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マリー・パスファインダー船長の七変化  作者: 堂道形人
泰西洋の白波

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カイヴァーン「大丈夫かな……姉ちゃんのニスル語って何か変な迫力あるから」

フォルコン号のマストには天秤の模様が書かれているよ。

うちは商船ですよって意味らしいよ。

 翌日は敢えてゆっくりと海を進む……風は8時方向で強く、波は高く……私の具合は悪く。水夫マリーは艦尾の柵にぶら下がって過ごしている。こう波が高いと船足を落としていてもあまり意味が無いなあ。船酔い的には。



 朝、昼……平和に過ぎて行く……そして夕方。



「艦尾に船影! 一隻……ガレー船だっけ? ああいうの」


 見張り台のアイリが叫ぶ。私はマストを登り始める。


「ちょっと、やめなさい船長、その服は普通の服でしょ?」


 私は水夫マリーのままネットを登り始める。

 揺れる……気持ち悪い……怖い……

 船酔い知らずの無い私の、なんと脆弱な事か。見張り台に登ろうというだけでこの有様。眩暈が……吐きそう。


「何でその恰好で登って来るの!」

「私、水夫っス……見張り台くらい登れるっスよ……」

「無理にキャラ作ってまで何してるのよ」

「可哀想だと思ったら船酔い知らずの魔法をですね」


 アイリさんの答えに期待せず、私は望遠鏡を覗く……手が震えるし眩暈がするし気持ち悪くて全然何も見えない。


「一昨日のガレーですかね」

「船長もそう見える? 私、船なんてみーんな同じに見えちゃって」


 すみません、本当は全然見えてません。



 昨日のバルシャ船はぶちのめした後、そのまま同行させていた。バルシャ船の船長は他の二人と比べ随分とお調子者で、商売させてやるから来いと言ったら喜んでついて行くという。

 今は100mくらい前を先行させている。あのバルシャ船もリトルマリーやハーミットクラブと同じ位の大きさだな……昔の流行りだったんだろうか。名前は確かテシューゴ号……違っててもいいや。


 そして後ろから追いついて来たのはやはり一昨日のガレー船だった。ジャマル号だっけ。順風なので櫂を出してない。マストは直ったみたいね。


 あのダウ船は時間がかかるだろうな。状態がまともなら一番速そうだけど、あれは最悪ヤシュムまで来れずに沈没しても仕方ないかもしれない。


 今日は着かないね、これ。前回は二晩で着いたのに。ぐえ。

 実際、ヤシュム到着は翌日の早朝になった。



「今日はキャプテンマリーにすれば?」


 艦長室に様子を見に来てくれたアイリが、そんな事を言う。アイリさんは私があの服を着るの嫌がってたじゃん。


「言っておくけど、皆ちょっともめてるわよ、誰が船長について行くかで。珍しくウラドまで自分が行くって言って」


 ウラドは鬼のふりをして海賊共を威嚇してくれるつもりなんだろう。私はそこまでする必要は無いように思っているけれど、面白いから連れて行こうかしら。

 とは言えあんまりゾロゾロ連れて行くのは良くないわよね。船がスカスカになるし、こっちが弱気になってるみたいで。



 私はお姫マリーで艦長室を出た。向こうもこの服の私で覚えてるだろうし、これがいいんじゃないだろうか。


「商売の話するんでしょ? 僕は連れて行くよね?」アレク。

「たまには私も役に立ちたい。海賊共が変な気を起こさぬように」ウラド。

「俺頑張ったろ? 戦う時頑張ったろ? 連れてってくれるよな?」カイヴァーン。

「船長はニスル語は不安じゃろ? それに知識は必要ではないかね?」ロイ爺。

「俺はいいわ」不精ひげ。

「連れてってくれるならもう一着船酔い知らずにしてあげる」アイリ。


「……ぶち君だけでいいです」私。



 不精ひげのボートで桟橋に上がった私は、ぶち君だけを連れて波止場の方へ歩いて行く。ここは港内どこからでも見えるはず。


 おあつらえ向きに、波止場沿いに屋台の飯屋がいくつかあって、表にテーブルや椅子がいくらか並んでいる。着替え前から残る軽い船酔いで食欲の無い私だが、港湾作業員の一団が炙ったパンに何かつけて食べているのに気を惹かれた。


 店の主に同じ物をと注文すると、それはアルガン油というここの特産品だと教えてくれた。しばらくして、それは炙ったパンと一緒にやって来る……木の実のような香ばしい香りのするオイルだ。いいですねこれ。


 ぶち君の為に頼んだ新鮮な魚も出て来た。結構大振りなイワシが一尾……これ、食べきれるのかしら。


 パンを食べ終わり、ミント茶を頼んでそれも飲み終わり、ぶち君が食べ終わっても誰も来ず、とうとうダウ船サラアブ号までヤシュム港に着いたようなのに誰も来ないので、私は海に向け短銃を立て続けに三回撃つ。

 三隻の船から慌しくボートが降ろされて来る。解れよ! 私が待ってるって気づかなかったんですか! 二時間くらい無駄にしたじゃん!!




 ガレー船ジャマル号、サッタル船長。私が撃ち落としたヤードが当たって気絶していた人だけど、見た目はかなりゴツい。


「あの、襲撃したのは悪かったしよう、命取らねえでくれたのも感謝するけどよう、た、大砲取り上げる代わりに、仕事貰えるってのが本当じゃねえなら……いや!逆らうとかそういう意味じゃねえよ、だけど俺達にも生活があってだな……」


 ダウ船サアラブ号、ハリブ船長。船長って事抜きにしてもそのボロ着は無い、演技で物乞いしてる人でももうちょっとマシな服を着てるよ……


「姉さんは船を直せっていうけど、直したって何に使うんだよ、税金ばっかりで荷物なんかいくら運んでも赤字だぜ……俺達だってさんざんやったんだ」


 バルシャ船テシューゴ号のホドリゴ船長はコルジア人ですね。パッと見は育ちの良さそうな垢ぬけたおじさんなんだけど、ずっと芝居してるみたいで胡散臭い。


「マリー船長、俺達本当に海賊なんかやりたく無かったんです、だけど堅気の商売は何度やっても上手く行かなくて、御願いします! 助けてください!」


 結局昼食近くになってしまっていたので、飯と酒をおごる。彼等同士もあまりお互いを知らないそうなので、固めの盃という事になるのか。


 さて……コルジア人のホドリゴ船長も含め、みんなニスル語で話すのね……私もニスル語で話してみようか。


「アンタ達それぞれ手下何人居るの。正直な数で言いなさいよ」

「残ったのは12人で」「4人降りて11人だけでぇ」「13人だけど3人降ります」

「降りたい人は降ろしてあげたのね?結構ですわ。足りないとこはちゃんとお金出して募集してやりますわよ。いい? 従業員には辞められないようにすんのよ? 三か月はマリーちゃんが給料出してあげるから」


 私も少し前までだったらこんな人達と席を囲むのは無理だったと思うけど、今はハーミットクラブ号で免疫がついているので結構平気である。


「三か月ですかい……その後はどうなるんで」

「その後はあんた達次第ですわ。船は返すわよ、気が向いたら」

「あの、返すってェ事は……俺達の船は……」

「当たり前でしょ海賊船のままロングストーン入れないじゃない、三隻とも一旦マリーちゃんが没収ですわ。逃げたきゃ逃げてもいいけど次は無いわよこういうの」


 大丈夫かな? 伝わってるのかしら。私の言葉と気持ち。何かみんな少し顔色を悪くしてるけど……一人称に自信が無いからいちいちマリーとつけてるんだけど、それが気持ち悪いんだろうか?


「酷ェよ……俺達だって食わなきゃならないのに」

「いやあ待て兄弟、マリー親分の船になればロングストーンに入って取引する事だって出来るって、そういう事なんだから……いいじゃねえか」

「そうそう、それで三か月経ったら返して貰えるって」

「言っとくけどそこはマリーちゃんの気分次第ですのよ?その三か月であんた達が船返しても立派に食って行けるか見てやりますわ。つまり真面目に商売してたら船は返す、そういう寸法。おわかり?」

「はえー、厳しいんだ」

「えっ、でもその間はマリー親方が食わせてくれるってェのか!?」

「さっきそう言ったでしょうが。ちゃんと聞いとけですわよ」

「へェ、すんません」


 私は今、かなり怪しいニスル語で話している。船長になる前は殆ど出来なかったんだけど、なんか慣れて来てしまった。いや本当に慣れているのか?自分の言葉がどういうニュアンスで相手に伝わってるのか解らないのがちょっと怖い。


 あと、どんどん自分が雑なキャラになって行ってるような気がする。ついでにエールも進む。昼間から何やってるんですかね私……いや、仕事か、仕事だな。


「三か月はマリーちゃんが食わせたげる。三か月経ったらよく働いた奴には船を返す、それだけですわよ。嫌なら海賊に戻ってもいいけど……」

「異論は無いッス!」「マリー親分万歳!」「マリー姉さん万歳!」



 あんまり細かいルールは決めなかった。どうせ始めたら色々出て来るだろうし、最初からああしろこうしろと言ってもやらないだろうし。ハリブさんとこだけは、もう少し船をちゃんとした方がいいと思うけど。

 どうかなぶち君? 私上手くやれましたかね? いやでも君、食事の後はずっと寝てたね……何故私はこの子だけ連れて来たのか。

 そして何故私はアイリを連れて来なかったのか。船酔い知らずを増やしてくれるとまで言ってくれてたのに。


 私はぶち君を連れて一旦戻る、一時間後に再集合だ。



 フォルコン号では三本ある望遠鏡全部使ってこっちを見ていたようだ……よりによってアイリが、リトルマリー号から持って来た父の望遠鏡を使っている……まだ父への愛情が残っていた頃の母が、私の父に贈り物として贈った痛い品物である。


 甲板に戻った私の元に皆が集まって来る。代表して聞いて来るのはアイリだ。


「大丈夫だったの? バカにされなかった? 変な事言われてない?」

「ええ、皆さん心を入れ替えて真面目に働くっておっしゃってましたよ」

「本当に……? 信じていいのかしら」

「人を信じないと人も信じてくれないんですよ。信じましょう」


 アイリは私を信じてくれた。いつも嘘ついてごめんなさい。昼間からエールはしんどい。一時間眠らせてもらいますよ。


 地元の零細海賊を使った町おこし計画。

 それを始めたのはパスファインダー商会のマリー・パスファインダー船長。

 船の名前はフォルコン号。

 もしまだ生きていて、その辺に隠れているだけなのでしたら。この噂が聞こえたら。とっとと出て来て下さい、くそ親父。

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