ハリブ「船縁やマストを垂直に駆け上がり目にも留まらぬ早さで銃に弾を詰め直す化け物だぞ、見た目に騙されるな」
マリーはこう言ってるつもり「船籍が無いとロングストーンの出入りが難しくなりますから、三隻とも私の商会の船という事にしませんか、無理にとは言いませんが是非ご検討下さい」
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実際のニュアンス「当たり前でしょ海賊船のままロングストーン入れないじゃない、三隻とも一旦マリーちゃんが没収ですわ。逃げたきゃ逃げてもいいけど次は無いわよこういうの」
思えばこれが私が商会長になった、新生パスファインダー商会の旗揚げかもしれない。
ヤシュムで先日も世話になった、アレクの顔見知りの商人、ナーセルさんにも協力を御願いした。
「願ってもない話だし、勿論協力させていただくよ、いやあ、最初に見た時からお嬢さんは只者ではないと思っていたよ。ヤシュムでの商品の集配は任せておくれ」
ナーセルさんは地元の貸金庫業者も紹介してくれた。資本金を預け、取り引きの際の出納を御願いするのだ。
港ではサアラブ号に他の船からも応援を呼び、船に応急手当を施していた。その水夫達が何か揉めてる風だったので、私がボートで近づき舷側から飛び乗ると。
「アンタ達何揉めてんのよ。マリーちゃん喧嘩はきらいよ」
「ヒエッ……なっ、何でもありませんマリー親分! すまねえなあ、兄弟達」
「いやいや、いいんだ、いいんだ、大丈夫俺達仲良しですから親分!」
慌てて仲直りをしている……まあいいけど。
「マリー親分! お騒がせしてすみません、おかげさまでうちもロングストーンまで航海出来る船になりそうです!」
ハリブ船長も飛んで来る。この人には服まで買ってやる事になってしまった。短い間でもパスファインダー商会の船長になっていただく以上、あんまり見苦しい格好で居られても困るのだ。
その日の夕方には、ヤシュムでの準備は全部終わった。一日中駆け回った私はへとへとだったけど、心地よい疲労とも言える。
港では少しばかりの野次馬が出来ていた。この小さな船団に、ちょっとだけ期待している向きもあるのだろう。
私は望遠鏡を手に、野次馬に目を凝らしていた。
「船長、何を探しとるのか知らんが、他の船の連中も待っとるようじゃぞ」
ああ……しまった。ロイ爺の言う通りです。すいません……
「とうとうマリー提督だな」
不精ひげが言った。船長になって今日で……ありゃ、99日目ですよ。やっぱり出るの明日にしようかしら……いや、今さらそんな……じゃ、行きますよ。
「不精ひげ! だらしなく御願い!」
「ば~つびょう~」
私は短銃を空に向け、引き金を三度引く。
―― ドン! ドンドン!!
ガレー船のジャマル号、ダウ船のサアラブ号、バルシャ船のテシューゴ号も錨を上げて行く……パン、パンと帆が風を受けて鳴り……ヤシュムの人々の期待と野次を背に、四隻の小型帆船はヤシュム港を出港して行く。
いたずらに商売を大きくせず地道に稼ぐ……あの誓いはどこへ行ったのだろう。割と最近そう言ったような気がするのだが……ニワトリ頭の私は覚えていない。
ヤシュムの宿屋街、今日も行けなかったな。次回は来れるだろうか。
船種はバラバラ、帆もバラバラなので船足が揃わず、今の編成では一番遅いジャマル号に合わせて、パスファインダー商会艦隊は進む。今回はちゃんと沖合いを真っ直ぐ走っている。
風は4時方向でまあ申し分ない。4ノット以上は出てるかな……出来れば60時間切りたいですねェ。
カモメの群れが追い掛けて来てるみたい……さては延縄を出してる船が居ますね?
「ロングストーンまで、魚獲りながら行くつもりかしら」
私は水夫マリーで会食室に居た。一緒に航海してる他の船の手前、バニーガールが使えなくなってしまったのが辛い。ぐえ。
「ああいう連中は何でもやるんだ。頼まれたら人でも貨物でも運ぶし魚が回って来たら魚を獲る……いい獲物が居るって聞けば海賊にもなるけど、本物の海賊が来たら逃げる」
テーブルの向こうには休憩中のカイヴァーンとぶち君が居る。
「海賊はやめないと他の船が来なくなるわよ。商売敵だって全く居なかったら市場も寂れるし、いい事無いと思うんだけどな……」
「あいつらだけじゃ何も出来なかったんだ。誰かが海賊はやめてもっと小さな商船にも来てもらおうって言い出しても、他の奴には伝わらない。ここには姉ちゃんみたいな人が必要だったんだよ」
機嫌のいいカイヴァーンはぶち君にブラシをかけている。私は船酔いで気持ちが悪いがこの子達を見ていると和む。この子達……
「ちょっとカイヴァーン立って」
「なに?」
「あんた背ェ伸びた!? 前は私より低かったじゃん!! 私と同じか……あんたの方が少し高くなってない!?」
「んー、成長期」
ぐえ。やられた……そのうち少年水夫でも雇おうか。アレクも不精ひげも船に乗ったのは12歳くらいからって言ってたな……
それから三つの晩が過ぎて、四日目の早朝。フォルコン号は三回目、私にとっては四回目のロングストーン港が見えて来た。これだけ出入りしてたら、本拠地って感じがして来ますね。
今度は不精ひげ以外全員、私について来た。それにサッタル、ハリブ、ホドリゴ……九人と一匹の大所帯でロングストーン市場へと向かう。
元海賊の三人はこの町を堂々と歩くのに気が引けるのか、フォルコン号乗組員の間に入って小さくなっている。
「あたしら本当にこんな所ほっつき歩いてて大丈夫なんですかね」ハリブ。
「俺ら、指名手配されるような大物じゃなかったけどよう……」サッタル。
「小船脅して通行料取るくらいの事はしてたけど、仕方無かったんです!」ホドリゴ……
「少し静かにしてないとマリーちゃんがおこになるのよ」
「す、すみません親分!」三人。
いや、こないだまで海賊だったみたいな話をされて、誰かに聞かれたら困るという話をしたかったんですけど……何か私のニスル語、おかしいのかしら、やっぱり。喋った後で思ってもなかった反応が返って来る事が多いような気がする。
造船、金融、流通、様々な仕事があって狭くて人の多いロングストーンの町。
もしかしてこの町では生鮮食品が不足していたのだろうか。
思えば私は何故かこの町で外食をした事が無かった。この町の食事は保存の効く食材で作った物が多いように見える。それは文化でもあるんだろうけど、生鮮食品の供給量も少なかったんじゃないだろうか。
「パスファインダー商会がまた野菜を持って来たのか。パスファインダー青果だね、ハハハ……いやいや、よく売れるから助かるよ。こういう嵩張るけど安い物を持ち込んでくれる船は少ないからな」
市場でもそんな事を言われる。ここは本来レイヴンの商品を売りに来て、ターミガンの商品を買って帰るとか、そうして大きく儲ける為の港なのだろうか。
みんなどこか他の町の為に働いているんだけど、この町の事はあんまり考えていなかった。私にはロングストーンがそんな町に見えて来た。
「結構いい値段で売れるんだなあ。へんなの。俺らがやったときには上手く行かなかったのによう」サッタル。
「そりゃあマリー親分だから、高く売れるもんが解るんだよ! 親分! これからもご指導御願い致します!」ホドリゴ。
「俺らがやっても上手く行く気しねえもんな……マリー姉さん、その辺りはどうしたらいいんでしょう?」ハリブ。
「あんた達の船足や特徴は解ったわよ。マリーちゃんがちゃんと考えてあげるからあんた達は汗水垂らして働くのよ?」
「マリー親分、万歳!」三人。
「船長、何かいつもと雰囲気が違うわね……」アイリ。
精肉、青果、日配品……そういうものを中心に持ち込むとしたら、こっちの需要を予測出来る目利きの人と組みたい……ロングストーンの銀行家に相談してみようか。
船の定期整備とかも手配した方がいいのかしら。難しくなって来た……頭パンクしそう……
やっぱり私の頭脳になってくれる人が欲しい。
ヤシュムへの帰りの積荷はどうするか。工業材料や肥料、道工具、保存食、オリーブ油……ヤシュムの購買力はまだまだ低いし……なるべく色々な物を取り揃えて行こうか……
あれ?
私今船酔い知らず着てるはずなのに眩暈がするような……ていうか今、海の上じゃないよね? あれれ。
「貴方達は商品を積み込み次第ヤシュムに向かって。ヤシュムの市場はとにかく商品不足なのよ。仕入れ代は今回はアレクが用意して、次までには銀行を用意しとくわ。ロイ副船長、後は御願い。マリーちゃん一旦船に帰るけどしっかりやるのよ」
私はそこまでニスル語で言って、ふらふらとその場を離れて行く。
「よし、準備を始めるぞい、各船、船倉の掃除を済ませておくんじゃ。アイリさん、船長と一緒に行っておくれ」
ロイ爺は何となく察してくれたようだ。忙しい時にすみません。
「どうしたの? マリーちゃん?」
私は角を曲がり、アイリとぶち君を除く他の皆が見えなくなった事を確認すると、そこにあった小さなベンチに座り込む。
「頭使い過ぎて熱出たみたい……」
「嘘でしょ……! やだ、本当に熱あるじゃない、いつから悪かったのよ……船より宿の方がいいんじゃないの、貴女船酔いするんだから」
今や三隻の傘下を従えるパスファインダー商会長、マリー・パスファインダー……その正体は、山育ちのお針子で船酔いも克服出来ない見習い船員、ちょっと考え事をし過ぎたら熱を出すアホの子マリーちゃん……全く酷ェ世の中でゴザル。




