「転覆する!!」


 盛り上がる海水に弾かれ、ダウ船は大きく傾き、一気に転覆した。さらに船底がバキバキと音を立てて裂け、ちょうど真っ二つになった船長室から、袋詰めの金貨や金銀の調度品、宝石箱などがどさどさと水中に転げ落ちて行く。


「船が浮かび上がって来た!?」「な、何事だあ!?」


 もう一隻の、密輸業者のキャラックの上も騒然となる。


「助けてくれ! 海に落ちた!」


 ダウ船から落ちた海賊は救助を求める。


 バン、バンといくつもの破裂するような音が響くと……誰もが目を疑う事が起きた。たった今浮かび上がって来た沈没船のマストに、すうっと、何も無い宙から帆が現れて、風を受けて膨らんだのだ。



『パスファインダー商会』



 どの帆布にも、どの帆布にも。大小の差はあれど、そう書いてあった。



「ちょ……ちょっと! 何ですかこれは!? 聞いてないよ!!」


 あまりにも場違いな、少女の甲高い声が、浮き上がって来た沈没船の船上から響いた。



 沈没船、ハバリーナ号。その船は今、この海峡を荒しまくる海賊であった頃の姿のままで、蘇ったのだ。帆の落書きを除けば。



 入り江に向かって突進を始めたハバリーナ号の正面には……ゲスピノッサのガレオン船の横っ腹があった。


「ぶつかる!!」「退避!! 退避!!」「畜生!!」


 ガレオン船は十分武装していたのだが、今回は奴隷輸送の為に出て来たので、大砲はあっても砲手が居ない。もっとも、こんな目の前に現れられては大砲を打ち込む時間など無かったが。


「うわああああああっ!!!」



――ド、ゴゴゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ!! ガシャアアアアン!!!



 轟音を上げ、ハバリーナ号の船首がガレオン船の脇腹を粉砕し、食い込んで行く。相互に船体が歪み、ひしゃげ、砕ける。



「おっ始めるよお前ら!! マリー商会長の為に!! もう一度死んでやろうじゃないか!!」


 ハバリーナ号の上で先程とは違う別の女が叫ぶ声がした。続いて……ときの声でも上がるかと思いきや。ハバリーナ号の乗組員達は黙って剣や斧、熊手などを……天に向かって突き出した……



 ハバリーナ号はどんどんガレオン船を横から押し込み、ガレオン船はやがて入り江の入り口を完全にふさぐ形で横からなぎ倒され、半壊して沈没、座礁した。その残骸構造は、ハバリーナ号から入り江へと繋がる通路のようになってしまった。




 入り江の外ではもう一隻の密輸業者のキャラック船の乗組員がその様を茫然と見ていたが。


「おい、どうするんだ! 早く逃げねえとやべえよ!」

「逃げろったって、オーナーはまだあの中に居るんだぞ……」

「知らねえよ! 俺達の命の方が大事だろうが!」


 キャラック船の船員達は、()()を見てしまった。

 主人への忠誠も畏怖もあったものではない。

 あんなものを目にしてしまっては……


 しかし、彼等には別の災難が待っていた。何者かが、海の方から舷側をよじのぼって来たのだ。


「ヒッ……ひゃああああ!! ゴリラだ!! ゴリラが舷側を上がって来た!!」


「失礼だな! そんな事言われたの初めてだぞ!!」


 騒ぎが始まったのと同時に、一気にボートで漕ぎ寄せたアイビス海兵隊。その隊長オランジュ少尉は、舷側の波除け版を乗り越え、キャラック船の甲板に舞い降りた。その後ろから、アイビス海兵隊が続々と上がって来る。


「全員武器を捨てろォォ!! 捨てねェなら文明の怒りを思い知らせてやる!! この野蛮人共め!!」




 半壊したガレオンからは、乗組員がどんどん入り江の方に逃れて来る。


「馬鹿野郎! 何逃げてんだテメエら!」


 入り江に居た海賊達は怒りの声を上げるが。


「たたた、助けて! 助けてくれェェ!!」

「化け物ッ! 化け物だッ! 悪魔だ、悪魔の仕業だ!」


 ガレオンから逃れて来る海賊達は、半ば正気を無くしていた。


「来たぁぁ!! や、や、奴らだぁぁぁあ!!」逃げて来た海賊が叫ぶ。

「何なんだパスファインダーとかいうやつは!」待っていた海賊が叫ぶ。



 ガレオンから逃れる海賊を追うように。彼らは現れた。

 ハバリーナ号の海賊達。

 彼らは一様に、筋肉や皮膚やその他の組織を全て失い、骨だけとなったガイコツであった。

 大勢のガイコツが服を着て、靴を履き、武器を持って……追い掛けて来るのだ。


「ぎゃあああああああ!!」「おたおた、お助けーっ!!」「お化けだああ!!」


 たちまちパニックが巻き起こる。

 しかもである。

 ガイコツ達の装いは個体によってまちまちだったが……一つだけ、共通点があった。

 皆、バンダナだったり、鉢巻きだったり、シャツの胸だったり……めいめいの場所に、様々な言語で、同じ言葉を書いた物を身に着けていたのだ。



 『社畜』 『社畜』 『社畜』



「そういう悪ノリやめてよ!! いつの間に用意してたの!!」


 ガイコツ軍団の後ろに、黒スーツのバニーガールが現れ、そう叫ぶ。

 世界は狂ってしまったのだろうか。誰かが思った。

すみません、長いので分割させて下さい。

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マリー・パスファインダーの冒険と航海
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