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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
泰西洋の白波

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勇者噂話「海を越えて突き進むぜ!」戦士噂話「街や塔を攻略だ!」僧侶噂話「新しい地図を手に入れました!」魔法使い噂話「中ボスを倒しますよ!」

エルゲラ「ざまぁみろ! あの封筒を渡してやりましたぞ!」

ゴリラ「ハッハッハー! でもあれ中身何だったんだろ」


一週間前。北大陸のどこかでの話。

 北大陸北西部、アイビス王国北部と海峡を隔てて接する島々には、レイヴン王国がある。内海諸国と比べれば歴史は浅いが、旭日昇天の勢いで海外進出を進めている、今、世界一勢いのある海洋国家だ。

 そのレイヴンの海軍省に最初の知らせが届いたのは9月18日の事だった。

 ハマームからレイヴン王国のブレイビスまで6000km超、それを23日間で繋いだ知らせは、レイヴン外務省を困惑と憤怒の坩堝るつぼに叩き落したのである。


「何をやっているのだあの馬鹿者は……」


 南大陸北部の各勢力の政治状況を脆弱であると断じ、レイヴン王国に利益を誘導する秘策があると、賢人会議を説得し予算を供出させ、これに成功すれば自分が次の外務卿であると勇んで出掛けたランベロウは、大慌てでハマームを脱出しようとした挙句、海賊の捕虜となり、ハマーム王家に身柄を買い取られたという。


 そしてハマーム王家は、ランベロウ氏が企て実行したファルク王子の暗殺計画について、レイヴン王国の関与の有無についての説明を求めて来た。


 レイヴンの今の外務卿、ロータス伯爵は自身が老境に差し掛かっている事もあり、若い野心家が次期外務卿を自称する事には寛大であったが、この失態には我慢ならなかった。


 タルカシュコーンでの失敗については、確かにランベロウを責めるのは酷と思えた。海賊の横槍を防げなかったのは海軍の怠慢でありランベロウの責任ではない。

 ナルゲスの干渉については、ランベロウは当地のささやかな海賊退治に協力したまでと主張している。最初はアイビス海軍を駆逐しターミガン海軍を呼び寄せ、アイビスとターミガンの対立を再燃させると言っていたはずなのだが。


 しかしハマームに関しては、全く弁明の余地が無い。


 そもそも何故ファルク王子の暗殺計画などという大事に、関与を疑われているのか?もし本当にランベロウがそんな事を企んでいたと事前に知っていれば、どんな事をしてでも止めていた。


 百歩譲って、どうしてもそのような奸計をめぐらしたく、自分の責任でそれを実行したとしよう。それがどうすれば、ここまで無様に失敗出来るのか。


 計画が明るみに出そうになるや、単身脱出を図るのも愚の骨頂だが、それにすら失敗して海賊に捕まった挙句、よりにもよって当のハマーム王家に身代金を払われ身柄を買い取られるというのは、最早無能を通り越し、レイヴン国王に直接銃口を向けるのと同程度の反逆行為とすら呼べるのではないだろうか。



 ハマームへの返答の使者は既に出ている。

 当然、レイヴン王国としての関与など認める訳には行かない。その代わり他の条件については全てハマーム側の主張を飲むしか無い。賠償金と身代金の総額は金貨50万枚にも及ぶ。


 ロータス伯爵としては、もう使者が戻るのを楽しみにする他なかった。金貨50万枚と引き換えに、ランベロウの身柄はレイヴン王国に戻って来るはずである。

 ランベロウが今ハマームでどんな扱いを受けているかは解らないが、レイヴンでランベロウを待ち受けている待遇に比べれば、おそらくそこは天国であろう。


 外務卿ロータス伯爵の執務室には、海軍事務次官ホライゾン、高等外務官ベルミットも居た。


「しかし閣下……この事件も含めた看過出来ない問題に関しては、ランベロウめの身柄の事とは別に、必ず対処しなければなりません」


 ベルミットは海軍の報告書を確認しながら言った。

 ロータス伯爵は溜息をつきながら、窓辺に向かう。


「何故ストークが今さら……」


 ストークとの関係はロータス伯爵の外務卿人生の誇りだった。この極北の小国は古い海洋国家でもあり、遠い昔から北の海洋の覇権を争って来たライバルだった。しかし少なくともここ三十年、レイヴンとストークは争っていない。

 ロータス伯爵が外務卿である間、レイヴンは完璧にストークを抑えつけ、飼いならして来た。

 新世界進出を果たしたレイヴンと、それが出来ないストークとの差は日増しに広がり、ストークは海洋に於いては半ばレイヴンの傘下となっている。


 愚かなランベロウの過去の報告書、ナルゲスのマクベスの報告書……

 そして気の毒なハマームのレイヴン総領事館の報告書。彼らは突然夜逃げしたランベロウのせいで、針の筵の上に居るのだろう。

 そうした報告書で繰り返し言及されている人物……ストークの男、フレデリク……一体これは何者なのか。


 マクベスの報告書によれば、フレデリクという男が最初に現れたのはアイビスだという。マクベスが言うには、ランベロウは個人的にアイビスのグラナダ侯爵を失脚させる計画にも関わっていたというのだ。これを阻止したのがその、フレデリクという男だという。

 それ以降、ランベロウはまるでその男に目をつけられてしまったかのように妨害を受け続け、ついにハマームの虜囚とまでなってしまった訳である。


 ロータス卿は腕組みをして、窓の外を見上げる。

 ストークへの使者も、今日出発するだろう。様々な情報を検討した結果、少なくともその男が北大陸を騒がせる大海賊、イノセンツィを使いランベロウを捕らえさせた事は間違いないらしい。

 イノセンツィはハマームとの交渉で巨額の資金を得たとも聞く。


「ハマームへの賠償金は支払わねばならないが……そこにレイヴン国民の血税を注ぎ込むのはお門違いという物……そうだな?」

「はい……しかし……」

「必ず、ストークに払わせるのだ。フン……一石二鳥とまでは行かないが……ストークの資金を剥がすには丁度いい状況とも言える。余分な資金は時に邪心を生むしな。彼らはレイヴンの傘の下でおこぼれに預かっているのだ」




 同じ頃。ナルゲスのとある酒場で、船乗り達は噂話に興じていた。


「聞いたか? あのイノセンツィが、ハマーム王家から金貨五万枚の身代金をせしめたらしいぞ」

「ヒエーッ! 五万枚って……お姫様でもさらわれたってのか?」

「それが、レイヴン人の外交官らしいぜ。ハマーム王家は人道的措置なんて言ってるけど、その外交官、何かヤバい奴だって噂もある」

「だけどこの話、そのイノセンツィを顎で使った黒幕が居るっていうじゃねえか」

「そいつはイノセンツィと一対一の決闘をして勝った奴らしい。名前は何だっけかな……」



 それを近くの席で聞いていたのはオロフという男だった。以前はハマームで働いていたが、主人が事件に巻き込まれて没落し、自らも逃げざるを得なくなった。

 ハマームの王子の暗殺未遂事件に関わったとされた主人は厳しい取調べを受けているとも聞く。自分もハマーム司直に追われ、ここまで逃げて来るのもなかなか命懸けだったのだが。

 それでも、その時の話をする事は、彼にとって実益を伴う楽しみの一つだった。この噂は南大陸北岸の船乗りの間では流行になっており、オロフが話をするといつも酒や飯をおごってもらえるのだ。

 今日もタダ飯タダ酒にありつけそうだ。そう思ったオロフがおもむろに話に入ろうとすると。



「お前等は運がいい……その話は誰よりもこの! フェザント海軍ハーミットクラブ号航海長! セレンギルが詳しく知ってるぜ!」



 別の席に居た奴が。オロフが声を上げる前に、椅子をくるりと回して話に入ってしまった。


「何しろ俺が乗っているハーミットクラブ号にその名前をつけたのがその! フレデリク・ヨアキム・グランクヴィストその人よ! お前達さっき何の話をしていた? イノセンツィ? 本物のイノセンツィを見た事があるか? 俺はある! 何故なら……この俺はフレデリク船長とイノセンツィの決闘を目の前で見届けたからだ!!」

「何ィイ!!」

「まじかよ!」

「何しろ船長、フレデリク船長はハーミットクラブ号で、イノセンツィのサイクロプス号に挑んだんだ! まあ……ハーミットクラブ号は小さなバルシャ船よ。サイクロプスったら甲板長40mって重フリゲートで、普通に戦ったって全く勝ち目は無ェ。それでフレデリク船長は、たった一人でサイクロプス号に乗り込んだ! 一人でだぞ! 俺は残念ながら連れて行って貰えなかった、だけどそれをハーミットクラブ号の船上から見届けた!」



 オロフは落胆した。先にそんな武勇伝を言われてしまっては……残念だがここでは自分が見たフレデリクの話をするのはやめておこうと思った。

 だが、この出会い、これはこれで悪くない。あのセレンギルという男が言っている事はなかなか真実味がある。よし。この話、俺もここで仕入れておいて、他所で使うのの足しにしよう。


 噂というのは皆に知れ渡るまでは価値があるが、皆が知ってしまえば価値は減る。

 フレデリク伝説はいい売り物になる。あまり安売りするのも良くないだろう。



「舞台は夕日差すサイクロプス号のマストの上だ、向こうの水夫は大勢で船長を追い回すんだが、フレデリク船長ときたら、まるで空を飛ぶようにマストの上を駆け回るのよ! 索具の上もヤードの上も、まるで陸地の上と同じように走り、飛び、そりゃあもうバッタバッタと敵を倒して行く、その姿ははまさに……」



 オロフはメモとチョークを出して密かに話の要点を書き留める。一部に真実があれば残りは創作でもいいのだ。噂というのはエキゾチックであればある程ウケるものだ……自分が話す時は、フレデリクは空を飛んだ事にしようか。

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